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梶野宮家の転移家計簿  作者:
最終章 異世界召還に巻き込まれた者
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チョコの伝道師 2



 作られたばかりのチョコを冷やすのは氷魔法の使える若い夢魔族サキュバスの女性たち。地下室に作られたむろに運ばれチョコを棚に置くと魔法陣御設置された魔石に手を置きゆっくりと冷やされてゆく。室内は五度ほどに室温を管理し冷やし過ぎないよう注意しながら時間をかけてチョコを固めているのだ。


「うむ、冷やし固めるのだな」


「はい、急速冷却をすると口溶けに影響がでますのでゆっくりと冷やします。その為にこの冷却室を使いチョコの冷却と品質保持に使用しております。魔法陣の核にはフロストワイバーンの魔石を加工したものを使いました」


 自慢気に語る肩口の開いたドレスの女性は、寒さもお構いなしに胸を張りドヤ顔である。


「寒いですね……真冬のようです……」


「ん……レレは寒いのが……苦手……上に行く……」


「うむ、保存する場所なら早く出た方が良いじゃろう。我らも行くぞ」


 レレを追うように階段を上ると執事の服の男が先導し、試作室と書かれたプレートのドアを開け中へと足を踏み入れる一行。中はそれなりに広く甘い香りが広がり、今まで作っていたと思われる板チョコに生の果実を乗せたものや板チョコを三枚に重ねた物などがテーブルに広がっている。


「こちらは試作室となっております。職員は少ないのですが、この三名が新たなチョコを作るべく日夜試行錯誤を行っております」


 紹介された三名はうさ耳をしており、若い男女が緊張しながらも頭を下げる。


「うむ、チョコは女神ベルカさまが新たに生み出した甘味である。お主たちの活躍が後世に残るのは確実じゃ。気を入れて行ってほしいのじゃ」


 アステリアスの言葉に顔を青くする三名の職員。


「確かにチョコという新たな食材を神様から賜り、それを広めるのですわ。教会の方でも販売しておりますが、あちらは実を配っているのが現状。多くのチョコを食品として広めるのは我々ですわね!」


「そうですねぇ。あなた方が考え作ったチョコを民が食べるのですぅ。笑顔で食べられるものを作って下さいねぇ」


 領主であるイレーネイルからも言葉を送られ、うさ耳をピンと立てながらも名誉と期待に圧し潰されそうな試作職員たち。


「あの、チョコは板チョコだけを作っているのですか? クッキーに入れたり、一口サイズにしたり、飲み物にしたりとかは……」


 土筆の言葉に顔を青くしていた職員たちはあんぐりと口を開ける。


「ああ、紹介を忘れていましたね。ここにいる土筆さまがチョコの伝道師ですわ! 今のアイディアはどのような物なのですか? クッキー? 一口サイズのメリットを! 飲み物とはチョコを飲む? チョコの可能性を感じますわ! 即、採用ですわね!」


 ひとりテンションをMAXまで上げるドレスの女性に苦笑いの土筆は「アイテムボックスのスキルです」と言いながら皿に乗せられたチョコ入りのクッキーを取り出すと、試作室に備え付けられているテーブルに置き味見を進める。


「小さな硬パンの中に砕いたチョコが入っている?」


「一口で食べられるサイズですね……」


「チョコ以外にも甘い香りが……」


 試作員たちがクッキーを手に取り表裏や香りにサイズ感などを確かめていると、すっと手を出す笑美とトクベリカ。そこにドレスの女性と執事服を着た男も加わりチョコ入りクッキーを口に入れる。


「何と!? サクサクとした歯応え! チョコが小さいと思ったが、確りとチョコとしての風味がある!」


「チョコ入りなのにサクサクとした歯応えに驚きますわ!? チョコは口の中で溶かして食べるものと思っていましたが……クッキーというものに入れると全く違う食感になるのですわね!」


