↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/40

第37話 強者への自己催眠

 別の道路に逃げる土屋。

 それを追いかける警官たち。


 何かの思惑を感じながらも、少し遅れて追いかける閃斗。


 真夜中で、街灯に照らされた街の追いかけっこだ。


 ただ、土屋の目的は、『逃げること』ではない。

 とある、『時間を稼ぐこと』だ。


「俺は、俺は正義を執行してんだ! 邪魔すんなああああああっ!」

「ぐぼおおっ!」


 剣を構えて、警官に蹴りを入れる土屋。


 蹴られた警官は吹っ飛んで、壁に激突して、そのまま気絶している。


 土屋の目は据わっていて、もはや、拳銃を威嚇のために使っている段階ではない。


 もちろん急所は狙えないが、その場合に狙う場所も訓練されている。


 そもそも、現場で、人を実際に襲う可能性が高いと判断されている。


 警官たちの中でも、腕利きを集めているのは明白だ。


 しかし……。


「く、クソッ! も、もう俺だけ……」


 仲間が次々と気絶させられて、最後に残った警官は発砲する。

 魔法を組み込んだ消音の弾丸だ。


 それが土屋の体に命中……する寸前、何か薄い膜のようなものに当たって、弾かれる。


「魔力を使った防御膜か。だが、あれほどの性能。みたことがない……」

「邪魔だ!」

「ぐあっ!」


 発砲した警官に一瞬で近づくと、そのまま蹴りを入れて無力化させる。


「よし、これで、全員だ」

「Cランク探索者とは思えない動きだったな」

「……あぁ?」


 警官たちを全員制圧して一息ついたとき。


 閃斗が路地裏から出てきた。


「てめぇはさっきの……おいおい、警官を見殺しかよ」

「気絶させただけで殺してないだろうに。もともと、警官だけでお前を制圧するはずだったんだよ。言っておくけど、俺は民間人だからな」

「民間人……」

「探索者であっても、拳銃を持って現場に来る警官たちに混ざって、制圧作戦をやるようなマニュアルなんて存在しない」

「……何言ってんだ。お前」

「……あー、すまん。話が一個、飛んでたな。先にそっちからだ」


 閃斗はため息をついた。


「『自己催眠』ってやつか? 『自分が最強で正義の存在』みたいな、そういう洗脳を自分に使って、一時的に戦闘力を急上昇させてる」

「何言ってやがる。俺は自己催眠なんて……」

「なるほど、『精神魔法の被害者』という役作りのために、『自己催眠なんて知らない』ってフリはちゃんとしてるのか。思ったより演技プランを組むタイプだな」

「だから……」

「話が平行線になるから説得しようとは思ってないよ」


 閃斗から見て、今の土屋は、『自分が最強で正義の存在である』という自己催眠を行うことで、一時的に戦闘力が急上昇している。


 それだけで本当に強くなれるのか、と言われれば、これが馬鹿に出来ない話でもある。


 そもそも人間の体は、肉体的にも精神的にもリミッターだらけだ。


 探索者はモンスターと年がら年中戦っているし、武器を振っているが、それでも、『人を襲う』ことには大きなストレスを感じる。


 だが、『最強で正義の存在である』という自己催眠は、それだけで、体の中のいろんなリミッターを外せる。


「ダンジョンから見ても理にかなってるのは間違いないけどなぁ」


 ダンジョンにとって、50層を超えて、51層以降に進むSランクという『人外たち』は、いずれも、体の中の、何かのリミッターを解除している。


 閃斗の場合、出力をミクロレベルに絞った魔法を体内で炸裂させることで、神経や筋肉、皮膚に影響を与えてコンディションを最高にする『体内魔法』を使っている。


 どれだけ出力を絞ろうと、多くの属性たちは『攻撃魔法』だ。


 それを体内に使うというのはあまりにも狂った発想であり、それを実現できたからこそ、『人外』として、50層を超えて51層に到達し、Sランクになる。


(まぁ、だからと言って、土屋がSランクの素質があるのかってなると……そもそものスペックで50層に到達してないんだがな……)


 ただ、リミッターを外せるかどうかというのは『素質の一つ』の話だ。


 それができるからと言ってSランクになれるなら、世界はもっと、『犯罪者を飼いならす研究』を進めているだろう。


「……で、『民間人を警察のマニュアルに組み込まない』って話を戻すと」


 別に自己催眠を認めるなら話は早いが、それを認めるかどうかは重要なことではない。

 話を拳銃を持って現場に来る警官たちの作戦に、民間人が入り込むマニュアルはない。と言う話に戻す。


「お前は『正義の執行』の最中だ。そんなお前が、『自分の方が実力があるんだから、警官たちの作戦に入って活躍する資格がある』と勘違いするのも無理はない」

「か、勘違いだと?」

「そうだ。まぁ実際、例外はいろいろあるから、『一概に言えない』っていう何も面白くない結論になるけど、原則はそうだ」


 自分には実力があり、正しいことをするべきで、自分の能力を正しく発揮できる現場があるなら、そこに割り込んででも活躍するべき。


 おこがましい理屈ではあるが……。


「まぁ、刑事もののドラマでも、上司の命令を聞かずに勝手に動いて、『犯人を逮捕する功績があればいい』って脚本は多いからな」


 功績。成果。偉業。利益。


 数多くの指令・責任の系統を粉砕する概念でもある。


「探索者だって、上の命令を無視して動いておきながら、『武功があればいい』って魔法の言葉で押し通す『パワープレイ』がまかり通ってるからな」

「……何が言いたい」

「あー……」


 頭の中でちょっと要約する。


「配慮するってのは美学の話だから、押し付けるつもりはないってことだ」


 閃斗は土屋を、正面から見据える。


「話が長くなって悪かったな。まぁ、長話をした理由は明確にあるんだが……それはおいておくとして」


 閃斗は鞘から、刀を抜いた。


「で、『事件』というのは解決するべきだ。そこは押し付けさせてもらうよ」

「やってみろや!」


 土屋は剣を構えて、閃斗に突撃した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。