第35話 ゼリー飲み過ぎだぞ女子高生。
古今東西、共通することとして。
複雑な理論を単純にすることはさほど難しくはないが、面倒な作業を手軽にすることは非常に難しい。
美容と言うのは金がかかるし、白堂学園では探索者として活躍しつつ、一部の生徒は芸能人としての仕事をこなすことも求められる。
時間はいくらあっても足りないくらいで、探索者として強くなることを考えながら、肌質の維持も必要だ。
ストレスの管理が頭おかしいレベルに到達しており、その一番のネックは、『探索者として強くなること』と、『芸能人としての商品価値のための肌質維持』の両立だろう。
両立。という言葉を使うということは。
言い換えると、『芸能のための美容』と『探索者としての実力』は独立していたということを意味する。
それを、コンビニに行けば売っているようなゼリーで双方のボトルネックを少しでも解消できるというのは、なかなかすさまじいことだ。
「……購買部で、閃斗さんが紹介していたゼリーを並べることが決定したそうです」
「ほう」
「閃斗さんには、どんなゼリーを置いておくのが収益として効率的なのかをリストにしておいてほしいとのことです」
「一応聞いておくんだが、購買部って、どこが運営してるんだ?」
「学校側が直営してます」
「そんなに儲かりそうって思われてんのか?」
「画期的な需要が発生した消耗品ですし、今後も収益が見込めそうとのことでした」
「なんか疲れ……いや、呆れてないか?」
「そりゃそうですよ。私が閃斗さんを臨時講師としてねじ込むにあたって、Dランクですから、反対意見は当然ありました」
美少女ばかりの白堂学園の中であっても『魔性の美』と称される舞美から見ても、閃斗は『神肌の持ち主』ではあるが、噂は『ママ活Dランク』だ。
明らかに女子校に連れ込むにあたって拒否反応が出るのは仕方がない。
舞美が強権でねじ込んだのも、いろいろ賭けた結果ではある。
「それが、閃斗さんが紹介したゼリー飲料が生徒の中で大流行してるんです。自分たちが反対していたことすら忘れて、どれくらい儲かりそうなのかとめっちゃ聞いてきますよ」
「……そうか」
非常にうんざりしている様子だが、まぁ世の中そんなものだろう。
「特に購買関係を担当していた人は大反対していましたからね」
「まぁ、俺がどんな化粧品がいいのかって話したら、購買部にあるものが一夜で不良在庫になる可能性もあるからな」
白堂学園の購買部ともなれば、化粧品だってそれ相応にそろえているだろう。
むしろ、双葉ケ丘市の化粧品メーカーの方から営業が来るに決まっている。
閃斗は市販の洗顔とシャンプーとボディソープしか使わないので購買には一切興味がなかったが。
「校内限定品として高額な化粧品も置いてますからね。芸能人としても活動しつつ、Cランクを目指すカリキュラムともなれば、生徒はみんなお金を持ってます。ちょっと高い程度の化粧品くらいは買うんですよね」
「その校内限定の高額化粧品。舞美は使ってるのか?」
「いいえ」
「即答か」
取り繕われたとしてもどうしようもない話ではあるが、もうちょっと大人の沽券への配慮を教えた方がいいかもしれない。
……いや、普段は配慮しているだろう。ここまで仕事を多く抱える芸能人が、人への配慮ができないはずもない。
「自分たちが契約した化粧品の聖域は一切揺らがず、別ジャンルで新しい需要が出来ました。その上で、多くの生徒が成長を実感しています。当然、探索者として奥に行けるということは、稼ぎも多くなって、校内限定品は買われやすくなる。ということを教えてくれましたよ」
「教えてくれたんかい」
「まぁ、現金なことが悪いことだとは言いませんが……なんかすごくもやっとします。あんなに反対してたのに」
「どんだけ俺を入れるのが嫌だったんだ?」
都合が悪い。だから嫌だ。
それが通る人生を送ってきた大人ほど、見ていてモヤモヤするものもない。ということなのだろうか。
「ところで、閃斗さんとしてはどう思いますか?」
「俺としては、確かな需要が発生するほど、この学校の生徒はストレスをためてたんだなって思ったよ」
「そこを見ますか」
魔力環境を整えるゼリー飲料。
むしろ今まで全く導入していなかったのが不可解なくらいだ。
「……まぁ、売ることはおろか勧めてすらなかった理由は明白だけどな。動画配信サイトを見れば、『ゼリー飲料に頼ってるヤツは素人』みたいなことを言ってる高ランク探索者は多いし、購買部を管轄する大人って、探索者じゃないんだろ? だったらゼリー飲料を飲んでもただ美味しいだけだからな。効果があるなんてわからんし」
「まぁ、そういうことです」
「舞美は飲んでるのか?」
「私に合うやつをメーカーに電話して箱ごと発注しました」
「工場から直送かよ……」
どうやら、閃斗の講義を一番実践しているのは舞美らしい。
「あれから何回か講義してるけど、全部魔力運用の話だからな。それを実践しつつ、自分にあったゼリーを飲んでれば、そりゃ成長もするか」
「そうですね。どちらかと言うと美容臨時講師という枠を超えすぎて、ちょっと他の先生方の肩身が狭くなってますが」
「別に、基礎がちょっと深くなっただけで、カリキュラムが無駄になったわけじゃないのになぁ」
閃斗はため息をついた。
「閃斗さんから見るとそうではなくとも、他の先生方から見るとそうではないという話です」
「いや、実際、この学校で使ってる教材は確認したし、その教育をしているから、俺の講義が『効いた』って話でもある。どんな学校でも同じ成果が出るような講義じゃないからな」
「そうですか?」
舞美は首をかしげた。
「さっきも言ったが、この学校の生徒が、そこまでストレスを抱えているとは思ってなかったよ」
「……そのストレスをちょっと突いたら、みんながゼリーを飲むようになったと」
「それだけのことだ」
面倒なことを手軽にすると、それまで単純だったことが複雑に見えることもある。
そんなのは、閃斗にとっては錯覚だ。
「んじゃ、俺はリストを作ってくるよ」
「分かりました」
閃斗は生徒会長室を出る。
そして、廊下から、窓の外を見た。
「……そろそろか」
誰に言うでもなく、そう、呟いた。




