チョコの伝道師 3
「何という口溶け……はふぅ~ん」
「硬さがまるでないだと……」
「溶けたチョコレートを売る方法があったとは……」
支配人のお嬢さまがだらしない顔を浮かべ執事や職員たちも驚いたり呆けたりと、生チョコを食べ表情を蕩けさせる。
「この調子じゃ話が進まんぞ。呆けてないで商品になるか判断し、次の味見をしてくれないか」
エルムレスの鋭い眼光に蕩ける表情を引き締めようとするが、口の中に残るチョコの香りとインパクトのある柔らかいチョコの食感が脳裏にこびり付いた支配人のお嬢さまは、右をシャキッとしながらも左は蕩ける表情でビジュアル的に恐ろしい感じを醸し出す。
「そ、そうですわね! 確りしにゃいと……あなた達もですわよ!」
「は、はい!」
「ですが、この生チョコを食べてしまうと自然と顔が緩み……」
「もう顔が緩んで目を開けたくない……」
生チョコのように柔らかいか表情を浮かべる職員たちにトクベリカがぽつりと呟く。
「ウイスキーボンボンとか出したらどうなるか、見てみたいわね」
「ウイスキーボンボン? ボンボンとは金持ちの事ですか?」
レレが首を傾げるとニヤリと口角を上げるトクベリカは指輪の保存機能からラッピングされた箱を取り出すと、バリバリと破き開封しまわりの視線を集める。
「おお~何やらお高そうな箱を開封していらっしゃいますねぇ~」
笑美が黒く光沢のあるラッピングや箱を感じ取り手揉みしながら背を曲げこびる姿勢を取るが、「笑美はダメだぞ。未成年だからな」と土筆から釘が刺さりこの世の終わりのような顔で肩を落とす。
「お酒の絵が描いてあるっすね。笑美はダメっす」
「ココアッチョもダメだよ!」
「解ってるっす! お酒には興味あるっすけど、暴れまわる先輩方を見てると飲まない方がいい気がするっすよ」
その言葉に顔を背ける大人は多いだろう。特に近衛兵たちのパワハラは酷いに尽き、土筆が離れの屋敷で住む今でも飲むと脱ぎだす者や、一気を強要する者や、許嫁自慢をする者などが多くおり一番下っ端のココアとしてはお酒を飲むことに抵抗があるのだ。
「ほら、成人している人たちに配るわよ~はい、はい、はい、チビウサ子は成人だっけ?」
「ん……まだ……」
そう言いながらも手を出すペティートだったがトクベリカは頭を撫でイレーネイルやエルムレスにアステリアスたちに配り、支配人や執事に職員たちにも配り終えると、最後に笑顔を向け土筆に手渡す。
「いや、俺はやめておく。この後の事もあるしな」
「あら残念。もう成人してるから少しは酔った姿を見たかったのに~」
トクベリカの言葉に耳を傾ける乙女たち。土筆が飲酒するところを見た者はおらず恋心を募らせているアステリアスとココアにメイド長が興味を抱くのは仕方のない事だろう。
「これは一口で口に入れなさいね。中に入っているアルコールがこぼれてもったいないわ! あむ、美味し~」
トクベリカがウイスキーボンボンを口に入れると次々に口に運ぶ乙女たち。支配人と執事に職員はその形状に興味を持ち手に持って観察していたがトクベリカの視線を受け口に運ぶ。
「うむ、香りのよい酒が入っておるが……強いのじゃ……我は苦手かもしれん……」
「うふふふふふうふふふふふうふふふ、これは美味しいです! これを作って頂きたいものですね! 岩妖精族たちが挙って買い求める事でしょう!」
「ああ、これはウイスキーボンボンだったな。チョコの中に砂糖に包まれたウイスキーが入っているのか。チョコとウイスキーの相性も最高なのだな」
アステリアスの口には合わなかったようだがメイド長とエルムレスの口には合ったようで微笑みを浮かべ、他の女性たちも普段からお酒を嗜んでいる者には好評なようで表情を蕩けさせる。
「これは中に入っている酒のポテンシャルがあってこそですな……ウイスキーと呼ばれる酒がチョコの美味さを引き立てているのですな……実に美味い……」
