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第23話 閃斗の授業2

第23話


 体内の魔力を安定させるためのゼリー飲料。

 それらを並べて、『生徒たち各々に適した成分』を紹介していた。


 かなり長い時間を使って、それらの成分を解説している。


 今日からできる劇的な改善方法。と言う点では実践的だ。


「えーと、成分に関してはかなり説明できたはずだ。安定拓の説明もやったか」

「ぴぃ、ぴあぁ……」

「あれ、眠たくなったか?」

「ぴうぅ……」


 ミーちゃんはパタパタ飛んで、閃斗の胸元に抱き着いた。

 閃斗がその体を支えると、スヤスヤを寝始める。


「さて……」


 閃斗は講堂を見渡す。


 そして一つ、大きなものを感じ取った。


 それは、生徒と教師の温度差である。


「で、これを聞いているみんなは、心のどこかで、『学校でこういうことを教えてくれたらよかったのに』と思ってるかもしれないな」


 そこに、あえて踏み込んだ。


「これまでは、探索と美容の理屈はそれぞれ独立していた。ただ、『身体強化の起動と解除の魔力を整える』というのは、それらを同時に支える理屈で、ここを抑えていないと、自分が使えるコストに対してリターンがちぐはぐになる」


 高ランク探索者になるということは、扱う魔力が多くなるということだ。


 身体強化は、体に魔力を流して『質を上げる』ことで筋力を発揮する。


 使う魔力が多くなるということは、質の乱高下がより急激なものになることを意味する。


 肉体にかかるストレスは、人間が思っているよりも大きいのだ。


「ただ、それが到底、無理な立場だってことも理解してほしいんだ」


 生徒と教師の表情が変わった。


「俺がここで教えたのは、美容の教育じゃなくて。『企業努力』だ。探索者と芸能人の話ではなく、その後ろで、研究してきた人たちの功績を(たた)えているだけ」


 ゼリーたちを指さす。


「学校の先生に、その企業努力を分析する時間なんてない。もしかしたら、俺が説明していた理屈について知っていた人もいるでしょう。ただ、『正しい理屈』があっても、『それを実践するための準備』ができない。だから教えることができなかった」


 学校の先生と言うのは、非常に忙しいのだ。


 企業が扱っている細かい成分について調査し、実際にそれがどのように子供たちの体に影響するのかを調べてカリキュラムに組み込むなど、現実的に不可能である。


「正論だけじゃ、探索者は強くなれない。もしかしたら、今も、先生方の中には、『自分なりの理屈はあるけど、人に教えられるものじゃない』って話はあるでしょうし、生徒の中にも、そういう理屈を持ってる人はいると思う」


 先生すらも、白堂学園の卒業生の中から教員免許を取った人を採用するような、非常に閉鎖的な空間だ。


 もちろん、閉鎖的であることは悪いことではない。


 閉鎖的な中で育まれた優れた伝統は、優れた自信を与える。


 何事も根本的には不安と言うのが人間なのだから、それでいい。


 ただ、頂点の形を保ったままで、より高い場所を目指すなら、裾野(すその)を広げるしかないが、正論は、その裾野を削る行為だ。


「今回の理屈を一番使いこなしている探索者が誰かとなれば、それは、『枢木結月(くるるぎゆづき)』さんになる」


 ダンジョンマテリアル最前線。という番組で収録現場に来ていた、元Bランク探索者のタレントだ。


 43歳だというのに20代半ばの外見を維持した美魔女と言える人であり、白堂学園の生徒なら誰でも知っているだろう。


「戦闘と美貌を高度に両立していた例としては分かりやすい。でも、枢木さんも、今回の理屈を完全に説明できるかとなれば違うはずで、みんなが真似できるように、今すぐに実感できるように教えるのも難しい」


 魔力を急激に流し込んだり身体強化を解いたりするから、質の乱高下でストレスがたまる。


 では、『どの程度の勢いで身体強化をして、それをどの程度の緩さで解いていくべきなのか』というのは、非常に言語化するのが難しい。


 魔力操作の才能は、みんな違うからだ。


「今回のような、成分に対する高度な調査時間が確保できないと、理屈があっても教えられない。それが教育なんだ。それは忘れないように」


 もうそろそろ締めくくろうかな~。と思っていた時だった。


「あ、あの……」

「ん? どうした?」


 最前列に座る女子生徒が手を上げた。


 どうしても気になることがあった。ということだろう。


「えっと……刃島先生って、魔力量はFランクで、『ダンジョン非推奨』って聞いたことがあるんですけど、今回の授業って、『魔力を大量に扱う際の運用法』ですよね」

「そうだな」

「刃島先生は、身体強化って使うんですか?」

「ほぼ使わないな」


 講堂に微妙な空気が流れる。


「え、えっと……今回の理屈って……」

「俺の肌には一切影響しない話だな」

「え、そこ認めちゃうんですか?」

「だって使わないものは使わないし」

「こ、今回の授業って、刃島先生の肌の秘密を教えてくれるんじゃないんですか!?」

「……んー」


 閃斗は微笑んだ。


「すまんな。そこは『機密』で通してるんだ。というわけで、講義は終わりにするよ。それじゃ」


 荷物をぱっぱと片付けて、圧倒的に爽やかな空気を出しながら、閃斗は講堂から出ていった。


「あ、ちょっ! 刃島先生!?」

「嘘でしょ!? 根本的なことは何も教えてもらってないってこと!?」

「機密って、ここまで来ておいて機密って頭おかしいんじゃない!?」


 非難轟々である。


 ただ、残念なことに。


 それが、刃島閃斗という男の本質だ。


 結構、クソ野郎である。

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