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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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29 アウストリ迷宮

「うわぁ。」

東大寺南大門の金剛力士像・阿形(あぎょう)吽形(うんぎょう)の様な鬼人族の戦士が、アウストリ迷宮の入口を守っていた。

そっくりな造形に思わず、クレハの声が漏れる。

「ご苦労、アギ、ウンギ」

そう労うイバラに、二人の戦士は、手にした金剛杵を体の前に掲げた敬礼の姿勢を取る。

『名前まで似てる。これ、他の所の門番さんだとどうなるのかな』

などと思いながら、二人の様子を窺う。

二言三言、業務連絡のような申し送りがあり、クレハたちは迷宮内部に足を踏み入れた。


迷宮とは言え、元は鉱山の坑道だ。

リ・リーたちが攻略した西のヴェストリ鉱山は、佐渡金山のように坑道が下に向かって掘り進められていく形の迷宮仕様になっていたが、ここ、アウストリ迷宮は、露天掘り鉱山が迷宮化したものだ。アメリカのソルトレイクシティにあるビンガムキャニオン鉱山がモデルだ。

すり鉢状に下に向かって緩やかに掘り進められた道に沿って下る。

ここは地の底、根の国。日の光は差さず、常夜の世界だ。にも拘らず、降りるにしたがって闇が濃くなっているような感じがするのは気のせいだろうか。


「最初の迷宮にここを選ぶなんて、やっぱり、貴女、ちょっと変わってるわね」

迷宮の階段状の外周を下りながら、そうル・ルーがからかう声が坑道内に反響する。「全然、迷宮っぽく無いわ」

クレハはこれは、名誉回復の為に、弁解せねば、と主張した。

「私はね、誰に何と言われようとも、立派な方向音痴なの。立坑や脇道だらけの坑道なんて、100%無理。角を2回曲がったら迷うわ。その点、露天掘りの鉱山から迷宮化したここなら、迷っても上を目指せば良いんだから安心よね」

くくく、とイバラが笑う。

「トラップが無ければな」

ガーン!

音が出そうなほど、クレハはショックを受けた。

そうだった。そんな、上に向かえば、簡単に脱出できるような迷宮を、あの、運営、いや、スポンサーが許す筈が無かったのだ。

「む、無理ゲーかも」


特に大きな問題も無く探索は進んだ。

坑道にはトロッコのレールが敷かれており、時々、それに乗って、クレハ達の横を走り去る旅人たちも見かけた。けれど、暫く経つと、ドーンと言う音が響き、叫び声の後に静寂が訪れる。トロッコ自体がトラップなのだろうなあ、とクレハは溜息をつく。

最初から、ゆっくり徒歩で下る事を選んだクレハを、馬鹿にして追い越していった者達の末路は、”振出しに戻る”、だ。

イベントが終わっても、この仕様は変わらないらしい。


「何組目かしらね」

と、いい加減ル・ルーも呆れている。

『ジェットコースターみたいで楽しんでるだよ』

私には無理だ、と思いながら、クレハは下調べの時に読んだ掲示板を思い出していた。


「あ、ここの壁」

右側の壁に沿って手をかざしながら歩くクレハが、立ち止まった。

何の変哲もない壁の様に見えるが、その奥に魔力の塊を感じた。

ここへ来て、自分がこのモンスターハウス探索に有用な探索機器になる事をクレハは知った。

彼女の現地人特典として、運営に与えられた魔力の視える能力は、旅人とNPCを区別するだけでなく、魔力だまりの発見にも使える事が分かったのだ。


それもあって、ゆっくりと歩いて進んでいるのだが、ル・ルーはともかく、それぞれの国のトップであるイバラとトーリン王は、こんなペースに付き合っていては、本来の仕事に影響が出るのではないか、と不安になる。

けれど、二人とも周囲の警戒と、たまに現れる魔物の討伐、無遠慮な旅人の対応を文句も言わずに、こなしていた。


「発動させますか?」

アンが迷宮の地図にトラップの印を付け、クレハを後ろに下げたバトラーがクレハの指差したポイント、少し飛び出した虹色の鉱石に手を伸ばす。

全員、油断なく準備をした所で、バトラーが、虹色鉱石を掴み力を込めて引くと飛び退った。

ドゴン!