「何だか落ち着く味ね。あむあむ……あむあむ……」


「ちょっ!? トクサン! 食べ過ぎ! 後でまた作るから、ここは試作をする人たちに多く食べさせて!」


「まだこんなにあるじゃない……じゃあこっちの三枚重ねのチョコを……あむあむ……うん? 三枚重ねた味だわ! パリパリ感はあるけどそれだけね!」


 辛辣な意見を口にするトクベリカに連れてこなければ良かったと思う土筆。しかし、試作員たちの耳には入っていないようで、チョコクッキーを口に入れながら固まっていた。


「あとは果実をドライフルーツにしてチョコを纏わせた、これとか、チョコを使ったケーキに、ポテチにチョコを塗ったものとかもあったな」


 指輪の保存機能からチョコ菓子が次々に出現し、テーブルに広げられると目を輝かせる執事とお嬢様。


「まぁ!? こんなにもチョコを使った料理があるのですね!」


「この果実を半分に切りチョコを付けたものなど芸術品のようだ……」


「チョコケーキにガトーショコラにオレンジにチョコ付けたやーつ! バレンタインも真っ青になりそうなチョコパーティーだね!」


「オランジェットな。職員さんたちも色々と食べて見て下さい」


 固まる試作員に声を掛ける土筆。試作員たちはギギギと油の切れたネジのような動きで顔を土筆へと向け、視線はテーブルのチョコを使った甘味へ向ける。


「わわわ、私たちには荷が重すぎますよ! 支配人さま、どうか部署移動の許可を!」


「私だって無理無理無理無理! こんな芸術作品のようなチョコレートはいくら考えても浮かぶ気がしない! 部署移動を! 首でもいいです!」


「どれもチョコを使って作っている……信じられない……俺が作ったチョコなんてただ重ねただけだったのに……」


 ぽっきりと心の折れた試作員たちに優しい笑みを浮かべるお嬢様支配人と執事の男。


「これは目指す所であって今これを作れとは言いませんわ! まだ立ち上げてひと月、これからはこれを目指し努力し、新たな可能性を探すのがあなた達の役目です! 十年、二十年先に土筆さまの御作りになったこのチョコ料理を越えれば良いのですわ!」


「その通りだな……これは完成形のチョコであって、今すぐにこれを作る事をお前たちには求めない。それにこれだけのチョコ料理がいっぺんに民たちに広まったらどうなる。

 恐らく暴徒と化すだろう……この工場は襲われて究極のチョコを求める民たちは領主館へと向かうだろう……我々はゆっくりとチョコを民たちに慣れさせるのだ……」


 二人の言葉に崩れ落ちた試作員たちは顔を上げ、やる気に満ちた瞳を向ける。


「何だかコントみたいだね!」


「落ちが気になるわ!」


 笑美とトクベリカの呟きに土筆が振り返り人差し指を立て自身の口元へと持って行く。


「二人は自由過ぎ! 少しは静かにしてなさい! えっと、まずは味見でもして下さい。自分はさっき説明した生チョコを作りますから」


 立ち上がり手を取り合っていた支配人と試作員たちに声を掛けた土筆は、室内にある竈へと向かい湯煎し溶けているチョコを見つけ「使っても大丈夫ですか?」と了承を得る。


「は、はい! お好きにお使いください! それはチョコの実を溶かしただけのものです!」


 ひとりの試作員の声にお礼を言うと作業を始める土筆。


「ししし、試食しながらチョコの伝道師さまの調理を盗み見るのです! こんなチャンスは今後あるかどうか! さあ、盗み見るのですわ~~~~」


 支配人のお嬢様の叫びに教える心算でいた土筆は苦笑いを浮かべ、イレーネイルとアステリアスにエルムレスは呆れた表情を浮かべ、笑美とトクベリカは床に膝を付きお腹を押さえて爆笑である。


「えっと、説明しながら作りますね」


 土筆が振り返りそう宣言すると試作員たちの瞳からは涙が零れ落ち、執事の男は深々と頭を下げ、支配人のお嬢さまは目を見開き瞬きすらも忘れて生チョコの完成を凝視するのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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