第4話 氷刃国女装
「白湯セットと毛布は持った」
「ん? アスカ。忘れ物は?」
「えーと、シフェーン様が一人と……」
シフェーン様の奥歯を噛む音がした。
怒った?
そんなに度量が狭いかな。
「をい」
「え?」
「僕は頭数に入らないだろう?」
軽く笑った。
「毛布の中に女装セットも入っています。寒くなったら着て貰っていいですよ」
女装セットについてか、シフェーン様は頭を掻きまくった。
「僕はこの真っ赤な上着を着るの本当に恥ずかしかったんだから」
「でも次期長の正装は赤に黄色の帯ですよね」
七歳のシフェーン様を思い出した。
まだ、身分制撤廃はしていないけど、この方はきっとやる。
「そのことだけど、帰国したら実施するよ。僕が七歳になったとき、父がいつまで持つか分からないのを心配して声を上げたんだ」
「なるほど」
私は水色の一等岬兵だ。
貝塚を音も立てずに歩くトレーニングをしてきたのも野暮ったい話ではない。
「シフェーン様、一所にいては危のうございます」
「だな」
目を合わせ、そろそろ腰を上げた。
シフェーンとアスカは二人旅を始める――!
「ぐーるきゅる」
シフェーン様のお腹が鳴った。
ホーホー。
ホーホー。
「上空をご覧ください。丁度いいところにムクの群れがきましたね」
私は鷹の目を使い、上手く二羽落とした。
渡り鳥をナイフで捌く。
たまに射っていたから慣れたものだ。
「僕が焼くよ」
「お願いします」
鳥の周りが炎だらけになった。
丸焼きだ。
「羽とかついたままだったね。尊い命をいただきます」
「野趣に富むな」
朝ごはんは豪勢なものとなった。
ムクの丸焼きなんて、七歳に着帯をして以来だ。
村の外には意外と多かった。
一万歩程度毎に白湯のお時間となる。
「シフェーン様、こうして歩きながら白湯の一時。いいものですね」
「アスカはのほほんとしていてかわいいな」
「お、スシュン姉さんに続き、私までですか?」
「なに言ってんの」
「だって。本当はスシュン姉さんも持っていかれるんですよ」
「持っていかないさ。だからこうして……」
え?
カップに波紋がある。
泣いていらっしゃる?
「私はミズナシの魔法も会得いたしました。どこでも白湯を用意できます」
胸を一つ叩いた。
――はいいが、むせってしまった。
「アスカ、お道化なくていいよ」
いえ、シフェーン様。
マジでむせてます。
ゴホッ。
こうして旅の疲れを取りつつ歩んでいた。
「やあ、お二人も旅をされているのか? 俺も旅人でカルマノ国へ向かっている。ここへくる途中、海山ノ国では海賊も山賊も跋扈しているので怖いですぞ」
私たち二人とも外の見識がなく、氷刃国しか敵がいないと思っていた。
「俺も噂でしかないが、お連れの緑の瞳の方は顔貌はヒノモト国によくあるそうだよ」
「ヒノモト国は島国なんだってな。僕も驚いたよ」
「本人も驚いてます」
シフェーン様はにやっと笑って、口元を手で押さえる。
「案外祖先だったりして」
海の向こうなのであり得ないと思うのだが。
旅人と別れて再び歩み続けた。
「ここはミルキーウェイというそうだ」
「道理で色んな動物が食べられると思いました。皆、敵を知らないんですね」
寡黙に歩き通したが、食べるときは二人とも元気に語り合った。
「これはタガワヌの葉です。単子葉植物ですね」
「アスカはこの討伐のあと、学校の先生をしたらいいよ。物知りだしな。教え方も優しいし」
「え? 友情執事のお仕事ですよ」
「僕は友情執事がいなくても生きていられるけど、幼い子どもたちはアスカ……。頼りにされるということは、自分の二本足で立つ力がないと駄目なんだよ」
「……よく考えさせていただきます」
イーイーカウがぬーっと土を泳いでいった。
でたなイーイー。
「し!」
シフェーン様には黙ってもらってここは一撃だ。
シャッ――!
弓はイーイーカウのコブに当たった。
イーイー!
イー!
土の中を泳いでいたが、浮き上がった。
目も瞑っている。
よし、捌くか。
「鳥も美味しいが魔法で土を泳ぐイーイーカウは絶品だな」
「宮廷のメニューにイーイーカウとトロロチーズのサラダは欠かせないようですよ」
「ああ、それはそれで食べてみたい」
「駄目ですよ。敵から餌付けされたら。私はシフェーン様を笑います」
「悪い悪い」
そうこうしている内に、グレーゾーンも過ぎ、眼前に氷の聳え立つ氷刃国の国境を越えていた。
私は矢が減っていたので、途中の竹林でしなりのいい矢の根幹とムクの羽を用いて矢を作り足した。
イーイーも食べるときに剥いだ皮で矢の先もなめした。
もしかして、クナガイの矢よりもいい矢かもしれない。
「矢は十二本しょっているよ。この範囲で敵を倒す」
北へ北へと歩むと段々寒さが増してきた。
「シフェーン様、女装をしてください」
「な……。なんで?」
「もう、見張られているかもしれません」
「じゃあ、門扉より前の民家に隠れるか」
私は首肯した。
「お似合いですね。ほーんとにお似合いで」
「本当はスシュンが着るんだよ」
「うちのスシュンがねえ……」
「ん、あれか?」
白夜城に着いた。
重厚な門に圧倒されたが、初心を忘れてはならないと二人で誓う。
道中、咲いていたタガワヌの葉をお互い持っている。
これにハナレズの魔法を含ませれば、お互いに何度でも再会できる。
我々は、いつも友情を欠かさない。




