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梶野宮家の転移家計簿  作者:
最終章 異世界召還に巻き込まれた者
441/455

異世界初の缶詰


 

 

 「ふぅ……」

 

 がらりとした部屋でアイテムボックスに届く土筆の料理を食べ終えたトクベリカは、半分ほど残した皿を見つめ自身の食欲のなさに驚く。

 

 「うう、私が料理を残すなんて……」

 

 大好きなチーズの乗ったハンバーグを半分残した事に驚きフォークを手にするが口が受け付けずその手を離す。

 

 「胃が痛い……私の体は神の分体……病気なんて……いや、この体にも欠点があったわね……」

 

 食が細くなったのはここ数ヶ月の事であるが、立派に肥えていた体が萎んだのはもちろんの事普段から着ているフリースのゴムが緩く感じ気を抜くと落ちる始末である。

 

 「ストレス……か……」

 

 土筆たちが異世界へと渡り九ヶ月が過ぎ、当初は一人の生活を楽しんでいたがリビングにはゴミが溜まり、一人での食事、たまに神社へと足を運び深酒をし、資金は神力を使い競馬で稼いだりもして楽しんだが、心にはぽっかりと穴が開き、レベルのカンストした平成のRPG画面を見つめる。

 

 「このゲームも終わりね……ふぅ……よし、行くか!」

 

 トクベリカは立ち上がると手を払うと目の前には黒い渦が現れ躊躇なく一歩を踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「土筆殿下……殿下……」

 

リビングで居眠りをする土筆の体を揺さぶるペティート。


「ん? ああ、寝てたか」

 

「ん……うん?」

 

起こしに来たペティートの頭を優しく撫でると目を瞑る土筆。

 

「そうじゃない……ふぇるりんと勘違い……土筆に……お客さん……」

 

 ペティートは力を込めて体を揺さぶり目の開いた土筆の頬を両手で挟みグニグニと解し始める。

 

「おーきゃーくーおーきゃーくー」

 

「お客? 俺にか?」

 

「ん……お客……」

 

 覚醒する意識の中で土筆は自分に用がある人物を思い浮かべる。


 可能性がありそうなのはイシュタム商会か、ホルステッド王国関係者か、大精霊さま方か、鍛冶師のおじさんもかな………………でも、それならイレーネイルさまの所で話を聞いて、俺には片付いて事後報告を受けるだけだし……ん? 誰だ?


 立ち上がった土筆はペティートとレレに後ろに控える専属護衛のペルーシャを連れ執務室を目指す。


 チョコの木を抜け白百合の館の前を通り領主館へと辿り着くと警備する近衛兵から会釈を受け中へと通されると、メイド長の姿があり微笑みながら「こちらへ、ふふふ」と案内され執務室ではなく貴賓館へと足を進める土筆たち。


 「お待ちしておりましたぁ~」

 

 貴賓館の重厚な扉が開くとそこにはイレーネイルとエルムレスに調理長の姿があり、慌てて立ち上がり頭を下げるイシュレームとヤタクーザの二名。それに加えて頑固そうな岩妖精族ドワーフの男がソファーに腰掛け土筆へと視線を向ける。


「閣下、お久しぶりです。本日は試作品を持って参りました。どうかお味見をして頂きたく」

 

 丁寧に頭を下げたまま話すイシュレームの言葉に「閣下?」と頭を傾ける土筆。

 

「ん……閣下違う……殿下……」

 

「それも違うからな」

 

 訂正するペティートを更に訂正する土筆も丁寧に頭を下げる。


「お久しぶりです。新商品ができたという事は商売も順調なのですね」

 

「はい、お陰様でどの商品も製造すればするだけ売れる状況は続いております。ホルステッド王国からも商人が多く訪れ嬉しい悲鳴が上がっております」

 

 顔を上げたイシュレームは以前ほど疲れた顔をしておらず張りと艶のある微笑みを浮かべる。

 

「それは良かったです。それで新商品というのは?」

 

「土筆よ、まずは座れ。落ち着いて話そうではないか。メイド長はお茶を頼む」

 

「うふふ、お任せください」

 

 土筆がソファーに腰を下ろすとメイド長とペティートにレレはお茶の準備に動き出し、ペルーシャはソファーの後ろに回り警備態勢に入る。


「新商品は缶詰になります。内部に特殊な加工を施し錆に強く、熱しても溶け出さない樹脂を塗りました。体への影響もなく長期保存が可能になりました。これは船乗りや冒険者など長期間に亘って街を離れる者たちの食を彩るはずです!」

