夜番をする新人たちへ差し入れを作る土筆
笑美を含めた女性陣は早めにテントへと向かい眠りにつき、テントの屋敷のキッチンでは土筆が鍋を煮込み、ダイニングには護衛であるペルーシャと、ソファーで半分寝ているエルエルにふぇるりんが寄り添い尻尾をお腹に掛けている。
「にゃにを作っているのにゃ~」
キッチンの椅子に座り体を揺らしているペルーシャは、土筆の後ろ姿を見つめて料理の完成を楽しみにしていた。
「夜の見張りは寒いしお腹が空くだろうから、夜食の差し入れをしようと思ってな」
「差し入れにゃ? 魚かにゃ~魚だといいにゃ~」
頭を揺らしながら焼き魚に魚のフライに魚のスープを思い浮かべるペルーシャ。
「魚のすり身を使った料理かな」
「にゃ~それは楽しみにゃ~」
背中から聞こえる声にペルーシャの顔を思い浮かべ、魚を使うと聞いてきっと笑顔なのだろうと推理する土筆は、先ほど人魚族から頂いた魚の内臓や皮や骨などを取り除きぶつ切りにして神器を使いミンチにしてゆく。
「魚の匂いがするのにゃ~」
ミンチにしたものに塩を加え手で混ぜながら粘り気が出るまで続け、途中でそれらを三等分し味が違う物を作るのか大きなボールに分けた。
ひとつ目は何も加えないシンプルなものを作り、ふたつ目は紅ショウガを刻んだ物を入れ、三つ目にはニンジンとゴボウを下茹でした物を入れた。
それらを温めた油に丸めながら入れ浮いてきた所をすくって油を切る。
「ペルーシャ味見する?」
「にゃ~」
返事と共に隣に現れたペルーシャに楊枝で刺したそれを与える。
「丸いのにゃ~ふぅふぅはぐ……にゃにゃっ!? 魚なのにゃ! 丸い魚にゃのにゃ~」
ひと口食べて驚きの顔をするペルーシャに、魚かどうかの感動ではなく味の感想が聞きたい土筆。
土筆が作ったのは関西で言う所の天ぷら、関東で言う所のさつま揚げである。形はひと口サイズで丸い形であり、多少不格好な物もあるがペルーシャが笑顔でハフハフと咀嚼する顔を見ればその味も美味しいのだろう。
土筆もひとつ口に入れると魚の旨味が強く感じられながらも適度な弾力のある食感に、満足の行くものができたと頭を縦に振る。
「これは美味しいのにゃ~シャムールにも食べさせてあげたいのにゃ~」
「差し入れ用に作ってるからな」
「そうだったのにゃ~」
笑って誤魔化すペルーシャに妹思いの姉だなと思いながら腕を動かす。
鍋に湯を沸かしてさつま揚げを下茹でし、串にさつま揚げを刺し下茹でした大根とこんにゃくも刺して行く。
「にゃ~も手伝うのにゃ~」
ペルーシャも小さな手で器用に具を刺して行き、土筆よりも早く丁寧な仕事ぶりに感心する。
「後はこれを煮て完成だな」
大鍋に昆布を入れ、そこへ顆粒の鰹だしと醤油に少量の砂糖を入れ、串に刺した物を入れて蓋をする土筆。
「これはにゃんという料理なのにゃ~?」
「簡単に作ったけどおでんかな。串に刺して作る事はあまりないけど、野外で作業する人たちは片手で食べたいだろうから串に刺してみたよ。それに夜は冷えるだろうから温かい物の方が喜ぶだろ」
「そうにゃのにゃ~夜は冷えるのにゃ~温かい差し入れは喜ぶのにゃ~それに魚を丸くする発想が凄いのにゃ~。にゃ~もシャムールと一緒に食べるのにゃ~」
土筆の言葉を肯定しながら発想を褒めるペルーシャは、最後には願望が漏れながらも笑顔で発言を締め括る。
「鍋を分けて煮るのはにゃんでなのにゃ?」
そんなペルーシャの視界には大鍋の他に湯気を上げる鍋があり、土筆へと顔を向ける。
「これはトクサン用に作ったおでん。あっちは真冬だし、トクサンはおでん大好きだからこれも差し入れだな」
トクベリカに用意した鍋には串以外にも玉子や厚揚げにハンペンや白滝といったおでんの具が入り、沸騰しない温度でゆっくりと煮込まれている。
「こっちは具が多いのにゃ~」
「トクサンは一人だけど沢山食べるし、こっちが気を付けないと食生活が乱れて揚げ物やジャンクフードばっかりになるからな……」
日本に残してきたトクベリカを思い、ほぼ三食を指輪の機能を使い届けている土筆。
「トクサンはどんな人にゃのにゃ~?」
「う~ん、トクサンはいつも元気で周りに元気を振り撒く人かな? 笑美と一緒に悪戯したり、輝と美土里ちゃんの勉強を見てくれたり、笑美と一緒に摘み食いしたり、笑美と一緒に早食いを競ったり、靴下でスケートの真似ごとをして顔面から転んだ時は肝を冷やしたな……」
トクベリカを語る土筆の表情に、ペルーシャは小さな危機感を覚えていた。
土筆はにゃんだか嬉しそうで、それでいて寂しそうにしてるのにゃ~もしかしたらトクサンなる人が好きにゃのかにゃ?
