輝たちとの別れと十月
「それじゃあ兄ちゃん! 僕たちは行くからね!」
「笑美はあんまり皆さんに迷惑かけないようにね!」
「土筆さま、色々とお気遣いして頂きありがとうございます。我々は帝都へ向かいますが週に一度はまた天界でお会いできますし、私が全力を持って二人を保護いたしますのでご安心下さい」
輝と美土里に天使長たちは勇者祭に向かうべくサキュバニア帝国帝都へと向け出発した。別れの挨拶を済ませると、うっすら涙する弟の輝が元気よく手を振りながら馬車から身を乗り出し手を振り、土筆と笑美は大きく手を振り返す。
「行っちゃったねぇ~」
「勇者様の旅はもうすぐ終わるっすね。あとは二ヶ月後の勇者祭をしたら元の世界へ帰るっす」
そう口にしながら手を振り続ける土筆へと視線を向けるココア。
ちなみに馬車は町の外へ出ると天使長の転移で馬車ごと帝都へ向かう予定である。
「あと二ヶ月ですか……早いですね……」
「うん、あっという間だよね~トクサンもこっちに来たし寝不足だよ~」
「あのイビキは少し大きいっすね……」
トクベリカが寝泊まりするのは離れの屋敷の二階にある笑美とココアの寝室に大きなベッドを入れ三人で使っている。昨晩、三名は寝るまで話をして楽しく女子会をしていたのだが、トクベリカが寝落ちするとセイウチのような鳴き声が寝室に響き二人は何度もその轟音に目を覚ましたのであった。
「ううう、輝に美土里がぁぁぁぁぁ、うえぇ~ん」
そんなトクベリカは二人との別れに涙を滝のように流し引く一同。別れが悲しいのは理解できるが今までもこの世界を旅して別れ離れだった事もありそこ撫で泣かなくてもと思う笑美。土筆はトクベリカの涙に若干もらい泣きをしている
「ほらほら、トクサン。みんなが引いているから屋敷に戻ろうね」
「うん……」
笑美に背中を押されたトクベリカは涙を拭いながら足を進め、土筆もその後を追う。
「トクベリカ殿は感情が豊かなのじゃな……」
「あれだけ涙するのも珍しい気もしますが……」
「トクベリカさまは急な独り暮らしで心を擦り減らしていたのです。落ち着きを取り戻していますがまだまだ繊細な状態。家族との別れが訪れれば涙も流れるというものです」
聖女の言葉に「それもそうじゃな」と口に出したアステリアスはレナを連れ土筆の後を追いかけ聖女が続き、メイドたちもイレーネイルとエルムレスと共に領主館へと戻るのだった。
「そうだ! 思い出した!」
離れの屋敷へとトクベリカを押しながら足を進めていた笑美が急に叫び体をビクつかせる一同。
「急にどうしたっすか?」
「びっくりさせないでよ~心臓が止まるかと思ったわ」
「ごめんごめん、あのね、メイドさんの話を盗み聞きしたんだけど、チョコレートのお店が新しくできたんだって! これは調査しないとじゃないかな!」
「ああ、それは俺も聞いてるぞ。イレーネイルさまとエルムレスさまから前に呼び出されてアイディアを出したし、レシピも提供したし、というかみんなで前にそれ用のチョコを食べて貰っただろ」
「ドライフルーツやナッツを入れたチョコっすね!」
「あれは美味しかったのじゃ! こりこりとしたナッツがチョコと混ざり美味しかったのじゃ!」
「干しブドウを入れたのもあったよね~」
「ベリー系のドライフルーツを入れたものが美味しかったっす」
「何それ! 私だけ除け者………………」
トクベリカが来る前の事でありそれは仕方ない事だと思う一同だったが、背中を押していた笑美はその大きな背中に抱き付き口を開く。
「トクサンが来る前の事だからね~一緒に行ってみようよ! 私が奢るぜ~」
「うほっ、奢りなら是非是非! いや~笑美は将来立派な………………何かになるわよ!」
言葉を濁すトクベリカにココアは苦笑いを浮かべ、土筆も何かとは何だろうと思案し、アステリアスとレナは二人して首を傾げる。
「立派なら何でもいいや!」
「それでしたらイーストの実を使ったパンも売り出され始めていますよ。五軒は営業を始めて大盛況だとか」
