第6話 いざ鍛錬を放つとき
少し前までのこと。
私には、シフェーン様のお父様、シャーマ・ダイナ様に鍛えられた風系魔法がある。
同じく森のエーベル様からは弓を鍛えてもらった。
いつも私は早朝から隣家のシフェーン家へ赴き、炊事などの手伝いをしていた。
「シャーマ様、他にお気づきのことはございませんでしょうか」
「ああ、夕市が立つときに儂と一緒に行こう。ミルキーウエイから商人がくるようだし。偶にいい剣も売っているからな」
「お供いたします」
一方で、シフェーン様は父シャーマ・ダイナに辟易しているようだ。
「朝から酒がないのはどうしたことだ?」
「今朝がたまで飲み明かしたからだよ」
息子ならではの直球のお叱り、手加減なしで勇ましいというか。
私は酒を嗜むのは構わないが、性格を変えるようだと問題があると思った。
ダイナ家は、金髪の美しかった母のミメイ・ダイナは亡くなり、母によく似た銀の目の妹のルシ・ダイナも夭逝したので、家族は父しかいない。
「シフェーン様は、理想が高いのでしょうね」
「長になるには必要なことだろう?」
「そうですね」
七歳にして「身分制度」に指摘をしたり、巻物で読んだが、ヒノモト国では、力量に応じた色を与える制度ができたと書かれていた。
央国とヒノモト国は取引をしているともあった。
物品ばかりではなく、仏師も往来していると聞いた。
我が国は、太陽を神とし夜は魔物が現れるから陽のある内になんでもやってしまわなければならない。
クナガイに竹で編んだアーチがある。
そこに太陽が入ればどこにいても衆目は体を伏せて拝む。
これに疑問を持ったことはなかった。
「剣を教えてやる」
家の外へ父が飛び出すとシフェーン様に続いて私も追う。
この頃からシフェーン様には魔力が備わっており、剣の相手をしながら、エーベル様から教わった風の呪文を唱えた。
「アスカ、これが剣に纏う魔風だ」
「小鳥以外に使えますか? 人に使う為のトレーニングなのですよ」
「百発九十九中だよ」
「最初に一パーセントが当たったらそこで終わりなんですよ。完璧にしないと」
シフェーン様は考え込んでいた。
「負傷しながらの残りの戦いもありだよ」
「致命傷にならなければいいのですが」
「そういうアスカも磨けよ」
「はい。最近は矢作りも長けてきました」
父の剣は吹き飛び、シフェーン様の剣には風が焔の如く巻き上がって驚く。
「素晴らしいです!」
「お、アスカ。応援してくれんの?」
「当たり前です」
私はその光景に惚れ込んでいた。
「じゃあ、森へ行こう」
シフェーン様と私は顔を見合わせて森へ分け入った。
私たちは足取りが軽い。
「お祖母様!」
「エーベル様、お久し振りです」
入口に掛かっている麻布から顔を出した。
「シフェーンにアスカか。いつもきてくれてありがたいよ。さ、お入り」
エーベル様に衝撃の陽ノ国策について興奮して話した。
今朝の話をして、力とは何かを語られる。
お祖母様が氷刃国から亡命してきた話に耳を傾けた。
「女ってな、男の傍にいたらあかんのや」
「どうしてです?」
「結局は肉体関係になるからじゃな。だが、私は誰のお手付きにもならなかったんよ」
シフェーン様は、スシュンを姉に持つアスカより先に泣き出してしまった。
「スシュン様はまだクナガイにいて純潔を守っていらっしゃいますよ」
「証拠もなく言えるのか?」
「証拠は、初めてのときに旦那様が分かるのではないでしょうか?」
「どんな」
コホンとエーベル様が咳を一つ。
「それは、大人になれば分かるとスシュンは話していました。年上の女性のいうことに間違いありません」
「エーベル様も年上の女性だな」
「いや、その、まあ、エーベル様は特別です。エルフですから」
私が宥めることになる。
エーベル様は、私たちが大きくなるまで時間を稼いだそうだ。
「十年はスシュンが敵国に貢がれない魔法を掛けた」
翌、クナガイの息子シャーマ様に瑠璃細工を貢ぐように呪文をかけたとも明かした。
二人は安堵するが、十年は短かった。
◇◇◇
そうこうしている内に、氷刃国に入った。
北上して行くと白夜城に着く。
「重厚な門に圧倒されたが、初心を忘れてはならない。誓おう」
道中、咲いていたタガワヌの葉をお互い持っている。
これに魔法を含ませれば、お互いに何度でも再会できる。
「シフェーン・ダイナより、アスカ・マホロバを呼ぶ導となれよ。三、二、パ――ラス!」
「アスカ・マホロバよりシフェーン・ダイナ様を呼ぶ導となれよ。三、二、パ――ラス!」
輝いて燃えつきた。
その灰を水に溶いて飲む。
我々は、いつも友情を欠かさない。
とくにアスカは篤い、焦がれる程に。
ゲヘナの炎で焼かれるようだ。
「この雪で凍てつく足も手も、そして眉からもツララが落ちていく世界。
「ここからエーベル様がいらしたんですね」
「そうか、そうなんだな」




