不審者
「よっと、ふむふむ……こりゃ強固な結界だこと……ドラゴンに踏み潰されても維持できそうね……」
トクベリカはレガンス領の領主館前の大通りに転移していた。本来なら領主館の中へ転移する予定だったが強力な結界に阻まれ出現位置をずらされたのだ。
「転移した目撃者はいなそうだけど……結界の解除は大事になるだろうし、こっそり入るには三つある一口のどれかから入るか、結界に干渉して通り抜けるか……ふひひ、こういうの楽しいねぇ」
片手で口を押えながらも楽しみながら鋼鉄製の高い柵に手を掛けるトクベリカ。
「何をしている!」
「不審者か! いや、泥棒か?」
入口の門番たちから遠い事もあり問題ないと判断したトクベリカだったが、領主館のまわりを走り自主練をしていた近衛兵三名に声を掛けられたのだ。
「誰が不審者だ! 神々しい私は……ん?」
自身の口から出た言葉に頭を傾げるトクベリカ。草臥れたフリースには多くの毛玉が現れ、ぼさぼさの金髪に素足という姿である。部屋から転移したこともあり靴を履き忘れていたのだ。
「獣人でも靴を履くというのに……」
「明らかな不審者だな……」
「住民票を持っているとは思えないが……」
三名の近衛兵に呆れられながら距離を詰められるトクベリカ。まさか、異世界ではなく自身の本体が管理する世界でポリス沙汰を起こすのは気が引け、戦術的撤退をしようと新たに転移を発動しようとした時だった。
「あんれ~トクサンにそっくりな人がいる?」
鋼鉄の柵を挟み笑美が頭を傾げ声に出し、ココアは不審者を見るような瞳を向ける。
「笑美! ちょうどいい所に! 助けて! このジャプンとサンデリアとマガジリアの三人に、私が実は素晴らしく人徳のある美人で、知的で昔はもっとスリムだって伝えて!」
必死な声を上げるトクベリカに笑美は爆笑である。隣にいたココアは笑っていいか解らず苦笑いを浮かべる。
「な、なぜ、笑美さまの名を知っている!」
「それに私たちの名前まで……」
「もしや、どこぞの密偵か!」
普段から鑑定機能を使い名前を間違えないようにしていたトクベリカ。
商店街などではその効果は絶大で、何かしらの買い物を土筆に頼まれた際に店主や看板娘の名を呼ぶことで親しくなりオマケしてもらっていたのだ。そのパッシブスキルをナチュラルに発揮し、近衛兵まで名前で呼び不審者から密偵へランクを上げるトクベリカ。
「あはははははは、昔はスリムだって! 無理無理無理! あははははは」
「わ、笑ってないで助けなさいよ~中一までオネショしてた事ばらすからね!」
その言葉にピタリと笑い声を止める笑美は頬を染めながら隣で肩を震わせるココアを見つめるが、同時に顔を背けるココア。
「あの~、この人は不審者ですが知り合いで~その~中に入れてもいいですか?」
腰を屈め手を擦りながらお願いする笑美の姿に、トクベリカは胸を張りドヤ顔をして近衛兵三名を困らせるのであった。
「で、このトクベリカという人が土筆の言っておったトクベリカなのじゃな?」
「ふふふ、その通り! 名義上は大魔王の妹という事で日本の生活を調査しているスーパー美女で、近所の商店街のみんなの視線を集める超絶美女ね! 向こうでの生活はそこそこ楽しかったけど、あまりに寂しいからこっちに来たわ! ああ、土筆が出してくれる食材を買っていたのは私だからね。その辺は感謝するといいわよ! むふぅ~」
鼻息荒く自己紹介をするトクベリカは領主館に入ることは許可されたが、それでも入り口近くにある詰所で質素な木の椅子に座りアステリアスとレナに笑美とココアへと自己紹介をしていた。
「うむ、その事には大変感謝しておる。異世界の食材や技術を提供はこの世界を発展させるのはもちろんじゃが、このレガンス領を発展させておるからの」
