第27話 鮨処・鮫皮。再び
鮨処・鮫皮。
主に『ダンジョン産』の食材を提供する高級寿司屋だ。
その食材の多くは、切り身になっても『認識阻害』の影響があり、確かな目がなければ調理することが非常に難しい。
この手の特殊な調理が必要な食材は調達した階層よりも美味くなることが多く、双葉ケ丘市の飲食店の中でも屈指の評価を得ている飲食店である。
「……閃斗君。以前、舞美さんをまたデートで連れてくると言ってたけど、君は本当に大物しか連れてこないね」
「なんだ。一目でわかるのか」
「元Bランク探索者。枢木結月さんだね。いらっしゃい。予約、入れられなくて悪かったよ」
「気にしてませんよ。予約が取れないほど忙しい店だというのはわかってたもん♪」
というわけで、『鮨処・鮫皮』に入った三人。
大将は、一目で、枢木結月の認識阻害を見抜いた。
「今の私も確信できていないのに、なんでわかるんですか?」
「認識阻害を見抜くことそのものを仕事にしているからね。まぁ話は良いか。席に案内しよう」
「ぴうぅ♪」
廊下を歩いて、狭い個室に入る。
席が三つしかないカウンター席だ。
「おおっ、なんだか秘密の部屋って感じがするね。稼働率を無視してこんなところを用意するなんて」
結月は舞美の腕を引きつつ、自分は右側に、舞美を真ん中に座らせる。
閃斗は開いている左側に座った。
舞美からすると、右に結月、左に閃斗、目の前にミーちゃん。といったものだ。
「あ、大将。これ」
「ん? おお……」
タッパに入ったワサビだ。
60層から持ち帰ってきたワサビであり、閃斗のお気に入り。
「え、ワサビの持ち込みなんてできるの?」
「閃斗さんのワサビ。めちゃくちゃ美味しいんですよ。いったいどこから持ってきてるのか……」
「まぁ、そこは機密だな。そうだろ? 閃斗君」
「そうですね」
鮫皮おろしでワサビをすりおろす。
「ぴぃ、ぴうぅ♪」
鼻をスンスンと動かして、ミーちゃんは楽しそうだ。
大将が小さい器にすりおろしたワサビを乗せて、カウンターに置く。
「ぴうっ」
ミーちゃんは口を大きく開けて……。
「危ない!」
声は大きいが、手の動きは静か。
結月が器をずらしたことで、ミーちゃんの口は空ぶった。
「ぴうぅ……」
「……ミーちゃん。ワサビはそうやって食べるものじゃないよ?」
「ぴぃ?」
「ハイお待ち」
「ぴぃ!」
鯛が出てきて、ミーちゃんは喜んだ。
「いただきます。んー……っ! これ、すごくおいしいね」
「そうだろう」
「45層って感じがする!」
「……」
大将の顔が苦虫をかみつぶしたようなものになった。
「ネタを切っているところを見る限り、かなり、大将の手癖に適したものを集めてるね。もしかして、『連れて行ってもらった』のかな?」
「ま、まぁ、そんなところだ」
「連れて行ってもらった?」
舞美は首を傾げた。
「大将に45層にたどり着ける実力は当然ないけど、『一度でも触れたことがある転移スポット』なら、実力に関係なく使えるからね」
「なるほど、それで、45層に連れて行ってもらって、転移スポットに触れたんですね」
「さすがに、1層の転移スポットまで往復するくらいの戦闘力はあるからねぇ」
そんなことを話しながらも、鯛の次はイカなど、お任せで出てくる。
「ただ、ダンジョンのボスって、基本的には一度でも倒したことがあると再度出てくることはありませんけど、『一度もボスの戦闘に参加したことがない人』が紛れてると、出てきますよね」
「そうだね。45層の『転移スポット付き食材エリア』に連れて行ってもらったんだよ。そのエリアにいるのは、認識阻害を持つ魚介類だから、調理難易度も高く、45層よりももっとすごい質を持ってるんだ」
「ボス部屋に『安全地帯』はない。素人の人を連れて、45層まで到達できるなんて、一体誰に……」
「舞美ちゃん。誰にって言いながら閃斗君の方をチラチラ見てるよ?」
「……」
舞美は苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「舞美ちゃん。苦虫を嚙み潰したような顔も可愛いね!」
「どういう意味ですか!?」
「大将もそう思うよね!」
「なんでこっちにキラーパスを投げてくるんだよ。確かに可愛いけどね」
「そんなぁ!? 閃斗さんはそんなこと言いませんよね」
「諦めろ」
「即答!?」
「ぴっぴっぴwww」
「ちょっ、ミーちゃん!」
ミーちゃんは大笑いである。
「舞美さん。一応防音になってるけど、あまり大声はね」
「あ、す、すみません……え、これ私が悪いの?」
舞美が悪いのではなく、周囲の大人の性格が悪い。
しかもその悪さの方向性が全員違う。
まぁ、今、何故その悪さを発揮したのかとなれば、舞美の反応が良くて楽しいからだろう。
「……え、あっ、私、遊ばれてる?」
「ザッツライト!」
「んなアホなぁ……」
「ぴっぴっぴwww! ぴぷぷぷっ♪」
悪い大人に遊ばれている舞美を肴に寿司を食べるミーちゃんであった。
そして……。
一体、誰が大将を45層に連れて行ったのかと言う話は。
完全に、流れていた。




