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梶野宮家の転移家計簿  作者:
最終章 異世界召還に巻き込まれた者
444/455

噴パンケーキ



「土筆~土筆~大変なのですよ~トクベリカさまが泣いているのですよ~」


 土筆の頭の上に座り声を上げるエルエル。土筆は「大丈夫だからな」と言い聞かせながら手を動かす。


 小麦粉をふるい、ベーキングパウダーを入れ、卵を割り入れ、牛乳と砂糖を入れ混ぜると、熱したフランパンに油を薄く塗り生地を流し入れ焼き始める。


「これで元気になるのです?」


「ああ、元気になるぞ。トクサンの好物だからな。前に笑美と喧嘩した時はこれを半分こして仲直りしたし、転んで泥だらけになって帰ってきた時もパンケーキを焼いたら笑顔になったしな。トクサンにとって特別な料理なのかもな」


 生地の様子を見ながら昔を思い出し心配するエルエルに声を掛ける。


「パンケーキさんは凄いのです!」


「うちはみんなパンケーキが大好きだからな。夕食もパンケーキにするのもありかな~エルエルもパンケーキは大好きだろ?」


「はいなのです! パンケーキさんは甘くてふわふわで蜂蜜さんがトロトロで幸せなのですよ~早く焼けて欲しいのです!」


 土筆の頭の上に座りフライパンで焼けるパンケーキを見ながら話すエルエルは、先ほどとは違い笑顔を浮かべ頭を左右に振る。


「なら頑張って焼かないとだな」


「お手伝いするのです!」


 エルエルが頭から舞い降りるとドアノッカーの音が響きレナが向かうとレレとペティートにパティートの姿があり、レレの手には大きなベッドをセカンドバックのように持ち、ペティートとパティートはそれに敷く布団を二人で協力して運び入れる。


「ん……いい匂いがする……」


「トクベリカ様のベッドを持ってきたのですが……」


「ふぅ……ベッドはどこに置くんだ?」


 迎え入れると目を赤くしながら山盛りのパスタを食べるトクベリカの姿が目に入り頭を傾げる三名。


「リビングの隅に置いて下さい。どこでお休みになるか聞いていませんので、土筆さまが落ち着いたら運び入れましょう」


 レナの指示に従いベッドを置き布団を置くとキッチンから現れる土筆。その手には三段のパンケーキが積み重なりバターが溶けメイプルシロップの香りにペティートとパティートが鼻をスンスンと動かす。


「パンケーキも焼きましたが食べます?」


「もごもご……だべる! ごっくん……食べる! 絶対食べる!」


 山ほどあったパスタも三分の一を残すほどになり近くで見ていたアステリアスは驚きの瞳を向け、やってきた三名はパンケーキの香りとビジュアルに羨ましそうな瞳を向けた。


「レレさんたちもパンケーキ食べますか?」


 土筆の言葉に目を輝かせるパティートとパティート。トクベリカは前に置かれたパンケーキの乗る皿を自身に近づけ、これは渡さないという瞳を向ける。


「これから新しいのを焼きますから、トクサンのは取りませんからね」


「それなら、お手伝いしますね」


 レレが手伝いを申し出ると二人はキッチンへと消えて行き、トクベリカは食べるペースを上げて行く。

 ハイペースで消えて行くパスタを見つめながらアステリアスは、ライバルだと思われているトクベリカの食欲に圧倒されていた。


 あれほどあったパスタが見る間に減ってゆくのじゃ……それに表情まで丸みを帯び優しそうな……土筆もパンケーキを焼いてから持って来たのじゃ……どれだけ食べるか理解しておるし、それを当たり前のように受け入れる……

 我の時は必ずと言っていいほど聞いてくるのに……二人には特別な信頼関係でもあるように思えるのじゃが……むぅ……


 アステリアスが思案し、レナも同じような事を思っているとパスタを食べ終えたトクベリカは、パンケーキへ手を伸ばしナイフを入れ大きな口を開ける。


「むむむ、メイプルの香りが食欲を増進させるわめ!」


 その衝撃的な言葉に口をあんぐりと開けるペティートとパティート。ペルーシャも同じように口を開け驚き、アステリアスとレナに関しては呆れた顔で消えゆくパンケーキを口に入れるトクベリカを見つめる。


「トクベリカ様は元気になったのです?」


 加速する食欲にエルエルが尋ねると口いっぱいに入れたパンケーキを飲み込み、微笑みを浮かべるトクベリカ。


「そうね……元気かな……やっぱり土筆の料理は元気を出させてくれるわね! ただ、そろそろ冷たいお茶でも……」


「それならこちらに、土筆さまから持って行くよう頼まれました」


 木製のカップにはよく冷えた麦茶が入れられトクベリカへと届けるレレ。


「土筆は凄いのです! トクベリカ様のオーダーを先読みしているのです! 未来視のスキルなのです?」


「未来なんか見えないよ。トクサンならそろそろ飲み物を欲しがると思っただけだし、みんなにも麦茶を持って来たよ」


「うむ、我も喉が渇いたのじゃ」


「そうですね。手伝います」


 土筆の持つトレーからカップを受け取りレレと協力して麦茶を振舞うレナ。


「レナさんお願いしますね。焦げる、焦げる」


 慌ててキッチンへ戻った土筆はパンケーキを裏返し焦げていないことを確認すると、きつね色の焼き色に満足そうに頷く。


「いまの動きは速かったぞ」


「ん……いまの動きは珍しかった……」


 ペティートとパティートが早く動いた土筆を笑い、レレとレナも笑い出すとアステリアスも珍しく高速で動く土筆に肩を震わせ、トクベリカは噴パンケーキになる寸前に手で口を押え付ける。


「と、トクベリカ様が大変なのです!?」


「大変というよりも避難した方が!」


 近くにいた乙女たちは口を押えて頬をハムスターのように膨らませたトクベリカから距離を取り、噴パンケーキに備えるがゆっくりと頬のサイズが戻り咀嚼し飲み込むトクベリカ。


「ふぅ~死ぬかと思った……ごくごく、ぷはぁ~ちびっこのうさ耳子たちめ~」


「ん……ごめん……」


「わり~わり~、それにしてもよく噴かなかったな!」


 フレンドリーに謝る二人に神の分体としての威厳や恐怖を感じないのかと思うレナとアステリアスだったが、微笑みながら「次からは気を付けるのよ~」と優しく声を掛けるトクベリカの言葉に胸を撫で下ろす。


「良かったのです~心配したのですよ~」


「死ぬかと思ったは冗談よ。こんなにも心配されると申し訳なくなるわね。あっちでは半年ぐらいひとりだったけど……何か、嬉しいわね!」


 笑顔のトクベリカにエルエルも笑顔へと変わり、土筆が到着すると更に笑顔になるエルエルとペティートにパティート。その手には六段に積み上がったパンケーキがそびえバターの溶ける香りとメイプルの香りが立ち込める。


「ん……凄い!」


「パンケーキの山だぜ……」


「夕食の事もあるからみんなで分けような。トクサンは流石にそろそろ……」


 最後のひと欠を口にしたトクベリカはナイフとフォークを構えるが、土筆の言葉に武器を置きお腹を押さえる。


「確かにちょっと食べ過ぎね……」


 ちょっとではない、と思うトクベリカ以外の乙女たち。


 湯気を上げるパンケーキからバターが溶け出し、それを切り分ける土筆を見ながらトクベリカは満足げに満帆になったお腹を摩るのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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