 

 イシュレームの言葉にヤタクーザがバックから二種類の缶詰を複数置き開封する。開封も缶切りを使うものではなくイージーオープンエンドを採用しており、ヤタクーザがひとつを開封すると磯の香が広がりイレーネイルとエルムレスは食い入るように見つめる。

 

「こちらは土筆さまから教えて頂いた昆布を使ったスープになります。茹でたシュリンプとカキを使い、そのままでも飲めますが温めると更に美味しく頂けます。もう一つはダンジョンから産出したトマトを使ったスープになります。こちらは多く獲れた魚の骨を取り除いたものを丸め煮て具として入れております。どちらも自信作ですので味見をして頂きたいのです。

そして、この男が缶詰を製作する魔道具を作り出した鍛冶職人のガルモアです。この度の会議に是非とも参加し缶の完成度を聞かせて欲しいとの事です」

 

「ガルモアだ。貴方がこの缶の持ち主だと聞いたが、俺の作った缶と遜色があるか聞きたい。これほど楽しい仕事は今までになかった。特殊な缶と呼ばれる形と接合には圧力を加え接着させず、開け口も溝を入れ指で鉄を切り裂き開ける方式を見た時は心が躍った! 同じ魔道具をあと五台作る予定だからな、不満があったら教えて欲しい」

 

 そういって中身の詰められていない缶詰を土筆に渡したガルモアは、ドヤ顔をしながらも土筆を見つめる。

 

「凄いですね。本当に缶詰を完成させたのですね……」

 

 あらゆる角度から缶詰を見つめ試しに開けて見る土筆。


「そうだろう。我ら岩妖精族ドワーフに作れない物はないからな!」

 

「では、こちらのスープの味見を、」

 

「おいおい、もっと我に話をさせろ! この缶を再現する為にどれほど苦労したか!」

 

「本来の目的は土筆さまにスープの味を見てもらう為の会談です! 缶詰の製作には感謝しますが、本来の目的を果たさせて下さい!」

 

 イシュレームとガルモアが立ち上がりにらみ合うなか、メイド長からお茶が差し入れられ眉間に深いしわを作ったエルムレスは口を開く。

 

「ええい、鎮まれ! まずはお茶でも飲んで二人とも冷静になれ!」

 

 エルムレスの怒声に二人は静かにソファーに腰を下ろすと湯気を上げるお茶に視線を向ける。その間にも土筆は新製品の缶詰を手に取り表記を見つめる。


「味云々よりも直火に掛けると破裂する注意事項や、賞味期限の表示はありますね。ん? これだと見にくくないですか?」

 

 土筆が言うように缶詰には直火にかけると破裂するという表記はない。それに加え賞味期限の表記は帝国歴で表記され製造から三週間と思っていたよりも短く、製造年月日に被るようにイシュタム商会の印が押されている。


「破裂するのには驚きましたが、製造年月日は不正防止の為の処置です。上から新たに賞味期限を上書きさせないよう製造年月日に少し被るように商会の印を押しております。商会に限らず印の不正利用は極刑になりますので商人たちもそこまでの危険は冒さないはずです。しかし、爆発ですか?」

 

「缶詰は密封され熱を帯びると中の液体が沸騰し体積が増えますから脆い所から破裂しますね。地元でも時折そういった事故で火傷するそうで、できるだけ大きく表記して売る際にも蓋を開けてから火にかけた方がいいと注意喚起した方がいいですね。

 ああ、温める時に便利な小さな焚火台とかも一緒に売ったり、熱々でも掴めるキッチンミットも売ったりしたらどうですか?」

 

「冒険者ならそういったガンレッドを付けているものも多いが、焚火台か……」

 

「缶詰のデザインとお揃いのキッチンミットを作れば主婦層にも受けそうですね!」

 

 睨み合っていた二人は互いに顔を見合わせると頷き合い、土筆の提案を採用したのかペンを走らせ焚火台とキッチンミットを描き始め、その姿に呆れる領主とその補佐。

 

「どうぞ、領主さま方はお味見の方を、こうなってしまいますと納得のゆくデザインが出来上がるまではペンを離しませんので、申し訳ありません」

 

 ヤタクーザの言葉に一行は缶詰のスープの味を見るのだった。



 



 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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