第26話 3人のデート
「……一体、どんな格好で来るのでしょうかね」
「さあな」
「ぴうぅ……」
双葉ケ丘駅の前。
閃斗はいつも通りの黒ジャージ。
舞美は銀髪ウィッグとギャル風制服。
ミーちゃんはリボンをつけている。
「というか、結月さんって、私を認識できますか?」
「俺の近くにいる美少女ってことで判断するんじゃないか?」
「それは……そうですね」
「ぴぅ?」
銀髪ウィッグとギャル風制服だが。
閃斗にも結月にも、舞美と認識されないのは事実である。
その時……。
「だーれだ!」
「うわっ」
後ろから密着して、自分の胸を舞美の背中に押し付けて、舞美の目元を手で隠す女性。
「え、あの、結月さんですか?」
「もっちろん!」
結月がちょっと離れると、舞美は振り向いた。
「え、えぇ……」
ワイドシルエットのタック入りスラックス。
シアー素材のトップス。
リネン素材のジャケット。
脚にはローファー。
頭は、茶髪のショートボブのウィッグだ。
「あ、圧倒的……25歳ファッション!」
非常に似合っているが、本当に43歳なのだろうか。
「フフッ、舞美ちゃんも可愛いね~」
「うわっ!」
「ぴいっ!」
結月は舞美に抱き着いた。
ミーちゃんは舞美と結月の胸の間に滑り込んだ。
「銀髪ロングのウィッグ。綺麗でかわいいね~。良く似合ってるよ。肌が白くてとっても綺麗なのに、いい感じに着崩してるのが最高だね~。ちょっと肌見せてるけど、閃斗君を誘惑してるのかしら?」
「ちょっとはだけてないと認識阻害が起動しないだけです!」
「ぴいっ! ぴいいっ!」
褒めながらもからかう結月。
慌てて否定しつつもなんか引きはがせていない舞美。
結月と舞美の胸の間に挟まれて大喜びのミーちゃん。
そして閃斗は蚊帳の外。
「……はぁ」
閃斗の顔は明らかに『どーしろっつーねん』と書かれていた。
「結月さん。あんまり弄らないように。認識阻害のせいで、舞美は今も『目の前の女性が枢木結月ではない』という認識と格闘中なんですから」
「だからこそ遊ぶと楽しいんじゃない!」
「最悪だこの人。というか、目の前の女性が舞美じゃないかもしれないって認識を結月さんも持ってるはずですが……」
「『認識阻害を使ってること』は認識できるわ。こんな白昼堂々とそんなアイテムを使ってる、スタイル抜群の悪い子なんて抱き着いてナンボよ!」
「誰が悪い子ですか!」
「ぴいっ! ぴううっ♪」
駅前で何をやっているのだろうか。
「こんな駅前で騒いでると他の人に迷惑ですよ。さっさと移動しましょう」
「フフッ、お金は任せなさい。鮫皮に予約なしで入れるのよね」
「ええ。一週間に一度なら無料ですが、今週分はもう使ってますからね。ただ、専用の席はいつでも空いてるので、お金があるなら入れますよ」
「なら早くいきましょう。ロケの後、行ってみようと思ったら全然予約が取れなくてびっくりしたんだから」
「まぁ、そうでしょうね」
高級寿司屋であり、人気店だ。
地元の新聞社やテレビ局であっても、なかなか取材するスケジュールが取れないくらい、予約が入っている。
三人で街中を歩きつつ、結月は朗らかに笑う。
「デートを提案した時はこんなコースを用意してくれるとは思ってなかったわ。深層のサメの皮を使った鮫皮おろし。どんなワサビになるのかしら」
「……楽しそうですね」
「もちろん。それに、ダンプレの関係者としては、『ダンジョンの素材がどのように使われているのか』は気になるのよ」
ダンジョンマテリアル最前線。
結月が出ている番組であり、いろんな場所に行って、ダンジョンの素材がどのように活用されているのかを調査していく形式だ。
「取材目的でもあるんですね」
「……まぁおそらく、番組関係者が大将に交渉してもなかなかスケジュールが取れないってことで断念したんだろうな。結月さんはその話を元々聞いてたんだろう」
「そういうこと」
食レポというのは分かりやすく視聴者の感情を動かせるもので、人気店である鮫皮で撮りたいとは考えていたのだろう。
ただ、あまりにも予約がすごくて取れなかったようだ。
全国に流れる番組からの取材ともなればその拡散力はすごいものになるが、大将はそのあたりを必要としていないこともあって、そのまま話は流れたらしい。
「勘定はお姉ちゃんに任せておきなさい!」
「お姉ちゃんって」
「ぴいいっ!」
ミーちゃんは元気いっぱいだ。
……『ゴチになります!』かもしれないが。
「というか……こういう展開って、よくあるんですか?」
「たまにあるわ」
「あるんかい」
舞美へのスキンシップに遠慮がないので、同性相手ならしょっちゅうやっている可能性もある。
「まぁ、閃斗君みたいに、年下の男の人を誘うこともあるけどね」
「……何故でしょう。全然嫉妬が湧いてきませんね」
「『お姉ちゃん』として接してるからじゃないか? スキンシップが激しいわりに独占欲を一切感じないからな」
「そんなものですかねぇ……」
「『三角帽子』と『サーベル』と『ドクロの旗』が似合いそうだろ?」
「あああああっ! 腑に落ちたあああっ!」
「ぴいいいいっ!」
お姉ちゃん。というのは可愛い言い方だ。
実際には、船長。それも海賊船。
「というわけで、『鮨処・鮫皮』に向けて出港~♪」
結月もノリノリである。




