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第18話【精神魔法使いSIDE】 同意が減ったアンチサイト

 芸能人のアンチなど、たった一つのニュースが原因で湧くものだ。


 明らかに印象操作だと思う文言で記事が書かれていたとしても、明らかに本人に許可など取っていない。


 記事を出す側は、『みんなが知りたがっていることを報道する公共性』を言い訳に、その手の記事はいくらでも出てくる。


 とはいえ、世の中は『閲覧数』がものをいう。


 ユーザーが『雑な批判タイトルの記事』を見ないことを徹底すれば、その手の記事は減っていくだろうが、そんな未来が訪れることはない。


 舞美のアンチが集まり、批判する掲示板サイトなど、いくらでもある。


「……なんでだ?」


 アパートの一室で、一人の男がパソコンの前で呟いた。


 パソコンの傍には、開封済みの梱包用封筒が置かれており。

 宛先は、『Cランク 土屋琢磨(つちやたくま)』となっている。


「どうして、こんなことになってる?」


 パソコンに映っているサイトは、『真実の白い板』と言う名前だ。


 妙な名前ではあるが、自分に酔っている者は時折、このような名前を付けるものである。


 サイトとしては、『あなたが知っている真実を教えてください』といったものだ。

 ジャンルは幅広く、探索者、芸能、学校、企業、政治、宗教、などなど……。


 ただ、探索者、女性、学生、Bランク、と進んだ先にいる『宝生舞美』の項目だけが、異常に発達している。


「昨日、こいつらは、宝生を殺しに行くって言ってたじゃないか」


 その掲示板のコメントは、物騒な言葉が並んでいる。

 実際に殺すと明言している人間も多い。


 宝生舞美という魔性の美を持つ少女の存在で、自分の人生がどれだけ狂ったか。


 恨みの込められたコメントが多数あって、それを同意する人たちであふれている。


 だが、今日は、様子がおかしい。


「こ、コイツも、コイツも、殺しに行くって言ってたじゃねえか。現場では何事もなかったみたいだし……特に殺意を持ってたやつが、何も更新してねぇ」


 コメントの内容は様変わり……と言うほどではないが、『少量の、冷たすぎる水』が入り込んだような、異質な流れになっている。


「こ、殺したいって言ってたやつが、『なんか冷めた』って……『ナイフの準備は万全』って言ってたやつが、『なんか冷静になった』って……どうなってんだよ」


 今まで、こんなことはなかった。


 彼も同じサイトを眺め続け、コメントを出し続けている人間だ。


 このサイトにおける、宝生舞美の『歴史』は知っている。


 こんな流れはあり得ない。


「おかしい。二か月前、『探索者への批判に対するリテラシー』が全国的に話題になったときでさえ、このサイトは変わらなかった。俺の精神魔法は、世間の話題なんて弾くほど増幅するはずだ。いったいなんで……」


 自分の中にある感情を増幅する精神系魔法は、長時間かけられていると強固なものになる。


 批判コメントなど、感情の表層を撫でる程度のもので、それによって憎悪が冷めることはない。


「一体、何があったんだよ……」


 土屋はスマホを操作して調べ始める。


「……一般的には、精神魔法で感情が薄れてる場合、ポーションを振りかけられた可能性があるってことか」


 傷だろうと、精神などに『付与』されたものだろうと。

 ポーションをかけることで治療するというのは一般的だ。


 何かしらの魔法にかけられたままで入場されると都合が悪いエリア。というのは往々にして存在する。


 ポーションを霧状にしたものを入場口に仕込むことで、かけられた魔法を解除することができるとのこと。


「ポーションで解除できるのは知ってたが、霧状でも問題ないのは初めて知った……だがおかしい。俺の精神魔法は、Bランクポーションを飲んでも解除できないはずだ。だが、Aランクポーションって、万病も骨折も治せる高級品だぞ。となると……」


 土屋の中で、想像が組み立てられる。


「はぁ、わかんねぇ」


 組み立てた上に何もなかったのか、再び、コメント欄を見る。


「……ん? 『現地に行ったけど、急に冷めてやめた』……えっ、こういうヤツ多くねえか? ほ、他にも」


 目に見えて驚愕する。


「こいつら、あの収録現場に行ったんだ。その上で、ポーションをかけられたのか」


 脳裏に浮かんだが、瞬時に否定する。


「……いや、おかしい、Bランクじゃ解除できないんだから、それだけ多くのAランクポーションを用意して、裏から大勢で見張って、怪しいヤツを、一般人にバレないように裏に連れ込んで、ポーションを飲ませたってことか? 『誰かに飲まされた』ってコメントがないってことは、その待機してた全員が、認識阻害アイテムを持ってるってことだ」


 万病も骨折も完治するAランクポーションの大量確保。

 隠密行動に慣れた多くの人材を配置。

 人材に持たせる大量の認識阻害アイテムの配備。


 彼の中では、これ以外の方法が想像できない。


「排除じゃなくて『無力化』……こ、今回の収録のために、この事務所。どんだけ金を使ったんだよ……」


 何千万? 何億? いったいどれほどの資金がここに投入されたのか。

 唖然とする土屋だが。


 実際のところは。コーラ一本分である。


 こういうことは、時々起こる。


 Sランクが、裏で、厚意で。


 この三つが揃った時、通常では考えられない力技が発揮される。


 ダンジョンが出現して50年が経過し、『超人』の存在が世間で一般化したとしても、それを超える衝撃的な展開になる。


「……俺の予想。間違ってねえよな……」


 不安になって、パソコンで調べ物をする。


「『未然防止の困難』を語ってる昔のやつで確か……そうそう、これだ……」


 何かのブログを見つけたようだ。


「まだ精神系魔法への対抗術を服や下着に仕込めるようになるよりも前のやつだ」


 精神系魔法への対抗術を繊維に組み込む技術が普及する30年前よりも、さらに前の話。


「精神系魔法で集団が影響下にある場合……間違いない。混乱を可能な限り抑えるなら俺が考えた三つが必要になる」


 歯ぎしりした。


「……あの女を守るためにここまでやったってのか。ふざけてやがる……って、精神系魔法が原因で、宝生が狙われてるって、事務所にバレてるってことじゃねえか? あああっ! 考えること多くてめんどくせぇ!」


 頭をかきむしる。


 Cランクと言うのは探索者として『中堅上位』であり、何かで行き詰ったときに、一度に抱える課題が多い。


 それらを認識して、理解して、対策しなければならない。

 それはダンジョンの構造だけの話ではない。


 世間の流行一つで、今まで安定して持ち帰っていた特定モンスターのドロップアイテムの価値が大きく下がる。


 そういう市場の中で生きている探索者は、ある程度、構造に対する直感も鍛えられる。


「警察の捜査で、このサイトから、俺が仕込んだ精神魔法が見つかるのも時間の問題か? いや、精神系魔法を使ったのが俺だと、サイトから逆探知することはできないはずだ」


 この『真実の白い板』というサイトに精神魔法を仕込んだのは彼で、解析したとしても、それが探知されないと判断している。


 構造はともかくとして、自身はあるようだ。


「俺も精神系魔法の影響を受けている一人だってフリをすりゃいい。まさか。事務所がここまで本気になるとは……作戦を変える必要があるか」


 非常に賢い。


 頭も回る。


 ただし……。


 すでに彼は、収録現場から近いビルの五階にいて、何も事件が起こらず茫然としていたところを、閃斗に見られている。


 一手、最善にたどり着くのが遅かったのは間違いないが。


 それで彼を無能と呼ぶには、閃斗があまりにも、理不尽すぎた。

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