収穫祭の頼み事
「前に食べたパスタよりもこちらの方が好みだな……って、そうではなくだな。急遽、二ヵ所ほど飽きができてしまってな。それで何か案があればと……当初は土筆たちには収穫祭の間はゆっくりと過ごしてもらい、殿下たちの晴れ姿や祭りを回ってもらおうかと考えていたが、この好景気に参加予定だった商会が買収されたり店を建てたりと露天の空きができてな。
その穴埋めに近衛か警備兵の手空きの者たちに屋台でもやせようと思ったのだが、美人大会と武術大会への参加者が異常に多くてな……収穫祭は近衛兵も巡回に回らせるのだがスケジュールを組むとカツカツになってしまって……どうか力を貸してくれないか?」
キッチンの椅子に座り海鮮焼きそばを綺麗に食べ終えたエルムレスの言葉に、土筆は屋台料理を思い描きながら笑美とココアにおかわりをするトクベリカとキャルロッテの分を炒める。
「屋台料理か……協力はできると思いますが、二ヵ所というのは離れた場所なのですか?」
「ん? 今なら領主権限で隣にできるぞ」
「領主権限……大丈夫なのですか?」
「ああ、元々そんなに離れていないから、三店舗ほど右にずれれば済む話だ。それよりも二店舗を使って何を料理する心算なのか知りたいのだが」
「折角の収穫祭ですからこっちの小麦を使った料理で粉ものを作ろうかと、トクサンには日本で買い物をお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
「ん? 買い物? 大抵の物は買って来れるけど……」
「はいはい! それなら私も一度戻って買い物を手伝うよ~ココアッチョに日本を見せてあげたい!」
「えっ!? いいんすか! いいんすか! 笑美の故郷に行ってもいいんすか!」
立ち上がり話の成り行きを見守っていたココアがテンションを上げて声を上げる。
「それは構わないけど、あんまりぞろぞろと歩いて目立つことは禁止よ。日本の土筆たちは失踪している事になっているからね~」
「えっ!?」
「失踪!? 失踪って何! 響きから大変そうな事が起こってる感じがする?」
土筆は素直に驚いたが笑美は言葉の通りに失踪の意味が解らず、その事に再度驚く土筆。
「え~とね、話すと長くなるんだけど、勇者召喚はあっちの土地神の力も借りてるの。そうなるとあっちの巫女や政府関係者もそれなりに事情を把握して協力してくれるわけ。召還された勇者はあっちに返す時には向こうの時間が召喚された一ヶ月後に送り返され、世界は二つの時間軸が生まれちゃうからそれを修正する為に色々とあるのよ。
それで手っ取り早く居なくなった者たちの説明は失踪。急に居なくなった事にして世間体から一年間どうにかするってだけね。色々聞かれて困るけど私は知らぬ存ぜぬで貫き通せば問題ないし、今は土筆たちを探している事になっているからね~」
トクベリカの言葉を聞いていた土筆は勇者召喚裏の秘密に色々な人に心配をかけているのかと罪悪感を覚えながらも焼きそばを盛りつけレレに配ってもらい、笑美は配られた焼きそばを口に入れハフハフと熱い息を漏らす。
「問題があるとしたら帰った笑美がこっちの事をペラペラと話す事ぐらいだけど……」
皆の視線が焼きそばを食べる笑美に集中するが、特に気にした様子もなく焼きそばを口にする。
「こっちで得た能力とかは向こうで使えるのかな? ほら笑美が水を出したり強制的に笑わせるハンマーとか」
笑美が会得した水魔法と女神ベルカから賜った微笑みの槌を思い出し口にする土筆に、ニヤリと笑みを浮かべたトクベリカはおかわりの焼きそば口に入れハフハフしながらも飲み込むと口を開く。
「水魔法は使えるけど頻繁には使えないわね。あっちは魔力が少ないから自然回復するには神社的な神聖な場所に数日行くしかないわね。微笑みの槌は神器だから今日背返納かな~ああ、指輪もね!」
「ええ~微笑みの槌は返してもいいと思ってたけど、水魔法があまり使えないとか困るよ~将来は水芸人になって水弾でツッコミをしようと思ってたのに~」