「口の中で噛んだ時の砂糖のざらりとした食感も楽しいですわね。このようなチョコはどういった発想で生まれるのか……土筆さま! どうか我々をチョコの世界へとお導き下さい」
深く頭を下げる支配人と執事に職員たち。土筆としてはチョコの世界といわれてもという思いだが、真剣に頭を下げるチョコ工場の人たちの気持ちは多少なり理解しているので手を貸したいと思う心もあり判断に悩んでいるとイレーネイルが口を開く。
「うふふふぅ、あんまり土筆さまを困らせてはダメですぅ。うふふふふぅ、ちゅくちちゃまはアステリアスさまのフィアンセになられるぅお方なのですよぉ~今日も無理を言ってここへお連れ下にょれすぅ~うふふふふぅ、何だか楽しくなってぇ~きましちゃ~」
顔を真っ赤にしたイレーネイルは支配人を指差していたが、その指は∞の字を描きふらふらとしながら土筆に支えられると「助かりますぅ~」と体を預け、更に困った事になったと思う土筆。
「イレーネイルは成人したばかりじゃからな……」
「お酒もあまり飲みませんから……土筆はそのまま領主さまを頼む。ここに出した料理は全てお前たちで研究するようにな。我々は領主さまがこの通りだからな、今日はこの辺で領主館へ戻らせてもらうぞ」
「えっ!? あの、チョコの伝道師さまだけでも残って……」
支配人の言葉に後ろ髪を引かれるが、右腕に絡みつくイレーネイルとココアと笑美に背中を押され退出する土筆。アステリアスは土筆の腕を取られて口を尖らせるがレナが優しくその背を押して「参りましょう」と口に出すと渋々ながら歩みを進める。
「今日あった事は極秘事項だからな。外部に漏らすことはせぬように、ああ、テーブルに並ぶ食器は後日、誰かに取りに来させるからな。では、失礼する」
「は、はい! 今日はありがとうございました!」
「チョコの可能性を見せて頂き恐悦至極にございます」
支配人と執事に職員たちに見送られエルムレスが最後尾に付き歩き出すと、見送るために走り出す支配人と執事。
裏口へと走り出した二人とそれを追いかける職員三人は中庭を全力で走り、お姫様抱っこする土筆とされるイレーネイルへ深く頭を下げる。
「態々見送らなくても大丈夫なのじゃが……あの酒は強かったのじゃ、無理して走るとアルコールが回るからの、注意するのじゃぞ」
「あ、ありがとうございます!」
支配人の言葉を背に馬車に乗り込むアステリアス。エルムレスの乗り込むと馬車は動き出し、それをいつまでも見送る支配人と執事に職員たち。
馬車の中ではイレーネイルを膝に乗せたまま座席に腰かける土筆の姿があり、イレーネイルは微笑みを浮かべたまま土筆の首に手を回し寝息を立てている。チョコ工場の長い通路を進むうちに夢の中に潜ったのだ。
「ううう、何と羨ましいのじゃ! 我だって土筆に抱き締められながら眠りたいのじゃ!」
「アステリアスさま、声が大きいですよ」
「うふふ、そうですよ。馬車内であまり騒ぐのは淑女としては失格です。何があろうと澄ませた顔でいませんと土筆さまに嫌われてしまいますよ。うふふふふ」
「少女を抱っこして悦に浸る変態はここですよ~お巡りさんは仕事して下さ~い」
トクベリカの冗談に乙女たちはキョトンとするが、土筆はギラリとした視線を向ける。
「冗談よ、冗談。まさかこんなにお酒に弱いなんて思わないじゃない。成人していると聞いてたし……おお、成人しているのならこのままベッドへゴー?」
「頼むから変な事を言わないでくれよ……それにトクサンは何でこっちのべ社に乗り込んだ! あっちに乗ってきただろうに……はぁ……」
「あっちは笑美とココアちゃんが乙女トークでピュアピュアしいからねぇ~私としてはイレーネイルちゃんの為にも何か力になってあげたくて! むふぅ~」
興味がありますという視線と大きく鼻息を吐くトクベリカに、土筆はイレーネイルの体温を感じながら早く領主館へ到着して欲しいと願うのだった。
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