殿下や聖女が相手でも嬉しそうな表情を浮かべにゃい土筆が嬉しそうに語っているのにゃ~これは……残してきた人が本命にゃのにゃ?
にゃ~殿下でも聖女でも竜人族でもいいから土筆を引き止めてくれにゃいと、美味しい魚料理が食べられにゃくなるのにゃ~
「どうかした? 骨でも入っていたなか?」
考え込んでいたペルーシャを心配した土筆が声を掛け、顔を上げるペルーシャ。
「にゃ、にゃんでもにゃいのにゃ~トクサンの顔を想像していたのにゃ~」
「トクサンの顔……女神さまを太らせた感じかな? いやでも……それは不敬と怒られそうだな……」
女神ベルカの分体であるトクベリカは十九番目の分体であり、地球に赴任し勇者召喚の勇者を選別する仕事についていた。その他にも文化の調査などを命じられ初代勇者と大魔王の家に住み、仕事柄家を空けがちな両親に変わり、親代わりを務める予定で梶野宮家に寄生したのだ。
しかし、蓋を開けて見れば土筆が親代わりに料理をし洗濯をして家事をこなす日々に、堕落したトクベリカは文化の調査といいながら食べ歩きをするのが日課に変わり、ふくよかな体系へと変化する。
「にゃ~いい匂いがするのにゃ~」
湯気を上げる鍋からは昆布とかつお出汁の香りが立ち込め、竈で火を上げるカプサンに弱火へ変えて貰うように頼む土筆。
「味が染みたら、また味見してな」
「にゃ~に任せるのにゃ~」
頭を横に振りながらゆっくりと煮込まれるおでんを見つめるペルーシャに、土筆は椅子に腰を下ろし微笑ましくその後ろ姿を見つめるのだった。
「だから私は言ってやったのよ! 土地神にしてはペラペラな奴だってね!」
ドヤ顔でアメリカンジョークを話すトクベリカに付き合っているのは、人型をとった狐の二匹でありお酒が入っているのか赤く染めた顔で笑い合う。
「あの土地神は半紙が元になったものであろう」
境内に現れた土地神に右手を額の近くでクルクルと回し、シュッと敬礼をするトクベリカに思わず笑い出す土地神。
「ぷくく、何その珍妙な敬礼は、ぷくく」
「今日は冬らしいお酒と湯豆腐で一杯やりましょ!」
「おや、これは柚の香りに清酒の香りが……ごくり……」
「こちらにカラアゲもあります」
「コンビニのカラアゲですが中々いけます」
主である土地神の席を作り、柚ポン酢の入った椀とカラアゲを前に置く狐の二人。
「ほいほい熱いから注意するのよ。って、何かしら?」
指輪が光りトクベリカへとおでんが到着する。
「あら、この清酒はこの近くの酒蔵の……鍋が出てきたわ」
「いま土筆から差し入れがあったのよ~分けてあげるから食べましょ!」
「土筆殿の手作りのおでんですか!?」
「土筆殿は異世界でも和食を作っておられるのですね!」
蓋を開けた鍋からはおでんの出汁の香りが立ち込め、それを覗き込む四人。
ぐつぐつと煮えるおでんから上がる湯気を前にした四人は、清酒をグラスへと注ぎ入れる。
「今夜は朝まで飲むわよ~」
トクベリカの声に土地神と二人の狐は日本酒を入れたグラスを掲げるのだった。
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