第8話 舞美からのデートの誘い
探索科学校の時間割の話だが。
平日は、午前が座学、午後が探索に行くか、またはその準備をする。
その『平日の午後』は、『自由時間』ではない。
普通の学校では授業をやっている時間を、『探索者としての活動』のための時間にする。
そういうものだ。
とはいえ、『ゲーセンの特定のゲームで遊ぶと、その後のダンジョン探索で調子が良くなり、集中力が上がる』みたいなケースもなくはない。
そのため、学生が平日の午後にゲーセンで遊んでいても問題はない。
ただし。
『あの、閃斗さん。デートに行きませんか?』
電話越しに、閃斗にそう言ってくる舞美だが。
平日の午後に、男を誘ってデートに行っていいものか。
「ああ。わかった」
閃斗としては、本心から、どうでもいいことである。
『そ、そうですよね。迷惑かけていいって言ってましたし……』
「言ったな」
『そ、その、付き合ってる人って、いませんよね』
「君次第だ」
『んなっ!?』
『ぴっぴっぴwww』
『ちょ、笑うな! そのインナー洗濯しますよ!?』
『ぴぎゃあああああっ!』
電話の奥で何が起こっているのだろうか。
「なんていうか……いずれにしても前のめりだな」
『何か言いましたか?』
「いや、何も」
いずれにしても、と閃斗は言ったが。
では、何と何があるのか。
若い男女であり、会うとなれば、『恋愛』が真っ先に思い浮かぶが。
閃斗はこういう声色を知っている。
これは、恋愛ではなく『安心』のためだ。
その上で、閃斗は問題ないとした。
……電話の向こうで、ミーちゃんに問題が起こっていそうではあるが。
「で、どこに行くんだ?」
『え、えっと……』
「ただ、街を歩きたいってだけでも構わないが……『鮨処・鮫皮』って知ってるか?」
『高級寿司屋ですね。このあたりだと、なかなか予約が取れない人気店ですが……』
「大将が俺にでかい恩があってな。一週間に一度、タダで食わせてくれるんだよ。個室も、普通より小さいヤツだけど俺専用がある」
『はあっ!?』
人気があって予約がなかなか取れない高級寿司屋に、専用の個室がある。
一週間に一度しか使わない個室なのに、稼働率を無視して作られているのだ。
一体、何があったらそんなことになるのだろうか。
「二人前と、ミーちゃん用に何かだな。まぁ、それくらいなら問題ないし、電話しとくよ。待ち合わせは駅でいいか?」
『え、えぇ……』
「それじゃ、俺はこれから準備して駅に行くから、ゆっくり準備して来いよ。認識阻害の効果があるマジックアイテムは忘れずにな」
『わ、わかってます!』
「そんじゃ」
通話終了。
すぐに、閃斗は電話をかける。
「あ、大将。これから行くよ。二人前と何か小さいものよろしく」
というわけで、準備して、閃斗は駅に向かって歩き始めた。
★
「……」
駅と言うのは人が多い場所だ。
通りかかる人の誰もが、何かの目的を持って歩いている。
ただ、その目的は、閃斗の肌を見て、驚愕することも多い。
「ね、ねぇ、あの人、肌、綺麗すぎじゃない?」
「モデルさんかな。何を使ってるんだろう」
管理支部のロビーにおいては、『ママ活疑惑のDランク』の閃斗だが。
当然のこととして、この町に住んでいる人間の内、九割は探索者ではないし、管理支部のロビーを利用することもない。
そんな人たちからすれば、閃斗の肌はあまりにも綺麗すぎる。
顔立ちは特別良いわけではない。しかし、『優男』と称される顔立ちではある。
見られていてもストレスを一切感じていない落ち着いた雰囲気は、スマホを弄っているだけでもなかなか絵になる。
「……ん?」
シャッター音が鳴らない、カメラの作動を感じ取った。
閃斗が目を向けると、銀髪でギャル風の女子高生が閃斗にカメラを向けていた。
白堂学園でも黒王学園でもない制服だが、そもそも双葉ケ丘市は白堂学園の存在によって、『特別な美容品』を扱っている会社が多い。
駅ともなれば、別の市から来た人が通ることも珍しくない。
「あ、バレ……」
「撮った写真。最大までズームしてみな」
「えっ」
「いいからズームしてみな。毛穴一個もないから」
「……」
言われた女子高生はスマホを見て、写真を選んでズームしている。
「う、うっそでしょ……」
「すごいだろ。ただ、盗撮はダメだぞ」
「す、すみません……」
「で……何を他人のフリしてるんだ?」
「えっ」
「制服とウィッグが認識阻害アイテムってのも聞いたことはないが、そんなギャルみたいな格好してくるとは思わなかったよ」
「うぐっ……」
そう。
目の前に来た、『銀髪でギャル風の女子高生』だが。
それは、『制服型の認識阻害型アイテム』を着た、宝生舞美だ。
マスクもメガネも付けていない。
ただ、制服とウィッグに、『宝生舞美だと認識されない効果』がある。
では、何故、閃斗がわかったのかと言う話ではあるが。
「試したつもりならまだまだ甘いな。まぁいいや。行こうか」
「は、はい……」
「ぴぷぷっwww」
「ちょ、ミーちゃん……」
鞄の中で笑うミーちゃんを、顔を赤くしながら抑える舞美。
閃斗は舞美を連れて、街中を歩き始めた。