「おお、それならそっちも調査しないとだね! この木も大きくなったし実もいっぱいだね!」
離れの屋敷の両側に植えられたチョコの木とイーストの木は成長限界なのか、屋敷の屋根を越えた所で成長が止まり青々と茂った葉と多くの実を付け日差しを浴びている。
「まだ一年も満たないのに大きくなったよな~」
「主様が与えた木なのです! すくすく育ったのですよ~」
土筆の頭の上から嬉しそうに木々を見つめるエルエル。
「一般家庭の家でも申請すれば育てる事ができるようになりましたからね。貴族の間ではチョコやイーストを使った料理が流行っているそうですよ」
「それはメイドさんたちも噂していたっす。それに伴ってか氷魔法の使える者たちが冒険者ギルドから引き抜かれたとか、氷魔法の需要を見越して孤児院などから養子縁組をする者が増えたとかっすよね」
「うむ、それはあまり感心せんのじゃ……要らぬトラブルは先に潰した方が良さそうじゃな……我はイレーネイルと少し話をしてくるのじゃ」
「お供いたします」
アステリアスはレナを連れて領主館へと戻り、土筆たちは家に戻るとリビングでゆっくりとした時間を過ごしながらお出かけの予定を組んでゆく。
基本的には家事をする土筆以外の予定はなく、笑美とココアの訓練も自由参加なため予定が組みやすい。一緒に行動するであろうペルーシャは土筆が行くのなら警護の為に強制参加であり、聖女はダンジョンの町の教会が落ち着いたこともあり暇をしている。
「じゃあ、私とココアに兄ちゃんとペルーシャ。トクサンは参加で、」
「はい! 私もお供します!」
「聖女ちゃんが行くなら専属メイドのペティートもだよね。そうするとレレさんもかな~」
「私は土筆さまの料理補助がお仕事ですから、料理に関する事なら一緒に行動できます」
「ん……一緒がいい……」
「エルエルも土筆と笑美にみんなを守るのですよ~」
レレとペティートにエルエルの参加も決まりここにいる者たちの参加が決まる。
「チョコレート屋さんとパン屋さん以外にも屋台の料理とか調査したいな」
「調査っすか……それなら地元に詳しい近衛の誰かに案内してもらう方が確実っすね」
「ココアッチョ、ナイス意見! レガンス領出身の近衛って、誰かな? エルムレスさんが長い事いるのは知っているけど」
「それでしたらお姉ちゃ……シスターピアネが地元ですし、私も地元ですよ。姉妹揃って孤児だったので教会に育てて頂きましたが地元です。私は幼い頃に女神ベルカ様の神託が聞こえ帝都の教会本部へ送られましたからあまり詳しくありません。ですので、お姉ちゃんに聞けば案内ぐらいして下さると思いますよ。
教会は民の声を聴く事も多いですからその手の情報は集まりますし、子供たちに任せ一緒にチョコを食べるのは喜ぶと思います」
聖女ペアネは微笑みながら進言すると「それだ!」と指差し声を荒げる笑美。
「子供……喜ぶ……チョコ……最高……」
「子供たちの笑顔を見ながら一緒にチョコを食べるのは良い案ですね」
「そうだ! ハロウィンしようよ! 子供たちと一緒にお菓子をくれないと悪戯し放題だぞ~って!」
「し放題は困るわね。私なら確実に飴の一個でも渡すわね……」
トクベリカが口にするが異世界にハロウィンはないようで首を傾けるレレとペティートに聖女。
「ハロウィンは収穫祭だっけ? 子供たちがお化けの仮装して近所の家にお菓子をくれないと悪戯するぞ~と声を掛けて回るイベントですね。十月の最後にするはずだけど」
「異世界ハロウィンを開催します!」
笑美が立ち上がり宣言すると乙女たちから歓声が上がる。
「それならお菓子の準備……って、話が脱線しすぎだな。町に出るならエルムレスさんの許可を取らないとだな」
土筆が話を戻し、明日は市販されているチョコとパンを買いに出かけるのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。




