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第22話 閃斗の授業

「まぁ最初に言っておくと……俺から見て、君たちは十分可愛いし、肌もキレイだ。問題なのは、探索者活動をやっているとどうしても出てくる肌荒れをどうするか。ということになる」


 閃斗は話し始めた。


「化粧を完璧にやっても、モンスターと戦っていれば、汗とストレスで化粧が崩れるし、崩れてるときにもしも他の探索者に出会うかもしれない。というのも非常にストレスになる」


 頷いている人もいれば、ハッとしている人もいる。


 当然だが、『ダンジョンで活動していても崩れにくい化粧品』というのは開発されているし、普及もしている。

 体の表面に光沢を維持しているモンスターのドロップアイテムを分析することで、それを応用した化粧品を発表するのは、昨今では珍しくない。


 しかし、何事にも限度はある。


 ダンジョンと言うのは常に『歩き鏡』ができる場所ではない。


「みんなが使っている教材を見せてもらったけど、精神的なストレスをどのように緩和するのか、その上で、ダンジョンに潜るために必要な緊張感をどうやって維持するのか。『構え方』というのかな。そういったことが書いてあった」


 当然、『安定してモンスターを倒せる階層』で戦っていれば、ストレスは軽減される。


 しかし、ストレスフリーもよくない。


 それでもダンジョンと言うのは、緊張感と集中力が必要だ。


「ストレスの軽減と緊張感の維持。この二つが頭の中でせめぎあってる状態だ。正直に言おう。これもこれでストレスがたまる。みんなが使ってる教科書には、肌の天敵であるストレスの原因が書かれてる。これを一度、受け入れよう」


 生徒たちの顔が微妙な感じになった。


「では、『今日からできる劇的な改善方法』を教えよう」


 ただし、微妙な顔に、興味が浮かんだ。


 閃斗は鞄から、いくつかのゼリー飲料を取り出した。


「近くのスーパーとかコンビニから買ってきたものだ。最終的には、これらの中から、またはこれと似た物を買って飲めって話になる。その理屈を今から説明する」


 ミーちゃんが胸から離れて、ゼリー飲料に興味津々だ。

 蓋が開いていないので飲めるわけないのだが。


「この学校のカリキュラムは、卒業時にはCランク、『中級上位』のランクになるというタイムリミットを設定したものになっている」


 要するに、現時点でBランクである舞美は、『白堂学園のカリキュラムにおいては過剰成績』ということだ。


「Eランクとして入学してCランクを目指すけど、みんなの中には、『ランクを上げるごとに、肌質の維持が困難になった』という印象がある人も多いだろう」


 閃斗の言葉に、いまいちピンと来ていない人と、納得している人が『半々』といったところだ。


 おそらく三年生は理解しているが、一年生はまだよくわかっていない。そんな感じだろう。


「ダンジョンに入るという経験を積んで、かなり『慣れ』があるはず。慣れがあるならストレスを軽減できるはずなのに、肌の質が悪くなる。おそらくみんなはここが納得できていないはずだ」


 ミーちゃんは口で蓋を噛んで、翼で本体を固定し、首をひねって蓋を開けた。


「器用だな」

「ぴいっ! ちゅ~」


 美味しそうに飲み始めた。


「ミーちゃん。それはミーちゃんのおやつじゃないよ?」

「ぴぅ? ちゅ~」

「……まぁいいか」


 すっごく気が緩んだ。


「で、話を戻そう。高ランクになるほど肌質が維持できない理由だけど、『身体強化』の運用の問題だ」


 全員がピンと来ていない。


「身体強化は、体に魔力を流し込むことで、身体能力を向上させるもの……なんだけど、もうちょっと踏み込むと、『魔力を流し込むことで、体の質を上げる』と言うものになる」


 紫ゴブリンの時と同じ話だ。


「筋力って言うのは基本的に、筋肉の太さによって決まる。だけど、魔力による身体強化は、『筋肉の質を上げる』ことで、筋力を向上させる。だからこそ、みんなみたいな細腕でも、やろうと思えば車くらいは普通に引っ張れる」


 魔力を流し込むことによる質の向上。これが身体強化だ。

 逆もしかりで、紫ゴブリンの咆哮は『魔力を狂わせる』ゆえに、体に流し込んだ魔力が不安定になる。


 体に流した魔力が不安定になるということは『質の低下』であり、想像を絶する体調不良になる。


「ここからが本題。みんなが気を付けなきゃいけないのは、『身体強化』の、『起動』と『解除』のやり方だ」


 全員の頭の中に『起動と解除?』という疑問が浮かんだようだ。

 そういう顔になっている。


「車だって急発進と急停止は負担が大きいって言うのと根本的には変わらない。急激な質の向上と、急激な質の低下を繰り返すことになる。これが体の中で蓄積することで、ストレスになる」


 生徒たちの表情が変わり始めた。


「みんなの中には、『魔法を主体に戦う人』の方が、肌荒れが気になっていない人が多いはずだ。これは、『接近する必要がなく、遠距離からモンスターを倒していてストレスが小さいから』と言うのも確かだ」


 閃斗には閃斗の理屈はあるが、そもそもストレスと言うのは複合的なものだ。

 一般論を否定する必要はない。


「ただ、身体強化をして、モンスターに接近して武器を振り下ろす人よりも、『急激な質の乱高下』が少ない。だからこそ、『劇的に違う』ということになる」


 閃斗は、ミーちゃんが飲んでいる飲料ゼリーを指さす。


「で、ミーちゃんが飲んでるのは、『体内の魔力環境を整える成分』が入ったゼリーだ。『体内の魔力を安定させるのは基礎であってゼリーに頼るものではない』みたいなことを言ってる人って、ネットにはめちゃくちゃ多いけど」


 閃斗は首を振って、『そういう人はわかっていない』と言った様子を見せる。


「それは『一般的な探索者』の話。みんなは芸能活動もするから、ストレスの構造が非常に複雑になる。こういったものを使わずに、ストレスの処理を自己完結するなんて無理に決まってる」


 未開封のゼリーを一個手に取る。


「今までこういったものを飲まずに、自分の感覚だけで、魔力を制御してた人は、ダンジョンの中で飲んだ時に違いがわかるはずだ。加えて、魔力の環境を整えることは、探索者としての質の向上にもつながる。今、20層のボスがなかなか攻略できないって人なら、これを飲みつつ一か月も準備すれば倒せるはずだ」


 別に、それを飲んだからと言って、その日のうちにボスを倒せる。などと言う話はない。


 そんな劇的に効果が出るものは、傷や毒を治すポーション以外だと、薬の法律的に出せないのだ。


 ゆっくりじっくり。とはいえ、『一か月もあれば問題ない』と言い切れる。


 閃斗の中ではそういう理屈だ。


「『魔力の環境を整える成分』にもいろいろ種類がある。ここからはそれを説明しよう。自分やパーティーメンバーに適した成分が何なのかを意識して聞いてほしい。『よくわからない時の安定拓』も教えるから、今日はそれだけでも覚えて帰ってね」


 生徒たちの集中力も上がってきたようだ。


(いい感じ。なのか? 人にこうして物を教えるなんて初めてだからなぁ)


 ただ、いまいちピンと来ていないのは、閃斗の方であった。

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