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第2話 閃斗と舞美とミーちゃんでダンジョンへ。

 双葉ヶ丘市(ふたばがおかし)


 今となっては日本に数多く存在する『ダンジョンを有する町』である。


 探索科学校を二つ抱えていることも特徴的であり。


 白堂学園。女子校・美容も重視する経済主義。

 黒王学園。共学・成果を重視する実力主義。


 この二つの学校が、『マリアの洞窟』と呼ばれるダンジョンを舞台に競争している。


「んんっ……しっかし、珍しいこともあるもんだな。昨日のドラゴンの精霊。マリアの洞窟で会えるのか、それとも別のダンジョンなのか……」


 軽く伸びをした後、閃斗はダンジョンに向かって歩く。


 彼の中で気になっているのは、昨日、ダンジョンの管理支部で出会ったドラゴンの精霊だ。


 モンスターは、『魔物氾濫(スタンピード)』と呼ばれる管理ミスが発生しない限り、外に出てくることはない。


 精霊は、『人間に危害を加えることができない』と言う制約を持つ代わりに、ダンジョンの外に出てくることができるモンスターだ。


「白堂学園の生徒会長。宝生舞美……学校のホームページに本人の写真はあっても、精霊の情報はなかったが……多分、昔から一緒にいるんだろうな」


 非常に珍しいことは事実である。


 あの少女が仲間にしたのが最近なら、明らかに支部で話題になるはずだ。


「……まぁ、余計な疑問は、今は良いか」


 ダンジョンに向かう以上、これからモンスターと戦うのだ。


 余計な疑問を持っていたところで得することはない。


「やることはいつも通りで良いけど、余計なことを考えてたらいつも通りのことも出来ないし、気楽にいくか……ん?」


 双葉ヶ丘市にあるダンジョン、『マリアの洞窟』。


 昨日見た、宝生舞美とミーちゃんが、ゲートで手続きしている。


「……支部にいた時は寝ていたし、ミーちゃんが原因で相当おどろいてたけど、ダンジョンに入るとなれば、やっぱりBランク相応の雰囲気だな」


 探索者のランクは、『潜れる階層の深さ』によって定められている。

 全てのダンジョンは100層構造であり。


 S 51~60 人外

 A 41~50 天才

 B 31~40 上級

 C 21~30 中級上位

 D 11~20 中級下位

 E 1~10  下級

 F 新人


 おおよそ、このような配置だ。

 61層以降は、『公式には』行ったことがある者がいないため、国際的に未設定となっている。


 Dランクの閃斗は『中級下位』であり、その中でも最下位と称される稼ぎだ。


 宝生舞美はBランクであり、その美貌と実力で、白堂学園の中では紛れもないトップとなる。


「……ぴぃ?」


 それはそれとして。

 ミーちゃんが、何かを感じ取ったようにキョロキョロした。

 そして、閃斗を発見。


「ぴいぃ!」

「あっ」


 急に手元から離れて飛び出したミーちゃんに舞美は対応できなかった。

 ミーちゃんはパタパタ飛んで、閃斗のところにやってくると、その頭の上に乗る。


「ぴぃ、ぴうぅ♪」


 頭の上に乗って、体を押し付けてご満悦の様子。


「あ、昨日の……刃島閃斗さん」

「昨日ぶりだな。ミーちゃんも元気そうでなにより」

「ぴぃ、ぴぃ」


 閃斗は普通に歩いているが、ミーちゃんが揺れを感じている様子はない。


「……改めてみると、本当に、肌が綺麗ですね。ミーちゃんが私以外にここまで懐くのは初めてです」

「俺も精霊に懐かれるのは予想以上だよ」

「一体どうやってその肌を維持してるのかしら?」

「それは機密ってことで通してるんだよ。悪いね」

「ぐっ……」


 舞美は歯ぎしりする……ことはないが、内心ではやっているだろう。

 白堂学園の生徒は、全員が美容にも気を使っている将来の芸能人探索者と言っていい。


 陶器のような肌質の秘密は知りたいに決まっている。


「ぴぃ。ぴぃ……」


 何を思ったのか、ミーちゃんが閃斗の髪を、はむはむ、と口にくわえている。


「ミーちゃん。何をしているの?」


 舞美も困惑したが……いずれにせよ、ここで話せる時間は、そう多くはない。


「とにかく、これから探索になります。Bランクの階層まではついてこれない筈、ここで分かれましょう」

「ぴっ!? ぴいいっ! ぴきゅううっ!」


 ミーちゃんは首をブンブン振って、閃斗の頭に抱きついて離れなくなった。


「……途中まで一緒に行きましょうか」

「意外と根負けが早いな」

「余計なことは言わないように」


 軽口をたたきあう閃斗と舞美。

 ただ、最終的に潜るのがBランク階層だというのに、Dランクの閃斗を連れて行くというのは本来危険なことだ。


 それを考慮しても『一緒に行く』と判断する以上、ミーちゃんの存在は非常に大きいらしい。


 ★


 ダンジョンには『転移スポット』と呼ばれるものがある。

 モンスターが入ってこない安全エリアに設置され、一度でも触れたことがあるスポット間を転移することが可能な代物だ。


 探索科学校は午前が座学、午後は探索、または準備と言う時間割になっているが、それでも、毎度毎度、最初から入っていたら大した稼ぎにならない。


 そのため、舞美が普段から潜っている階層に、一気に行くことも可能だが……。


「18層。ここならあなたも戦えるでしょう」


 Dランクの適正階層は11から20層。

 その中でも後半の階層に転移して、安全エリアから出て歩き始める。


 刃島閃斗は刀。Dランク。

 宝生舞美はレイピア二刀流。Bランク。


