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梶野宮家の転移家計簿  作者:
最終章 異世界召還に巻き込まれた者
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イレーネイルの暴走



 これはすごく良いですぅ~アステリアスさまには申し訳なく思いますがぁ土筆さまの体温が直に感じられますしぃ、何とかボンボンのせいかポカポカで気分も最高ですぅ。本の中に出て来るお姫様抱っこには多少なり憧れがありましたがぁ、こんなにも良いものだったのですねぇ。

 ふふ、寝たふりをした甲斐があったというものですぅ。お優しい土筆さまならきっとお姫様抱っこをしてくれると思いましたがぁ、本当にして頂けるとは……こんなにも近くで異性と触れ合ったのは初めてですぅ。心臓がドキドキして、頭の中がポヤポヤしますねぇ。


 馬車に乗り土筆にお姫様抱っこされたままのイレーネイルは暖かな土筆の体温を感じていた。時折、アステリアスの咳払いや殺気にも似た気配を感じながらも、土筆から聞こえる心臓の音と馬車の適度な揺れにウイスキーボンボンの強いアルコールが睡魔に拍車をかけ今にも寝落ちしそうな心地よさを感じていた。


「ううう、羨ましいのじゃ……酒に強い体質の自分が恨めしいのじゃ……」


「イレーネイルさまはあまりお酒を嗜まないからな。迷惑を掛けてすまない」


「いえ、笑美や輝も出かけた先で寝てしまった事が何度かありますし、よくリビングで寝落ちした輝を二階に運んでいましたから」


 エルムレスの謝罪に笑いながら大丈夫だという土筆。乙女たちは弟や妹と同等に扱われるイレーネイルに思う所があるが、口に出す者はいない。それに土筆が弟の輝を抱っこして二階に運ぶというシチュエーションに若干のトキメキを感じた腐ったイレーネイルは荒くなる鼻息を押さえる事に集中する。


 はぁ……イレーネイルさまは寝たふりをしていますね……恋に恋するお年頃なのかもしれませんが、何もアステリアスさまの前でお姫様抱っこされるとは……先ほどから横に座る私にも微弱な静電気が伝わっているのですが……あっ、バチっと来ました……


 レナは隣に座るアステリアスが嫉妬した事により無意識に放電する微弱な静電気を受けていた。アステリアス自体も髪がふんわりと盛り上がり激怒するまでではないものの、それなりに嫉妬の視線を向けているのだ。


「アステリアスちゃん、少し電撃を弱めて……そうだ! テレレレッテテー静電気防止髪留め~」


 指輪の保存機能から髪留めを取り出したトクベリカは自身の腕に嵌め、申し訳なさそうにするアステリアスと更にその奥に座るレナへ放電機能のある髪留めを渡す。


「むう、すまぬのじゃ……」


「いいよ、いいよ~不可抗力なのは解っているし、私がイレーネイルちゃんを抱っこして運ぶように土筆に言ったんだからね~円滑な人間関係を保つ秘訣は気遣いね」


 静電気対策よりもはじめからイレーネイルをお姫様抱っこするように提案しなければこんな事にならなかったと思う一同。


「この髪留めを腕に嵌めれば良いのですか?」


「ええ、そうよ。体に溜まった電気はあれか、雷の力を空気中に放電するわ。まぁ、少しずつだから一気に解消とはいかないけど、ドアノブを触ってバチリとなるよりはいいでしょ」


「お気遣いありがとうございます」


「うむ、助かるのじゃ……」


 アステリアスとレナが腕に静電気グッツを嵌めていると馬車が停車し、外からドアが開き笑顔を向ける近衛兵。


「お帰りな………………さいませ……せ」


 一瞬フリーズするもすぐに再起動し補助の手を差し出す近衛兵にアステリアスは「うむ」とだけ口にして馬車を降りる。乙女たちが続々と下車すると最後に近衛兵が乗り込み土筆に頭を下げて口を開く。


「あの、イレーネイルさまをお預かり致します」


「はい、お願いします」


 土筆がすんなりと肯定し近衛兵がイレーネイルを受け取ろうとするが、土筆の首に回した手はがっちりとホールドされ放す様子がなく、背中と太ももの裏に手を回し抱き上げた近衛兵は驚きの表情へと変わる。


「あの、イレーネイルさま、起きてらっしゃいますよね? 起きてますよね?」


 そう口に出した近衛兵にイレーネイルは「すぴー」と寝息を口にすると、困った顔を浮かべる馬車内の二人。


「仕方ありません。土筆さま、申し訳ありませんがこのままイレーネイルさまをお運び頂いても構わないでしょうか?」


「そうですね……寝かせる場所まで案内をお願いします」


「畏まりました。執務室の奥に仮眠室がありますのでそちらまでお願い致します」


 イレーネイルを土筆に預けると馬車から降りる近衛兵。その後を追うように出てきた土筆とお姫様抱っこされるイレーネイルの姿を目にした複数の近衛兵は目を輝かせる。


「イレーネイルさまが抱き運ばれている!?」


「成人したばかりのイレーネイルさまが土筆殿下を落としたというのか!?」


「これから冬に向かうのに春が来ただと……」


 そんな声を耳に入れながら貴賓館脇を抜けお姫様抱っこで歩く土筆。後ろからはニヤニヤしている笑美とトクベリカが続き、口を尖らせたアステリアスとキラキラした瞳を向けるココア。複雑そうな表情のエルムレスとレレ。レレにだっこされご満悦のペティート。

 ペルーシャは素早く移動し領主館入口へと向かいドアを開くと大きな欠伸をしながら尻尾をそわそわと動かす。


 移動中でも昼寝ができるのは羨ましいのにゃ~


 ペルーシャはマイペースであった……


 領主館へと足を踏み入れると多くのメイドたちから会釈されつつも、土筆が通り過ぎるとペティートを抱っこするレレを手招きする同僚たち。


「イレーネイルさまがお昼寝?」


「お姫様抱っこ!?」


「いったい何があったの!?」


「ん……私も抱っこ……」


 ペティートもマイペースであった……


「ちょっとした思春期の暴走でしょうか? イレーネイルさまも色々とお疲れだからだと思いますよ」


 レレの気を使った言葉に首を傾げるメイドたち。遅れたレレは急ぎ足で土筆たちを追うとソファーにペティートを放置し、執務室の奥へと進み本棚を動かすと扉が現れ、ベッドへ向かい毛布を開けイレーネイルを迎える。


「執務室の奥にこんな部屋があるとは知りませんでした」


「うふふ、いざという時の避難場所でもありますから秘密にして下さいね」


 メイド長が微笑みながら人差し指を唇に当てると土筆はベッドへとイレーネイルを下ろす。

 イレーネイルはあれだけ確りとホールドしていた手が自然に離れ、規則正しい寝息をしている所を見ると本当に寝てしまったのだろう。


「迷惑を掛けたな……このような事は初めてだがイレーネイルさまも乙女だったということか……」


 土筆へと頭を下げながら呟くエルムレス。その横ではアステリアスが唇を尖らせ、レナはホッと胸を撫で下ろす。


「わ、我も抱っこじゃ!」


 手をぎゅっと握りしめたアステリアスの勇気を出した声に土筆は後頭部を掻きながら困った表情を浮かべるが、アステリアスの隣で丁寧に頭を下げるレナの行動に「失礼します」と声を出すとアステリアスをお姫様抱っこする。


「ふほぉぉぉ」


 奇声を上げるアステリアスは頬を染め潤んだ瞳を向けるも、土筆は腕の中に収まるアステリアスの顔を見ないようにしながら離れの屋敷へと向かうのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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