鉱石の埋まった壁が勢いよく飛び出し、もし、そのまま鉱石を掴んでいたなら、直撃を食らい、坑道の下、真っ暗な奈落の底に突き落とされていただろう。

「飛び出す壁」

と、冷静にアンが、地図に書き込んだ。


そうこうして、トラップを調べつつ、セーフゾーンも書き込んでいく日々を送り、そろそろ、その日の探索を終えよう、と言う頃、ぞわぞわする魔力の塊をクレハは感じた。

「あ、これ、モンスターハウスかも」

そう言って、指差した先は、通路の脇の待避所のような空間。そこに出来た小さな水たまりだった。

壁を伝って、上から細く水が流れている。


「これが?ちょっと、ノルドリ迷宮のモンスターハウスとは毛色が違うわねぇ」

巨大フレイルのリボンを外して、先端の星状の鉄球を小さく揺らし、ル・ルーが嫌そうに顔を歪めた。

「貴女を疑う訳では無いが、この水たまりから魔物が湧くのか?」

イバラもメイスを油断なく構えたが、やや懐疑的だ。

アンがむっとするが、バトラーがそれを抑え、クレハを護るように二人は位置を取った。

「うーん、どうやったら、魔物が湧くかまではわかりませんが、その水たまりの魔力が半端ないのはわかります」

クレハの目には滴る水滴も真っ赤で、水たまりは血の池の様に見える。


「気持ち悪い」

流石にこの魔力濃度は、ハーフハイエルフの体には辛すぎる。一日の活動限界時間が近かったこともあり、一旦、帰る事にした。

少し離れた壁に、迷宮入り口でもらった鍵を差し込む。

光りのラインが走って、扉が生まれた。

扉の先はアギとウンギの守るアウストリ迷宮の入口。クレハたちは直ぐにオルドビス国に戻ったが、イバラは、モンスターハウスについて門番二人に説明すると言って、そこで別れた。


「大丈夫ですか?」

かなり顔色が悪くなっているのだろう。アンがオロオロと差し出すお茶を受け取るクレハの手が震えていた。そっと支えて飲ませてくれるが、飲み干す前に、クレハは強制ログアウトになった。


現実にまで気分不良を引っ張る事は無く、パチリと目を開けた紅葉は、大きく息を吐いた。

露天掘りの坑道迷宮とは言え、灯りも不十分で魔力に満ちた空間は閉塞感が強かった。

まだ、暑さが残るリビングで、しばらく、ぼーっと天井を眺める。

「甘い物が食べたい」

しかし、ここは現実。食べるならEECの中でなければ、全てお腹のぜい肉になる。

紅葉はラム酒入りチョコレートを手に苦悩する。

既に、手に取った段階で負けているのだ。せめて、一粒にしておこう、と口にしたチョコレートは、ほろ苦さと甘みがとても美味しかった。


翌日、ログインしたクレハを迎えたのは、涙目のアンと大きな体を小さくしながら謝るル・ルー、ちょっと闇落ちしかけたような目のバトラーに、気まずそうなイバラだった。

オルドビス国王のトーリンは、今日は流石に執務らしい。


あの後、アウストリ迷宮のモンスターハウスと思しき水たまりのあるエリアには、鬼人族の戦士を見張りにつけた。そこに迷宮探索に来た旅人の一団が、何かあるに違いない、と、制止を振り切ってそのエリアに侵入し、何も見つけられずに、八つ当たりで暴れた。壁を叩き、床を蹴り、その途中、クレハが指摘した水たまりにも、足を踏み入れた。

『ちきしょう、濡れたじゃねえか!』『ぎゃははー、だっせー』『うるせえ、馬鹿!』

そして、腹を立てた彼が、その水たまりに剣を突き立てた時。

水たまりに光が走り、扉が生まれ、それは内側に開き、旅人は飲み込まれ、そして。

魔物が湧き出した。

旅人たちは全滅し、鬼人族の戦士は、下の階層に飛び降りる事で九死に一生を得た。


当初の目的通りに、アウストリ迷宮のモンスターハウスは開かれた。


「本当に申し訳ない」

謝罪するイバラに、クレハは手を振る。

「何か問題がありましたか?旅人は自業自得ですし、モンスターハウスの解放が成されたなら良かったです。それより、見張りについていた鬼人族の戦士の方は、ご無事ですか?」

不意を突かれただけで、鬼人族の戦士が魔物に後れを取る事は無い、とイバラは断言した。露天掘りの迷宮の構造を生かし、らせんの坑道を上がって来る魔物を避け、救助隊を向かわせている、と言う。


「それよりも、バロネスの迷宮探索を途中で中断させてしまい、申し訳ない」

「あぁ。」

そう言えば、探索はようやく半分、と言う所だ。

「いえ、皆さん、政務でお忙しい中、付き合って頂いたのですから、こちらこそ、ありがとうございました。まだ、迷宮は三つもありますし、他の廃鉱山にも行きたいので、問題ないですよ」

「そう言う訳にも」

と考え込むイバラは、

「では、とっておきの迷宮の秘密をお教えしよう」

と言った。


ちょっと待って、それ聞いても良い奴?






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