遭遇
「涼し~!やっぱ冷房の効いたところは最高だね!」
学校を後にした二人は途中途中で寄り道をしながらも、伊織の提案したショッピングモールを訪れていた。
日が高くなるにつれ、じりじりと蒸し暑くなってくる中を歩いてきた二人にとって、快適な温度に保たれているショッピングモールの中はまさに天国だった。
「すっかり忘れてたけど、道中バスとか乗れば良かったね。暑い中歩かせてごめん」
「別にいいよ?パパと色々話しながら歩くの楽しかったし!」
そう、ここまでの道中で凪沙は伊織に対し、未来での出来事を色々と話してくれていた。
つい最近家族三人で旅行に出かけた時のこと、小さな頃風邪をこじらせて入院したことがあること、伊吹の娘や息子達つまりは従兄弟ととても仲が良いこと、友達のこと、学校のこと、母親のこと、父親のこと……。
どの話も楽しそうに、面白おかしく話してくれた。
(家族仲も悪くなさそうだし学校生活にも特に問題はなさそうだけど、凪沙が過去を変えたい理由は一体何なんだろう)
昨日の夜に出会ったばかりではあるものの、おしゃべりな彼女と会話を交わしていくうちに、伊織は凪沙の人となりをおおよそ理解し始めていた。
(凪沙は良くも悪くも正直な性格だ。彼女の言葉がすべて噓だとすればまた話は変わってくるけど、態度からして噓をついていないことはなんとなくわかる。もう少し話を聞いてみるほかないか)
俯き気味に考え込む伊織に対し、凪沙は顔を覗き込みながら問いかける。
「パパ?どうかした?」
「あ、ご、ごめん、なんでもないよ」
「そう?それならいいけど。それよりさ、歩いたらお腹すいちゃった。取り敢えず何か食べに行かない?丁度お昼時だしさ」
そう凪沙に言われ、ふとモール内に設置されている時計に目をやると確かにもう12時を回っていた。
「本当だ、こんな時間。じゃあフードコートにでも行こうか?」
「うん!」
◆◇◆◇
フードコートへ移動した伊織たちは各々注文を済ませ席に着いていた。
休日の、それも昼時ということもあってフードコートは人でごった返しており、席を確保するのも一苦労だった。
「人多いけど、席取れてよかったね!」
「丁度のタイミングで席が空いたからね、今日はツイてるかも」
そんな他愛ないやり取りを交わす。
「そういえばさ、未来のうちって外食とか結構するの?」
「外食……うーん、あんまりしないかも。」
「そうなんだ、休日とかも?」
「うん、休日はよくパパがご飯作ってくれるんだよ。この間なんかちょっと変わった料理作っててさ……」
凪沙が話をしていると、ピピピと呼出のベルが鳴る。
「あ、料理取りに行ってくるね」
凪沙はそう言い残すと足早に席を立つ。
遠ざかる凪沙の背中を見ながらぼーとしていると、不意に伊織は声をかけられる。
「あれ?東雲くん?」
不意に声をかけられた伊織はビクッと肩を震わせ、声のする方へと顔を向ける。
「やっぱり東雲くんだ、奇遇だね」
「よー、しののめー。ひとり……ではないか」
「なんだ、姫路さんたちか……」
「なんだとはなんだー、失礼なやつだなー」
姫路咲と熊浦のの、現れたのは伊織のクラスメイトたちだった。
「東雲くんは誰かとお出かけ?」
「うん、まあ友達……?と、かな。姫路さんたちは?」
「いやー咲がさー、またデカくなったから新しい服がほしいとかいいだしやがっふぇ……」
自身の胸の前に両手で弧を描くようなジェスチャーをしていた熊浦の両頬を姫路が鷲掴み、叫ぶ。
「デ、リ、カ、シー!!!!!」
「いやー、何しに来たか聞かれたしー」
「『服買いにきたー』だけで良いでしょバカのの!少しは頭使ってよ!」
独特な熊浦の口調を絶妙なクオリティで再現した姫路の鋭いツッコミが冴える。
二人は小学校からの幼馴染らしいが、しっかり者で学級委員長を務めている姫路と、マイペース&マイワールド全開の熊浦の仲が良いというのは何度見ても奇妙な組み合わせだ。
「あはは……ののが変なこと言っちゃってごめんね。私たちもう行くから」
「う、うん。また学校で……」
若干気まずい空気が漂い、姫路と熊浦がその場を離れようとしたとき伊織はまたも不意に声をかけられる。
「おまたせー!パパ!あれ?」
凪沙は伊織の前に立つ姫路と熊浦を見てきょとんとしている。
「パパぁー?」
熊浦が凪沙と伊織の顔を交互に見る。
「えーと、伊織くん、こちらの方たちは?」
凪沙は友達の体で語りかけてくる。
「クラスメイトの姫路さんと熊浦さんだよ」
「こんにちは、えーっと……?」
「こんにちは、私しの……逢坂!逢坂凪沙っていいます。伊織くんとは遠い親戚なんですよ」
東雲姓を名乗りそうになった凪沙は一瞬目を泳がせると、何故か逢坂姓を名乗り始めた。
伊織が凪沙の視線を追うと、『人気アイドル 逢坂美月スペシャルステージ近日開催』と書かれたポスターが目につく。
(あれを見たのか……)
「なんだよーしののめー、こんなかわいい娘連れてデートかー?おまえもスミにおけないなー」
「で、デートじゃないから!?」
伊織は声を上ずらせながら答える。
この時、伊織は何故か凪沙からの視線が若干冷たくなったように感じた。
「デートじゃないならー、あ、さっきパパとか呼ばれてたなー。もしかしてパパ活か?おまえやばいなー」
「え、そうなの?東雲くん……」
熊浦の言葉に、姫路はドン引きした表情で伊織へと問いかける。
「いや、違うよ!?誤解だって!」
「ごめんなさい、伊織くんとは昔よくおままごとしてたからその時の癖が抜けなくて……誤解させちゃいましたね」
「なんだ、そうだったんだね。びっくりしたあ」
「なんだー、つまらん」
(なんだその言い訳……)
誤解が解けた?のも束の間、姫路が口を開く。
「じゃあ二人の時間を邪魔しちゃ悪いから今度こそ私たちは行くね。のの、行くよ」
「おー、じゃあなー、しののめー、あいさかー」
ニコニコと手を振りながら姫路たちを見送っていた凪沙は二人が立ち去るや否や、たちまちムスッとした表情になり伊織を無視して食事に手を付け始める。
「あのー、凪沙さん?」
「……」
食事を終え、フードコートを出た後も凪沙は無言のまま伊織の前を歩く。
「凪沙さーん……」
消え入りそうな声で呼びかける伊織。
その声を聞いた凪沙は不意に立ち止まると、頬をぷくーと膨らませながら伊織へと向き直る。
「あたし今すっごく怒ってるんだけど?」




