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第24話 生徒たちから人気の閃斗先生

 臨時講師として招いたのに、根本的なことはすべて『機密』で通す。


 熱意がある生徒たちにとっては憤慨モノだが、それでも、多くの生徒たちにとって、『今日からできること』だった。


 体内の魔力環境を安定させるゼリー飲料。


 実際にどの程度のペースで飲むのかに関してもしっかり聞いて、荷物として大きく嵩張るものではないことも理解した。


 そもそも、肌質と言うのは一朝一夕で変わるようなものではないことは、みんな知っている。


 各々がノルマを抱えている以上、モヤモヤしても仕方がない。


 決め手となったのは、ミーちゃんだ。


 機密とは言うが、後ろ暗い手段を使っているなら、純粋な存在であるミーちゃんが抱き着くはずがない。


 そもそも、『秘密』ではなく『機密』だ。


 隠したい情報ではなく、『隠さなければならない情報』だと言っている。


 藪をつついて蛇を出すわけにもいかないため、『とりあえず教えてくれた実践的な方法で納得する』くらいは、この学校の生徒たちもする。


 しかしそれは、『大部分は』と言う前提付きだ。


「……」

「……どうした?」

「先生の肌が気になるんです!」


 一年生たちが、ジーッと閃斗の肌を見ている。


 三年生なら、『卒業までに自分がするべきノルマ』も考えて行動している人も多いし、なんなら芸能活動の関係で、午前中に座学が終わったら午後は仕事に言っている人もいる。


 ただ、一年生はまだ比較的、そういった話は少ない。


 この学校に入学する度胸に見合うだけのルックスの持ち主ばかりで、本来なら見られている側の閃斗は緊張してもいいはずだが。


 その顔に、一切の動揺はない。


「まぁ、見ている分には良いけど……」

「さ、触ってもいいですか?」

「別にいいけど」


 生徒の一人が、指先でスッと閃斗の頬に触れた。


「……え、ええ!?」

「えっ、どんな感じ!?」

「赤ちゃんというかお母さんみたいです!」

「どっちやねん。今年25のおっさんに何言ってるんだか」

「25!? 25歳の肌じゃないですよ!?」

「ぴっぴっぴwww」


 ミーちゃんは大笑いである。


「わ、私、魔法の都合で、毎日めっちゃ高いハンドソープを使ってるんですけど、え、えぇ……」

「ぴぃ?」


 ミーちゃんがその子の手を見て、クンクン……。

 プイっと顔をそらした。


「ぴぃ!」


 ミーちゃんは閃斗の手に近づいて、ペロッと舌で舐めた。


「何、今の!?」

「女子高生じゃなくて25歳のおっさんの手の方がいいってこと!?」

「うっそだぁ!」


 あまりの対応の違いに愕然としている。


「刃島先生。楽しそうですね」


 舞美が『据わった目』で歩いてきた。


「ああ……宝生さん」

「あ、会長! 先生の肌、すっごいですよ! 触ってみたら赤ちゃんというかお母さんと言うか!」

「触ってみた?」

「はい! ……ん?」


 その女子生徒は、空気が凍ったのを感じ取った。


 歩いてくる舞美が、なんか、ちょっと怖い。


「宝生さん。あまり驚かさないように」

「……わかっています。ただ、あまりぺたぺた触らないようにしてくださいね?」


 デート中に腕に抱き着いていた女のセリフとは思えない。


「す、すみませんでした……」

「まぁ、それはともかく……刃島先生。作ってほしい書類がありますから、こちらへ」

「わかりました。それじゃ」


 自分を囲っていた女子生徒の後にして、舞美と一緒に歩いていく。


「で、やきもち焼いてるのか?」

「許されるなら蹴りを入れたくなりますね」

「やめてくれ。魔力量が少なすぎて、肌に魔力を流し込んでも鎧じゃなくて綿菓子レベルなんだよ」

「では身体強化せずに蹴れば問題ありませんね」

「法律的な問題がまだ残ってるけど……」

「……」

「……はぁ」


 閃斗はため息をついた。


「学校に入ったのが君を守るためだってことは理解してるさ。別に警戒を解いてるわけじゃない」

「……わかっています」


 舞美から閃斗への感情は、恋愛と言うと少し違う。


 自分の力では対処できず、防ぐには困難な現実があるからこそ、それに対抗できる閃斗に依存している部分がある。


 それゆえに、他の誰かに目を向けているとき、『今、この人は、自分を守れるのか』ということが気になるのだ。


「ただ、今の俺は臨時講師だ。迷惑をかけたいって思ってる生徒には、そりゃ対応するさ」

「でも、本質は教えてはくれないんですよね」

「それはそうだな。機密だ」

「機密って、なんらかの『組織』が関わらないと出てこない言葉ですが、どことも契約していないフリーランスですよね?」

「実際のところ、俺の秘密を話している相手はいるよ」

「え、いるんですか?」

「ああ。まぁ、経営者でな。『それを広めるのは辞めとけ』って言われてる」

「……めっちゃ論点ずらしてませんか?」

「関連事項を述べただけだからな」


 舞美の口が『い』の形で止まった。


 おそらく、『いけしゃあしゃあと』と言おうとしたのだろう。閃斗にはすぐにわかった。


 閃斗もそう思ったからである。


「まぁ、そのあたりは置いておくとして」

「あまり横に置かれると……」

「先の用事が出来たみたいだ」


 閃斗は振り返る。


「枢木結月さん。気配を溶け込ませるの上手いですね」

「あらあら~。その様子だと、『講堂で授業をしてた時』から、私が紛れてるって気が付いてたの?」

「あなたは目立ちますよ」

「……えっ?」


 舞美も振り向く。


 そこには、元Bランク探索者で。


 全国区の番組、『ダンジョンマテリアル最前線』の看板タレント。


 枢木結月が、朗らかな笑みを浮かべていた。

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