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梶野宮家の転移家計簿  作者:
第八章 五月は割と暑い日が多い
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マルティンの故郷の料理



 まだ薄暗いキャンプ地では五人の新人が寝息を立て、その姿を欠伸をしながら見つめ薪を追加するマルティンの姿があった。


「ふわぁ~もう朝だな……」


 朝日が姿を見せ始め黒から青に変わる空を見上げるマルティンは、深夜に現れ夜食を置いて行った土筆の事を思い出す。


「夜は冷えると思ったので温かい夜食を用意しました。良かったら食べて下さい。鍋は明日回収しますから、その辺に置いておいて下さい。では気を付けて頑張って下さい」


 そう言葉と鍋を置き小さなテントに去って行った土筆。


 おでんと呼ばれる鍋は美味しかったなぁ。不思議と魚の味がして……それに不思議な食感のプルプルした灰色の物と根菜も味が染み込んで美味かった。魚の味がした奴は故郷にある料理に似ていたな……スープもどことなく味が似ていたが、それよりもスッキリとした味わいで魚の風味があっても臭みがなかった。


 空になった鍋を見つめるマルティンは薪と虫除けの薬草を追加すると独特の香りが広がり眉を顰める。


「この臭いは慣れないな……」


「それは仕方がにゃいのにゃ~」


 独りごとに返され声のした方へ顔を向けると小さなテントから顔を出すペルーシャが確認でき会釈するシャムール。


「おはようにゃのにゃ~鍋の回収にきたのにゃ~」


「こちらにあります。軽く洗いましたが汚れが落ちない部分もあり、街に戻ってから洗って返そうかと思っていたのですが」


 鍋の底には煤の黒い汚れがあり普通に擦ったのでは落ちないだろう。


「問題にゃいのにゃ~浄化魔法を使えば簡単に落ちるのにゃ~」


「浄化魔法ですか?」


「エムエムの特技にゃのにゃ~頑固な汚れから呪いまでにゃんでも落とすのにゃ~」


 汚れた鍋の洗浄に浄化魔法を使うという非常識な発想に、驚きながらも便利だと思うマルティン。

 軍の訓練や遠征などでは服の汚れや武器の手入れで汚れる事は多くあり、どの汚れも落ちづらいのが現状である。昨日から風呂に入らず薪の番をしていたマルティンには炭の燻された臭いや服には草木の樹液などが付いており、これを落とすのも一苦労なのだ。


