再登場の大地の大精霊
「こんなにも早く再会するとは思わなかったよ」
レトリバー領で顔を合わせた土筆とエルエルの姿を見つけ親しそうに話すゴーレムに似た大地の大精霊に、蜂蜜レモンを飲み寛ぎムードだった近衛兵たちに緊張が走る。
「手を出すでないぞ」
アステリアスの言葉に、武器に手を掛けた近衛兵たちはその手を止める。
「えっ!? えっ!? 僕は新任だけど大地の大精霊だからね! 襲ったりしないからね! それよりもこのテントなんだけど……」
四角い指で指差した先には土筆が設置したテントがあり、全員の視線を集めた。
「ああ、このテントですか……どう話せばいいか……」
「これピピラよ。お主らはそろそろ火を起こし昼の準備をするのじゃ」
「新鮮なグリーンフォースは美味しいですからね~」
「スープの多く作りましたので、よかったら皆さんも昼食と一緒に食べて下さい」
言い淀む土筆にアステリアスとレナがフォローし視線を集め、大精霊との会話を聞き取らせないよう隊長であるピピラに昼食の準備を進めるよう勧める。
「はっ! お前たち班分けした者同士で火を起こし調理に取り掛かれ、マルティンは辺りの警戒を怠るなよ」
第三近衛中隊の返事が木霊し、動き出す音に紛れ土筆が小さな声で話し始める
「このテントは神さまからこの地に来た時に頂いたテントでして、中に入ると一軒家があって天使のエムエムさんが管理しています。理屈はよく解らないのですが別の空間? らしいです」
「ああ、だから地脈のラインが増設されたのか。新しいダンジョンでもできたのかと思ったよ。それなら安心だね。中に入ってもいいかな?」
「それならエルエルが案内するのです! 妹を紹介するのです!」
大精霊の前へ躍り出たエルエルは両手を上げながら元気に話し、テントへと誘導する。
「うんうん、元気がある子を見ていると元気が貰える様な気がして嬉しいね。それじゃあお願いね」
エルエルがテントへと入り、その後を追うように大地の精霊もテントへと消えて行き、安堵の表情を浮かべる土筆。
「我のアシストのお陰じゃな」
ふふんと鼻息を荒く仁王立ちするアステリアスと、その横に控え私も頑張りました顔をするレナ。
「助かりました。ですが、大柄な大地の大精霊様があの小さなテントに入る様子を皆さん驚きの顔で見ていたのですが……」
「それは他言せぬようにピピラに伝えるのじゃ」
「それが良いですね。あのテントもマジックアイテムとして内装が広いという事にしましょう。実際ダンジョン産のアイテムには似た物もあると聞いた事があります」
「マジックバックやマジカルハウスなどじゃな。見た目よりも遥かに多くものが収納出来たり、テントの中が広くなっておったりするのじゃ」
「私の実家近くのダンジョンでもそういった物が得られておりますね。ゴーレムの核などから馬の必要がない馬車等も作っているそうですよ」
頬笑みながら話すレレは大地の大精霊の姿からゴーレムを連想したらしく、話題がテントから馬車へと移行する。
「おっ、あっちの街道に馬車が走ってるよ!」
「海洋都市マーメイドへ続く街道っすから、商人が塩ダレや水あめを運んでいるっす」
「レガンス領は多くの事業に取り組み輸出する商品が多くなっておりますから、商人や冒険者の多くが活躍しております。これも土筆さまのお陰なのですよ」
「雇用が生まれ金が回るのは良い事なのじゃ」
アステリアスが話を締め街道から土筆へと視線を移すと、件の土筆は少し離れた所で串に肉を刺す第三近衛中隊の調理の様子が気になるのか、そちらを向いて作業を見つめていた。
「我がせっかく土筆を評価し褒めておったのに~」
「土筆さまは誰かの評価を期待して家事をしていないのでしょう」
「あーしもそれは思うし、褒められたいっていうよりも、笑美や家族の為に家事を自然としているだけだし」
「一緒に住んでいると実感できるっす。服のたたみ方ひとつとっても笑美と自分のは違うっすね」
「それでしたら料理の盛り付け方もですよ。アステリアスさまは苦い野菜がお嫌いなようで残しますから少しだけにしたり、疲れた顔をしていると甘味を出してくれたり、タオルを置く場所も背の低いレナさまやペルーシャさまが手の取りやすい位置にしておられます」