 明らかに『中級下位』と称されるDランク階層に潜るような戦力ではないが、二人とも何か疑問を感じている様子はない。


「『マリアの洞窟』は『別の場所で何かのフラグを立てて、別の場所で解消する』ってギミックが多いけど、白堂学園の生徒がそれを狙っているとは思わなかったな」


 マリアの洞窟は、『別の場所で手に入れたアイテムや起動したギミック』が、『別のポイントで効果を発揮する』ことが多々ある。


 とはいえ、基本的には、目の前に出てくるモンスターを倒せば稼げるというのが探索者だ。


 ダンジョンは千差万別だが、『階層ごとのランクの目安』と『目の前のモンスターを倒せば稼げる』ことは共通しており、それを前提にマニュアルが作られている。


 その点でいうと、『安定した成果を示すことが内申点に繋がる立場』である学生が、その手のギミックに目を向けているのは非常に珍しい。


「あなたが原因です」

「ん? 俺が? ……あぁ、なるほど。俺が『何らかのギミックを解き明かしたから、美肌を実現してる』って思ってるのか」

「このダンジョンに入り浸っているならそう判断する人がいるのも当然です。で、どうなのでしょう」

「何度も言うけど、機密で通してるんだが……」


 舞美は閃斗をジッと見ている。


「あなたの魔力量は間違いなく少ない。深い階層には潜れません。体術だけでDランク階層に潜れるのは凄いことですが、凄いだけです」

「なるほど、だからDランクの適正階層である11層から20層を調べてるわけか」


 ギミックがあるとはいえ、調べる対象がBランク階層である31から40層ではなく、もっと浅い場所にいるのは、閃斗が基準だからだろう。


「そういえば、俺には『ママ活疑惑』があるが、そのあたりはどう思ってるんだ?」


 舞美は一瞬だけ、『自分でそこに触れるの?』といった表情になった。


「仮にママ活なら、別の人でも構いません。もっと若くて、もっと顔が良い男なんていくらでもいます。確かに『優男』って感じで顔立ちは悪くありませんが、とびきり良いわけでもない」

「遠慮とか躊躇とかないんか?」

「ぴぃ?」


 閃斗とミーちゃんはちょっと引いている。


「魔力量が少ないとはいえ、どの程度の魔法を使えるのかも気になりますが……」

「そうだなぁ……あ、ゴブリンだ。試しにアイツと戦えばいいか?」


 ここはダンジョンであり、そして安全エリアではない。

 モンスターは当然出てくる。


「そうですね。見ておきます」

「なら、とりあえず魔法は見せておくか」


 閃斗は左手の人差し指をゴブリンに向けた。


「ゴブ……」


 明らかに何かを狙っている。

 ゴブリンはこん棒を構えたが……。


 ……シュボッ。


「えっ?」


 閃斗の指先から出てきたのは、ライター程度の大きさの火だった。


「……あ、あの、閃斗さん?」

「あー、Bランクなら、魔力の認識精度が高いと思うけど、マジでこんなレベルなんだよ」


 火を消した。


「ゴブブブブッWWW」


 ライターみたいな火で何をしようと言うのか。

 そんな副音声が聞こえてきそうな勢いで、ゴブリンは笑った。


「……ゴブリンに笑われてますね」

「というわけで、俺はコレで戦うんだよ」


 閃斗は刀を抜いた。


「……その刀。素材は良さそうですが、内部の魔力が荒れてますね。実質、ナマクラも同然のはず」

「まぁ、これでボコればいいだけの話さ。というわけでミーちゃん。しっかり捕まってな」

「ぴぃ!」


 ミーちゃんは閃斗の頭にしっかり体を押し付けた。


 次の瞬間、閃斗はゴブリンに急接近する。


「ゴブッ!?」


 見えないほど速い。というわけではない。

 ただ、動きがなめらかすぎて、ゴブリンの反応が遅れ過ぎた。


 そのまま閃斗が刀を一閃すると、ゴブリンの首が両断される。


 首が飛ぶと同時に、ゴブリンの体は塵となって消えていく。

 後に残ったのは、魔石が一個だけだ。


「というわけで、俺はこんな感じだが、わかったかな?」

「……Dランク階層を潜れる実力がある。というのは理解しました」


 舞美が納得していると、また、ゴブリンが現れた。


「あ……またか」

「……」


 舞美は何も言わずに、手を前に出す。

 次の瞬間、ゴブリンの胸は、風の刃に切り裂かれていた。


「ゴ……ブ……」


 そのまま、魔石を残して体が塵となった。


「Bランクなら、この階層のモンスターは遭遇して一秒です」

「なるほど、羨ましい出力だな」

「ぴぅ?」


 紛れもなく、Bランク。『上級』の火力だ。


「……ん?」


 気配を感じて、閃斗は前を向く。

 そこにいるのは……紫色の肌のゴブリンだ。

 この階層にいるゴブリンは、全て緑色のはずだが……。


「また……」


 舞美が手を向けた時だった。


「オオオオオオオオオオッ!」


 ゴブリンが咆哮する。


「なんだ? こんなうるさいモンスターなんていたっけ。……ん?」


 閃斗は舞美を見る。


 ……顔面蒼白で、滝のような汗を流して膝をついている。


「……魔力が乱されてるのか? なるほど、さっきの咆哮はそれか」

「あ、あの、ゴブリン、実力……Cランクでも、上位です」


 顔面蒼白だが、舞美ははっきりと閃斗に忠告した。


「体術で、攻撃を捌けても……その刀では、攻撃力が……」

「無理して喋らんでいいよ」


 閃斗は刀を構えて、ゴブリンを見据えた。


「さて、お前の登場にはいろいろ怪しい部分はあるが、今は倒すとしようか」

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