「鍋は回収して行くのにゃ~」


「とても美味しかったです。そう土筆殿にお伝え下さい」


「にゃ~わかったのにゃ~ああ、その言葉は土筆に直接言うといいにゃ~」


 小さなテントから這い出てくる土筆の姿が見えたペルーシャは欠伸を噛み殺す。


「おはようございます」


 やや声を押さえながら挨拶をする土筆にマルティンも挨拶を返す。


「昨日はご馳走様でした。故郷の味に似ていてとても懐かしく美味しかったです」


 頬笑みを浮かべながら話すマルティンにペルーシャもにっこりと笑顔を向ける。


「昆布かな? それとも醤油が、いや、さつま揚げかな? 前にもレトリバー領でそういってましたよね。確か煮込みうどんを差し入れした時だから醤油なのかな?」


 以前レトリバー領で差し入れした煮込みうどんを思い出した土筆は、指輪の保存機能から醤油を取り出し小皿に入れマルティンへと差し出す。


「これは醤油と呼ばれる調味料なのですが、これでしょうか?」


 差し出された小皿を受け取ったマルティンは醤油の匂いを嗅ぎながら頭を捻る。


「似ていますが、もっと濃い臭いといいますか、臭い香りといいますか……これではないですが似ている気がします」


「ああ、それなら魚醤かもしれませんね。魚を塩漬けして発酵させた調味料で臭いがきつかったのなら……これとか近いかもしれませんね」


 土筆は指輪の保存機能からナンプラーの瓶を取り出し少量を小皿に注ぐと、流れてきた香りにマルティンは立ち上がる鼻を動かす。


「この臭いです! 魚臭いこの香りです! いや~懐かしい! 懐かしいです!」


 小皿を受け取ったマルティンはナンプラーをひと口舐めて顔を歪ませながらも「これです! これです!」と何度もその味を確かめる。


「にゃ~少し押さえるのにゃ~嬉しいのはわかったのにゃ~まだ朝早いのにゃ~」


「すみません……あまりに懐かしくて……」


 ペルーシャの指摘に顔を赤く染め子供の様に喜んだ自分を恥じるマルティン。


「それならこれを使ったスープでも作りましょうか。朝食はパンにする予定だったし丁度いいかな」


「いえ、あの、その様なお気遣いは……」


 急な申し出に両手をアワアワさせるマルティンに笑いを堪える土筆。


「にゃ~も食べてみたいのにゃ~きっと魚が入るのにゃ~」


 そこへペルーシャの願望を乗せた言葉が乗り、土筆は頭の中で食材を決めた。


「それでは一度戻りますね」


 ペルーシャから鍋を受け取り小さなテントへと姿を消す土筆。


「行ってしまいました……」


「楽しみにゃのにゃ~」


「はい……楽しみです……」


 二人で土筆の去った小さな白いテントを見つめるのだった。







 テント内の空も明るくなり始め屋敷へと足を進める土筆。


 屋敷へ入るとダイニングには小さなベッドで眠るエルエルの姿と、その横でテーブルにうつ伏せになり眠るエムエムの姿があり、肩には土筆の掛けた薄手の上着が見える。


「よし! カプサン起きてる?」


 気合を入れて竈を覗き込むとカプサンの姿があり、以前にはなかった背びれは炎の様に揺らめきピーと元気な声を上げる。


「今からスープを作るから中火でお願いな。それとこれ、カプサンの好きなカツサンドな」


 火口近くにカツサンドを置くと尻尾で竈の床を叩き喜ぶカプサン。その横から薪を入れる土筆。嬉しそうにカツサンドを頬張るカプサンを確認した土筆は竈を閉める。


「ナンプラーを使ったスープなら、魚のつみれを入れたいかな~」


 指輪の保存機能を使い昨日人魚族マーメイドから受け取った魚を皮と内臓に骨などを指輪の分離機能で分けまな板に乗せぶつ切りにして、神器をミンサーに変え引いて行く。そこへ細かく切った長ネギと生姜を加え、塩をひとつまみ入れ捏ねて行く。


 大鍋から湯気が上がり始めると捏ねたものを器用に親指と人差し指の間から握り出し、スプーンですくい湯へと投入する。灰汁を取りながら煮込み、長ネギを加え更にひと煮立ちさせナンプラーを入れワカメにゴマ油を回し入れ、塩胡椒で味を調え味見をする。


「うん、こんな感じかな」


「どんな感じなのですか?」


 いつの間にか後ろから顔を覗かせていたエムエムに心臓が跳ねそうになる土筆は、お玉を落としそうになるがエムエムに支えられ落下を回避する。


「ナンプラーをいう魚から作った調味料を使ったスープです。味見しますか?」


「はい、お願いします」


 指輪からお椀を取り出しナンプラーのつみれスープを注ぎ入れ渡すと、香りを確かめるエムエム。


「魚の香りが強いですがゴマ油の香りがいいですね」


 スプーンでつみれを口に入れハフハフと熱さに耐えながら咀嚼し飲み込むエムエム。その表情を見つめながらも動悸が治まれと思いながら平常心を装う土筆。


「美味しいです。魚を丸めた物は口に入れ噛むとほどけるように広がり、生姜の香りが口に広がります。味と香りの変化が面白いです」


 自然と口角の上がるエムエムに土筆も笑顔へと変わり、早かった心臓の鼓動も治まり鍋ごと指輪へと収納する土筆。


「そうだ。この鍋に浄化魔法をお願いできますか?」


「お任せ下さい。私が使ったこの椀とスプーンも食べ終わったら一緒に浄化致しますね」


 再びつみれスープを口にするエムエムにお礼をいって、土筆はマルティンに食べさせるべく外へと足を向ける。


「急に後ろから話し掛けられるとビックリするな……ん? 角うさぎたちも起きたのか。よしよし」


 屋敷から出た所で角うさぎの子供が足元におり、それを抱き上げて優しく頭を撫でると目を細めてミーと嬉しそうに鳴き、数匹の角うさぎの子供に囲まれ、こっちも撫でろといわんばかりのミーミーを繰り返す角うさぎの子供たち。


「朝から可愛らしいですね。おはようございます」


「子供たちは朝から元気です!」


 屋敷へとやって来たレナとレレが土筆に纏わりつく角うさぎたちに気が付き挨拶をし、土筆も挨拶を返しながら抱き上げていた角うさぎの子供をレレへと手渡す。


「作ったスープをマルティンさんに渡してきますね。その後で朝食の準備をしますのでレレさんお願いします」


「畏まりました。気を付けて行ってきて下さいね。うさちゃんもおはよ~」


「ミー」


 受け取った角うさぎに頬擦りをしながら応えるレレと、足元の角うさぎたちを優しく撫で始めたレナに見送られ土筆は外へと向かうのだった。




 お読み頂きありがとうございます。

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