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梶野宮家の転移家計簿  作者:
第八章 五月は割と暑い日が多い
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ローストフォースと新たなスキル



 小さな白いテントから這い出した土筆に敬礼姿で迎える第三近衛師団は、ピピラのお礼から始まりその後を近衛兵たちが続く。


「土筆さま、昨日はご馳走様でした」「したっ!」


 立ち上がった土筆は敬礼をした方かよいか迷うが、普通に頭を下げ朝の挨拶を向けた。


「おはようございます。それとマルティンさんの故郷の料理に近いものができたか解りませんが、良かったら食べて下さい。美味しくはできたと思うので、ここに置きますね」


 指輪の保存機能から大鍋を出現させる地面に置く土筆に、マルティンは隊から離れ土筆の手を取る。


「あ、ありがとうございます! その、どうお礼をしたら……」


「いえ、別にお礼なんて大丈夫ですよ。原価もそれほど高くないものばっかりだし、ここを守って貰えるから安心して夜を過ごせました。皆さんもありがとうございます」


 キャンプ地を守ってもらっているという感覚のある土筆の言葉を誇らしく思う第三近衛中隊たち。誰もが兵士として、守護する者としてのプライドがあり、中でも近衛という立場は最後の砦という意味がある。

 戦いに措いて兵士長は撤退の命令と許可を出す事ができるが、近衛には撤退という文字はない。近衛の後ろには相応の身分の者がおり、近衛の撤退は国または領地の崩壊と同義語なのである。


「そう言ってもらえるとありがたい……」


 ピピラは静かにそう云いながら第三近衛中隊の持ち物であるマジックバックから、昨日取れたグリーンフォースの入れられた革袋のひとつを取り出し土筆の前へと歩く。


「昨日取れた肉です。これでお返しになるとは思えませんが受け取って下さい」


「マジックバックに入れてあるのでそう時間は立っておりません。土筆さまの手で素晴らしい料理へと変えて下さい」


 ピピラとマルティンから受け取った革袋は十キロ以上あり、受け取ると直ぐに指輪で収納する土筆。


「ありがとうございます。これから朝食を作りますので、これで失礼しますね」


「はっ!」


 土筆のお礼の言葉に敬礼するピピラとマルティン。遅れて第三近衛中隊らも敬礼し頭を下げる土筆。


「それでは我々も朝食の準備に取り掛かるぞ! 各隊で肉を切り分け串に刺して調理を始めろ!」


 ピピラの声が響き、それを背に受けながら小さな白いテントへと帰る土筆。


「味の感想は後で聞けばいいか……」


 テント内の草原に戻るとミーミーという鳴き声が響き渡り、レナとレレの周りには多くの角うさぎたちが囲み、白いモコモコとした癒し空間が出来上がっていた。


 頬笑みながら角うさぎの子供と大人を撫でるレナとレレに気を使い存在感を消して屋敷へと向かうが、途中で気が付かれ急いで立ち上がる二人の乙女。


「行っちゃうの? もう行っちゃうの?」とでも言っているのか、ミーミーと叫びを上げる角うさぎたち。


「土筆さまのお手伝いをしてきますね。また暇を見つけて来ますので撫でさせて下さいね」


「もう、置いて行くのは酷いです!」


 レナとレレは角うさぎたちに手を振り別れ、早足で土筆の後を追う。


「屋敷に入る前に服を叩かなくては」


「角うさぎたちの毛がいっぱいですね。へくちっ」


 屋敷へと近づいた二人のメイド服には白や茶色の細い毛が付着し二人で協力して毛を払っていると、玄関からエルエルとエムエムが現れた。


「レナにレレなのです! 毛がいっぱいなのですよ!」


「おはようございます。もし良ければ浄化魔法を致しますが」


 二人の天使に朝の挨拶を返したレナとレレは浄化魔法をお願いする。


「浄化の光よ!」


 エルエルの力ある言葉に魔術反応が起き二人は光に包まれ、光が晴れると付着していた毛は綺麗さっぱりなくなり、目を閉じた二人はエルエルにお礼を述べ屋敷の中へと消えて行く。


 それを見送ったエムエムとエルエルはうさぎ小屋へと足を運び、角うさぎたちの朝食を用意するのだった。







 一方土筆はキッチンへと戻り頂いたグリーンフォースの肉を確認し、手ごろな大きさに切り分け下味を付けて行く。


 塩コショウにニンニクのスライスと数種類のハーブを振り掛け手で揉み込んで行き、最後にオリーブオイルを振り掛け常温に置き味を染み込ませる。


 それが終わるとレナとレレもキッチンへと現れ、エプロンを巻き手伝いを申し出た。


「先ほどは気配を消して通り過ぎた様ですが、朝食のお手伝いしますね」


「私も手伝います!」


 レナにやや棘のある言い方をされ困り顔の土筆だったが、お願いしますと素直に受け入れ作業を再開する。


 レナには野菜のカットをお願いし、レレにはロールパンに切り込みを入れる作業をお願いし、土筆は茹で卵を作りながら合わせるソースを作って行く。


「こちらのお肉は焼かないのですか?」


 下味を付けたグリーンフォースの肉を興味深げに見つめるレレ。


「これはサンドイッチの具材にしようかと思って、今は下味を染み込ませています。全面を焼いてからオーブンでゆっくりと中まで火を入れるとシットリと焼き上がりますので、それを薄く切って野菜と一緒にパンに挟みます。合わせるソースはオーロラ系のこのソースです」