「醤油や味噌に砂糖もそうですね。あれがなければ土筆さまも料理ができませんし感謝しております」
素直に頭を下げるアステリアスとレナ。トクベリカは何度も頷き優越感に浸りながら、お茶が出ないのかしらと喉の渇きを覚える。
「向こうでひとり寂しかったの?」
「当たり前でしょ! 急に一人になって……寂しくてこんなに痩せたわ! あのグラマラスな胸がこんなに萎んで……」
「あと二年ぐらいひとりで生活した方が健康になれると思いな~」
「酷い! 笑美が酷い! 世界を超えて会いに来たのに笑美が酷い件! まあ、それはいつもの事だけど、輝と美土里がこっちを覗いているのが気に入らないわね! 天使長もいるのなら顔を出しなさいよ!」
詰所の入り口からトクベリカの姿を覗き見していた三名が現れ、真っ先に膝を付く天使長。
「申し訳ありません。異世界へと旅立ったトクベリカさまのお姿があまりにも変わり、自身の鑑定スキルを疑っておりました」
「ん?」
「はい……」
頭を傾げるトクベリカと膝を付き重い返事をする天使長。
「ああ、薄っすらだけど痩せたトクサンがブランコに乗っている姿を覚えている気がするわ……」
美土里の言葉に満面の笑みを浮かべるトクベリカ。輝と笑美は嘘だろという顔で美土里を見つめる。
「それよか土筆に聞くといいわよ。で、私は自由に動き回れるのかしら? 身分証はないけど天使長が身分を保証してくれるでしょ」
「はい、この御方は間違いなく女神ベルカさまの十九番目の分体であらせられるトクベリカさまです。地球という異世界の日本という場所で勇者を認定し、こちらの世界へ送る任を受けております。他にも文化の調査やあちらの神々との交流などもしておられているのですが……」
「あっちにひとりは寂しいので来ました! 輝~会いたかったよ~へぶぅぅぅぅぅ」
椅子から立ち上がり近くにいた輝へと抱き着こうとするが、輝の両手から光り輝く半透明の壁が現れ完全な拒絶を受けるトクベリカ。それはまるでガラスに当たった鳩のように両翼を広げて顔を押し付けたかのように変形し、ゆっくりと崩れ落ちる。
「な、何で拒絶する! 酷い! 姉弟揃って酷過ぎる! 美土里はハグしてくれるよね!」
床から立ち上がりながら指輪の保存機能に収納されている薄い本を取り出すと、かけていた眼鏡が輝きを放つ美土里。
「ふっ……去年の新刊など……」
そういいながらも両手を広げる美土里に、輝は膝を付き続ける天使長の腕を取ると詰所から逃走し、笑美は生暖かい目を向けながらもココアをそっと逃がす。
アステリアスは抱き合うトクベリカと美土里の姿に友情を感じ、レナは本の表紙に描かれた抱き合う細身の男子同士に少しだけ鼻息を荒くするが、この状況にどうしたものかと頭を回転させていた。
あの本には少し、ほんの少しだけ興味がありますが……ここは土筆さまに任せてしまった方が……いや、でも、土筆さまがトクベリカさまの事を話す時は嬉しそうな顔をなさっていた様な……
う~ん、でもそれではアステリアスさまが不利になりかねない状況に……しかし、話しぶりからは傍若無人なお人のようですし……困りましたね……
「あの~トクサンが捕まったと聞きまして……」
詰所に顔を出した土筆に笑美とレナが助けてという瞳を向け、その後ろにはトクベリカを詰所に連行した近衛兵の姿があり、輝と天使長も土筆の後ろに隠れどうにかして下さいと頭を下げる姿があった。
「土筆! 安心したらお腹が減ったわ!」
詰所にトクベリカのストレスが解消された声が響くのだった。
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