お弁当を一緒に食べましょう
這いつくばりテントを抜けると大地の大精霊の姿が目に入り、近くにはエルエルとエムエムは立ち話でもしているのか、身振り手振りを繰り返す姿が見て取れた。
「土筆なのです!」
エルエルは真っ先に気が付き立ち上がった土筆の頭に着地し、他の二人も足を進め土筆の近くへと向かってくる。
「いや~ここは素晴らしいね。咲き誇る花は見事だし、澄んだ小さな川も流れ、バランスのとれた土の中には魔力と神力が混ざり合い理想の配合率だよ」
「土筆さまありがとうございます。エルエル姉さまから翼の形を変える魔術を教わる事ができました。ただ、天使の輪に使用する隠蔽魔法が上手くいかず……修練を積みたいと思います」
大地の大精霊はテント内にある大地を褒め、エムエムはエルエルから天使の姿を隠す術を教わり、背中の翼がアゲハ蝶の様な大きな二枚羽へ変わっているのだが、頭の上には光る輪があり天使の特徴が残っていた。
「大きな帽子を被っては如何ですか? これなんか被れば輪が隠れるかな」
指輪の保存機能から異世界に来た当初から指輪に入っていた麦わら帽子の様なつばの広い帽子を取り出しエムエムへと手渡す
「宜しいのですか?」
「魔法が掛かっているらしくサイズ修正してくれるので大丈夫だと思いますよ」
手渡した帽子を被るエムエムはやや不安そうな顔で被る。
「似合うのです! 可愛いのです!」
「ははは、天使の輪が帽子の装飾の様だね」
エルエルと大地の大精霊の言葉に頬を染めるエムエムの被った帽子には、天使の輪の外側が少し貫通して現れており、麦わら帽子に一筋の光が一周巻いてある様に見えあまり違和感ない。ただ、天使の輪を隠すという意味では正解かもしれないが、その帽子へと興味が湧き見せてほしいといわれたら手渡す事ができず、頭を近づけるしか方法がない事だろう。
「ワンポイント入って素敵な帽子になりましたね。背中の蝶の羽の模様とも色合いが似ているので素敵ですよ」
「ありがとうございます」
両手を胸の前で合わせモジモジとお礼を述べるエムエム。
「似合っていますが隠蔽魔法の練習もするのですよ。エムエムなら一週間と掛からずにできるようになる! 気がするのです!」
土筆の頭の上からの応援にモジモジしていたエムエムは視線を土筆の頭に向け元気返事を返し、その瞳はやる気に満ちていた。
「エルエル姉さまの期待に答える為にも、必ず成功させて見せます!」
胸の前で組んでいた手も拳へと変えて気合を見せるエムエム。
「その意気なのです!」
「じゃあその前に昼食にしましょう。大地の大精霊さんも食べませんか?」
土筆の言葉に大地の大精霊は目の部分の四角い土の塊を大きく変えて驚いた表情を作る。
「またご馳走になってもいいのかい?」
「お弁当はエルエルのだけですが、お弁当に入り切らなかった物がありますから盛り付けますね。エムエムさんもそれでいいですか?」
自身に話が振られるとは思っていなかったエムエムはキョトン顔で土筆を見つめ、視線をエルエルへと向けると小さな体で大きく頷く。
「私は天使でありますから、食事は主さまから送られて来る魔力と神力だけで十分なのですが……」
「土筆の料理は美味しいのです! それに今日はお弁当なのですよ! お弁当は特別なのです! お出掛けした先で食べるのがお弁当なのですよ!」
頭の上でテンション高くお弁当を力説するエルエル。
土筆は指輪の機能からレジャーシート代わりの布を広げ、弁当箱に朝作った料理を詰めて行く。
「あの時の料理とは違うね。黄色く四角い料理が何なのか気になるな」
「玉子焼きなのです! 甘くてしょっぱくて美味しいのです! エルエルは卵焼きが大好きなのです!」
「玉子焼き……エルエル姉さまの好物なのですね」
「そうなのです! 卵焼きもミートボールも大好きなのです!」
土筆の頭から飛び上がったエルエルはお弁当を詰める土筆の横に着地し、傍で鼻をクンクンしながらお弁当の完成を待つ。
「これでいいかな、一応蓋をして完成です。本当なら開ける所から楽しむ物ですが、食べて頂けると嬉しいです」
二人の前に蓋を閉めたお弁当箱が置かれ嬉しそうな顔をする大地の大精霊。エムエムは興味深そうにお弁当箱を見つめ、エルエルの前には小さなお弁当箱が登場し逸早く蓋を開ける。