 ボウルにマヨネーズとケチャップを入れ塩コショウと玉ねぎのみじん切りを入れ混ぜ合わせるとオーロラソースが完成する。


「綺麗なピンク色ですね」


「マヨネーズを入れたのなら確実に美味しいはずです!」


 レナは色を褒め、レレはマヨネーズ信者なのかマヨネーズを入れれば必ず美味しくなると、土筆の料理を手伝いながら学習したのだ。


「グリーンフォースの肉が上手く焼ければ美味しいローストビーフサンド……ローストフォースサンドかな? になりますよ。それでは焼きを入れて行きますね。レナさんは葉野菜の水気を確り切って下さい」


 土筆は神器をフライパンの形に変え、カプサンに弱火にして貰いゆっくりと火を入れて行く。鹿肉などの油の少ない肉は弱火でジックリと火を入れた方が中の水分(肉汁)が逃げ出さずシットリと仕上がり、パサつかない。それをオーブンへと入れ最後は余熱で仕上げるのだ。


 焼き上がったローストフォースを冷ましているうちに、野菜の多く入れたシチューが完成し、タマゴサンドもレレとレナの協力により既に山の様に積み上がっている。

 それを指輪の機能で収納した土筆は一息入れる為お湯を沸かし、手伝ってくれた二人へと温かい緑茶を入れ振る舞う。


「このお茶も飲み慣れましたね~」


「はじめた頂いた時は渋いと感じましたが、いまでは飲み慣れて美味しく感じます」


 レナとレレも一息つき慣れてきた日本の緑茶を飲みながら他愛のない世間話をして、ゆっくりとした時間を過ごしているとエルエルとエムエムも屋敷へと戻り、焼き上がった肉の香りに鼻をスンスンとさせる。


「いい匂いなのです!」


「カレーにも入っていた香りのひとつですね。確かニンニクと呼ばれる野菜です」


 焼き上がったローストフォースに顔を近づけ観察するエムエムに「正解です」と応え、他にも入れたハーブの説明をする土筆。


「この中でローストフォースを薄く切る自身がある人はいますか? 自分では薄く切れないので……薄くなくても柔らかく仕上がってると思うのですが、どうも自分が切ると厚くなってしまって」


「それなら神器を刃物にするのです! キレ味バツグンなのをイメージするのですよ!」


 エルエルの言葉に手を上げかけたレナはその手で湯呑みを掴む。


「神器で?」


「そうなのです! 後はゆっくりと引けば薄く切れるのですよ!」


「イメージした通りの刃を生み出せます。そうすれば思い通りに着る事ができるはずです」


 エルエルに続きエムエムからも後押しされ、まな板にしていた神器を包丁の形に変える土筆。


「刃渡りは長い方が薄く切りやすいと思います。刃元からゆっくりと切り、刃先に向かって切り終わるイメージをして見て下さい」


 レナの助言に目を閉じて、包丁から刺身包丁の様な長い刃をイメージする土筆。イメージして魔力を流すと刺身包丁が土筆の手に握られ姿を現す。


「やってみますね」


 木製のまな板に冷めたローストフォースを乗せ、集中してから手を添え、レナが言った通りに刃元からは先へと引いて肉に刃を入れると、土筆の中では何かを切っているというよりは、何かに刃を入れたというほぼ手応えのない感覚に戸惑うが、カットされたローストフォースは薄く切れ断面も美しい。


「できました! 薄切りにできました!」


 子供の様に喜ぶ土筆にアドバイスしたレナは胸を撫で下ろす。


「この調子なのです! いっぱい切るですよ~」


「反復練習し薄切りをマスターして下さい!」


 エルエルとエムエムが褒めて応援する中、土筆は息を整え集中しローストフォースと向きあう。


「凄い集中力ですね」


「まるで剣の達人のようなオーラを感じます……」


 薄くスライスして行く土筆からは人を近づけない静寂と切るという明確な意志があり、静かな中にも確かな動きが起こる度に薄くスライスされるローストフォース。


 スキル:スライスを取得しました。


 このスキルは薄くカットするスキルであり、手にした得物しだいではその厚さにばらつきが出る。神器などを使いカットすれば限りない薄さへと辿り着くだろう。





 お読み頂きありがとうございます。

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