「あははは、笑美はボケじゃない! 何を言っているのだか」
ツッコミ所はそこじゃないと思う土筆だったが話を戻すべく口を開く。
「それよりも、買い物の話に戻しますね。屋台の料理は焼きそばとお好み焼きにしようかと思ってソースやマヨネーズを買って来て下さい。あんまり凝ったものじゃなくシンプルなお好み焼きにして、こんな感じの焼きそばとお好み焼きもフォークで食べられるように具を細かく切ったものにしようかと」
「こっちは箸を使わないからな。焼きそばならフォークでも問題はないだろう」
「はいはい! タコ焼き食べたい!」
「甘味は作らないっすか?」
「ピザの再販を希望されそうですね」
「ピザよりもチョコアイスの屋台は出るのかと、商会の者たちからは何度も聞かれたぞ。一度でも食べた事のある者からしたらチョコを食べるたびに思い出すのだろうな」
「あれは美味しかったですよね~ほろ苦さの中に冷たく甘い蕩ける風味があって……」
レレも思い出したのか表情を蕩けさせ、ココアやキャルロッテたちも思い出したのか同じように顔を蕩けさせる。
「タコ焼きは道具もそうだが手間が掛かり過ぎる。あれはその道のプロが作るものだな。お好み焼きと焼きそばなら鉄板だけで作れるし、具材の用意が楽だからな。焼きそばの麵も前日に茹でておけば……ナポリタンにするか! ナポリタンなら伸びた麺の方が味が絡んで美味しい……そうなると鉄板ナポリタン……ケチャップとお好み焼き用のソースにマヨネーズが必要になるな。スパ麺もあっちの方が……」
ひとり思考の海に沈む土筆。他の者たちはアステリアスの誕生祭の時に作った料理や土筆が作った料理を思い出しながら話を弾ませる。
「甘味でいえば大学芋が美味しかったなぁ~こっちだと甘芋だっけ?」
「まわりがサクサクで甘く、中はしっとりな大学芋ですよね!」
「にゃ~は甘いカリカリの小魚が美味しかったにゃ~」
「あーしは土筆の作った唐揚げが大好きだし、あれほど美味しかった料理は他に知らないし」
「自分はパフェが美味しかったっすね~色々なものが乗って見た目が美しくて好きなものがいっぱい乗っかっていたっすよ!」
「エルエルは、エルエルは、えーと、あーと、選べないのですよ! チョコさんもクッキーさんもケーキさんもパンケーキさんもみんな美味しかったのです! みんな美味しいと困ってしまうのです!」
「ふふ、エルエルは可愛いわね~笑美にはそんな時代なかったけどエルエルは可愛いわ~」
「何!? 私だって絶賛可愛い中だからね! ほらほら、この愛嬌のある顔とか、謙虚な胸とか、自由を愛するところとか! 私は魅力に溢れています! 寧ろ、魅力が溢れて中身がなくなっています!」
立ち上がりポーズを取る笑美の姿に焼きそばを吹き出しそうになるトクベリカと、それを避けるため対角線上から離れるエルムレス。
「私はガトーショコラが美味しかったな。苦みのある味わいとチョコの風味が鼻に抜け、紅茶で流す。複合的な香りに包まれ最高であったな」
「チョコを使ったケーキは美味しいですよね! パンケーキには蜂蜜の外にもチョコや生クリームをかけた事がありますがあれも美味しかったです!」
「チョコのパンケーキやクッキーも最高なのです!」
「そういえば、土筆たちが初めてここを訪れた時にチョコチップクッキーを出してくれたな。あの時はクッキーというものも初めて見て食べ驚いたものだ……箱で貰って取り合いになったな……」
「土筆が箱でクッキーを……ああ、これね!」
少ないヒントから思い当たるクッキーを指輪の保存機能から取り出すトクベリカ。薬局で大量購入したそれはトクベリカが常にストックしているものである。
「ああ、これだ。これを頂いたのだ」
もう十ヶ月も前の事なのに鮮明に思い出され懐かしむエルムレスと、躊躇なくそれを開け口に入れる笑美。
土筆は深い思考の海を潜りながら屋台の料理を決めるのだった。
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