普段から一緒に生活している者には当たり前な事も、レレやキャルロッテなど別で寝泊まりしている者たちはその行動に気が付き指摘する。
「細かな事……でも……重要……」
「そうなのじゃな……土筆らしいといえば土筆らしいが……」
普段から気を使われている事に気が付いたアステリアスは腕組みをし、未だに第三近衛中隊が料理する姿を見つめる土筆の横顔へと視線を向ける。
「私の部屋を作ってくれた時は本当に感激いたしました!」
空気の読めない聖女の言葉にイラッとして振り向くが、
「にゃ~もお願いして魚を干したのを作ってもらったにゃ~あれは美味しかったのにゃ~」
「自分もココアを入れて貰った時は嬉しかったっす! 自分と同じ名前の飲み物がある事に驚いたっす!」
「あーしもお土産の魚を料理してもらったのは嬉しかったし。それでいて美味かったし」
「ん……福豆は……無限……」
「私もはじめて豚汁を食べた時はとても温かく美味しかったですね。疲れているだろうと力の出る料理を作って下さいました」
乙女たちの言葉にアステリアスは頬を膨らませながら、近くで第三近衛中隊の様子を見つめる土筆の背中へと抱きつく。
「我だって、我だって……………………あれじゃ! カラアゲを作ってもらったのじゃ! 我はまたカラアゲが食べたいのじゃ!」
背中に抱きつき叫ぶアステリアスに驚くも、土筆は背中から聞こえる料理のリクエストに頬笑みを浮かべ、指輪の機能から神器を取り出し足の長いテーブルへ形を変えて設置し、新たに人数分のランチョンマットに包まれたお弁当を出現させる。
「これはアステリアスさまのお弁当ですので、残さず食べて下さいね」
背中に抱きつくアステリアスへと逆再生したリレーのバトンの様に渡す土筆。それを受け取るアステリアスはテーブルに置きランチョンマットを広げ開封すると、周りの乙女たちから歓声が上がる。
「おお、カラアゲなのじゃ! ハンバーグも入っておるのじゃ!」
お弁当箱の中にはアステリアスが希望した鳥のカラアゲにミートボールと卵焼きが入り、炒めたキャベツとプチトマトが彩りに添えられていた。
「にゃ~美味しそうにゃのにゃ~」
「これがペルーシャのな。他の人も結び目近くに名前が書いてありますので、自分のを食べて下さいね」
乙女たちはお弁当箱に集まり、土筆は弱火に掛けておいたトマトの中華スープの味見をし、ゴマ油を足し香りを立てて碗に注ぎ入れ、お弁当を広げ始めた乙女たちへと配り、地面でへっへしていたふぇるりんにも、ふぇるりん用の皿に盛り付けた焼いた鳥肉と柔らかく煮た人参やカボチャに、食べると尻尾の振りが激しくなるプチトマトを添えた物を近くに置く。
「熱いので注意して食べて下さいね」
「うむ、スープも用意しておったのじゃったな。赤と黄色が綺麗なのじゃ」
一番にカラアゲを口にしてニコニコのアステリアスはスープへと視線を移し、ゴマ油の香りに目を閉じ香りを楽しむ。
「こうやって立って食べるのも面白いね!」
神器を足の長いテーブルの形に変えた事によりペルーシャやレナのような身長低い者にとっては丁度いいのだが、身長の高いレレは屈みながらお弁当を持ち上げ食べてスープを食べる際はお弁当を置く手間が生まれるが、レレは笑顔でミートボールを口に入れ表情を崩す。
「こう見ると身長差があるっすね」
「ん……レレとキャルロッテは大きい……胸も……」
ペティートの言葉に二人の胸へと視線が集まり見つめるが、笑美だけは空に流れる雲を見つめ言葉を漏らす。
「私は三番目に背が大きいけど、ペッタンコなんだぁ~」
「フグッ」
「グフッ」
「………………グッ………………」
奇しくも身長順に並んでお弁当を食べていた事もあり、対面で食べていたアステリアスにレナにペティートはお弁当を噴きだしそうになるが、何とか堪えながらも気管へとダメージが入り咽る背の低い乙女たち。
そんな会話を後にしながら土筆はテントに入り、まだお弁当を渡していないエルエルの元へと向かうのだった。
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