「玉子焼きなのです!」
つい今し方、お弁当箱に詰めていた土筆に笑顔を向けるエルエル。
「ふふ、エルエル姉さまの笑顔はとても素敵です」
「うんうん、感情が豊かでとても可愛らしいね」
エムエムと大地の大精霊に褒められたエルエルは玉子焼きを口にし、表情豊かに美味しさを伝える。
「こちらのスープはまだ熱いので注意して食べて下さい」
先ほど作ったトマトの中華風スープも振る舞い、土筆も腰を落ち着け自身の作ったお弁当を開く。
「この玉子焼きは甘くて美味しいね! お肉とは違った美味しさがあるよ」
「ミートボールも丸くて美味しいのです!」
「はじめての固形物を食しましたがとても楽しいです! 口の中で噛み砕くという行為は不思議ですが味が確りと解ります! よく噛まないと危険かもしれません!」
大精霊とエルエルは味の感想を嬉しそうに語り、エムエムは食すという事に付いて感想を述べる。はじめて固形物を食べ噛むという動作や、舌を使い噛みやすく誘導したり、よく噛んだ物を飲み込むという動作に感動を覚えたようであった。
「喜んでもらえて嬉しいです。エムエムさんは今後もここを守るのですよね?」
「もぐもぐ……ごくん……はい、このテントをお守りするのが私の使命です!」
「でしたらエルエルと一緒に住んでいる屋敷の隣に、このテントを設営していいか許可を取りたいと思います。そうすればいつでも会えますし、エルエルは嬉しいだろ?」
「エルエルは嬉しいのです! エムエムにいつでも会えるのは楽しくて嬉しくて、一緒にいつでもご飯が食べられるのです!」
見上げながら話すエルエルにエムエムは両手で口元を押さえる。
「宜しいのですか!?」
手で押さえた事もあり籠った声を上げるエムエム。
「領主さまの許可が下りればですが、それほど問題にはならないかと思いますし、ひとりは寂しいじゃないですか」
「はい、寂しいです……寂しかったです……」
口に当てていた両手が顔を覆い隠し、その隙間から流れる涙。
「これからは一緒なのですよ~エムエムはまだ寂しいのです?」
「寂しくなくなりました。えぐ、寂しくないです!」
「良かったのです! エルエルはエムエムと一緒だと嬉しいのです! 嬉しい時は笑顔になるのです! 一緒に笑顔になるのです!」
エムエムを見上げるエルエルに、覆い隠していた両手を離したエムエムの頬からは涙が伝うが笑顔を作り、その表情に笑顔で応えるエルエル。
「天使たちの姉妹愛だねぇ~素敵で珍しいものが見られたよ。ところで、おかわりはあるのかな?」
大地の大精霊の言葉に土筆は指輪の機能を使い、お弁当箱に入り切らなかった玉子焼きやミートボールの乗った皿を出し、どうぞの言葉を添えて前に置く。
「僕はこのミートボールが気にいったよ! 今度はまた違う料理が食べられると嬉しいな!」
「エルエルは玉子焼きをおかわりなのです!」
「わ、私はカラアゲが美味しかったです。外側が固く食感が面白いです。中も柔らかく、固さと柔らかさ両面を持った食べ物なのですね」
「スープも美味しいのです!」
「香りも良いし、赤い果実が美味しいね」
「鼻に抜ける香りが堪りません」
「ミー」
「ん?」
「これは……」
「魔物の子供だね」
エムエムの涙も治まりお弁当も終わりに近づいた所で、聞き覚えのある鳴き声に視線を向けると子供の角うさぎの一匹が土筆の太ももに頬を擦り付けていた。
「こ、この可愛い生物が魔物なのですか?」
「元はもっと荒々しい魔物だったんだよ。それが今では可愛らしい魔物に進化? 退化? して今の姿になったんだ。小さくてフワフワしていて可愛らしいね」
「可愛いのです! 小さくて可愛いのです!」
角うさぎの子供のサイズはエルエルよりも少し小さいサイズだが、エルエルは自身よりも小さい生物が可愛いらしく、可愛いを連呼する。
そんな中、エムエムがお弁当を置き土筆の足元で頬を擦り付け続ける子供の角うさぎへと近づき、優しく体を撫で始め表情を崩す。
「何と可愛らしいのでしょうか……ここで飼う事ができれば……ずっと一緒にいれるうさ……」
エムエムの驚きの語尾を目の前で聞き取った土筆は、噴き出しそうになるのを堪えるのだった。
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