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第17話 無事に終わる収録と、魔法使いの影

「これで26人。多すぎんかマジで」


 閃斗は全く疲れていないが、明らかに呆れていた。


「もうそろそろ収録も終わりか。舞美の緊張がかなり途中から解れてたし、合間に社長がメールしたみたいだ」


 スタッフの中に精神魔法の影響を受けている者はいるが、番組を成功させるために動いているため、舞美に危害を加えることはないということ。


 舞美のメイクが仕上がっていて魅力的なため、通行人の方が怪しいのでそちらは閃斗が対処するということ。


 この二つが社長から舞美にメールで伝えられて、それで舞美は安心したようだ。


「それでは、放送は三週間後になります。その一週間前にCMの次回予告で少し流れるので、SNSでの情報発信はそれからにしてください」

「わかりました」

「ぴいっ!」


 ディレクターから言われて舞美が頷いている。


「えーと……よし、予定より早く終わったな。宝生さんすごいですね。時間はある程度余裕をもって確保してましたが、こういう現場でスムーズでしたよ」

「ありがとうございます」

「宝生さんは現役Bランクよ? 一瞬の判断が重要だもんね~」

「そういう場面も多いですね」

「そういえば……枢木さんも元Bランクでしたね」


 その時、現場にジュースが大量に入ったクーラーボックスが置かれた。


「お疲れ様です。キンキンに冷えてますよ。皆さんどうぞ」

「ありがとうございます」

「へぇ、じゃあ私はウーロン茶……あれ、そこに一本、コーラがなかった?」

「あれ? そうでしたっけ?」


 混乱している現場だが。


「意外と目ざといな。まぁ、護衛代に一本貰っとくよ」


 閃斗が一本パクったようだ。

 話したところで誰も彼に視線を向けないのをいいことに、いけしゃあしゃあとコーラを引っこ抜いたらしい。


「ぴっ? ぴぃ!」


 ミーちゃんがバタバタ飛んで、クーラーボックスの(ふち)に着地。


「ぴうぅ♪」

「ミーちゃん。オレンジジュースが飲みたいの?」

「ぴいっ!」

「わかったわかった」


 舞美はオレンジジュースのペットボトルを持ち上げると、キャップを開ける。

 ミーちゃんが舞美に飛びついた。

 うまくボトルを傾けて、ミーちゃんにオレンジジュースを飲ませている。


「ぴっ、ぴうっ、ぴうう~♪」

「ミーちゃん。美味しい?」

「ぴいっ!」

「よかったね~」


 なかなかほほえましい。

 というか。


(舞美の笑顔完璧だな。そりゃそうか)


 閃斗はカメラマンの方を見る。

 カメラ、録画中だ。

 注意するのではなく完璧な絵を見せることにしたらしい。

 芸能人である。


「オレンジジュースはミーちゃん用として、舞美さんもどうぞ」

「ありがとうございます」


 舞美は自分用に緑茶を貰った。


「ミーちゃん、開けるからちょっと待っててね」


 近くのテーブルにミーちゃんとオレンジジュースを置いて、自分も緑茶を開けた。


 何かを察したミーちゃんが、オレンジジュースのボトルに触れた。


「はい、ミーちゃん。かんぱーい」

「ぴいっ!」


 舞美はオレンジジュースのボトルに自分の緑茶のボトルを軽く当てた。


 その時。

 閃斗は舞美の緑茶のボトルに、自分のコーラのボトルを軽く当てる。


「っ! ……かんぱい」

「ああ。かんぱい」


 舞美が小さい声で言ったので、閃斗も返事した。

 もっとも、舞美に今の閃斗の声は認識できないが。


 舞美が緑茶を飲むと同時に、閃斗も飲み始めた。


「……さーて、ゲフッ、まぁこんなもんか。後で、あの四人の精神系魔法も解除しとかないとな。舞美に危害を加えてないのにスマホの確認なんてできないしなぁ」


 カメラマン、スタイリスト、AD、ヘアメイクの四人のことだ。


「あとで事情聴取したところで無駄だが、いつ、気が変わって舞美に危害を加えるかわからんから解除一択だろ」


 閃斗がそういって、一息ついた時だった。


「……ん?」


 妙な視線を感じて、遠くを見る。


 それは、ビルの五階部分にあるフードコートの窓だ。

 その奥にいる男。


 そこから、『呆然』という空気を感じる。


「あの雰囲気、『起こるはずの事故が起こらない』と思ってるやつ特有の……なるほど。お前か。精神魔法使いは」


 閃斗は男の顔を覚えた。


「まぁ、収録は家に帰るまでが収録だ。舞美から離れすぎるのも悪いし。今は置いておくか。それに……」


 閃斗は男から視線を外した。


「26人も『影響してたやつ』が消えたら焦るはずだ。絶対に動きがある。どうせなら、警察がサイトを見張っている間に、お前にサイトを弄ってほしいからな」


 いくらなんでも、『実際に危害という行動に移す人間』が、サイト全員の思想なわけがない。


 サイトの中で育まれた殺意ではあるが、それでも、『実行』というのは非常に重い行為だ。


 今回、閃斗が無力化した26人は、『サイトの中でも上澄み』だったはずだ。


 それが一度になくなれば、サイトで絶対に動きがある。


「しかし……一点だけ引っかかるな」


 閃斗はコーラを飲みながら、頭の中で整理する。


「今回、スタッフの中で影響を受けていたのは四人だが、そこに関しては番組の成功を願ってるから、『舞美が狙われる可能性がある資料の流出』は考えられない」


 チラッと、その四人を見る。


「ふーむ……『事件が起こる可能性はあったが、何事もなくてよかった』……みたいな感じか?」


 こめかみを指でグリグリ弄る。


「えー……となると、現場には出てこないが、今回の仕事の資料を持ってるやつが、『舞美アンチサイト』に流出させたのか」


 大御所が関わる仕事だ。

 現場の人間だけで完結するはずもない。


「だから、サイトの利用者のなかで『上澄み』の奴らがそれを見てやってきた。その資料が流出してることはあの四人もサイトを見て知ってるから、事故が起こる可能性はあると思ってはいたってところか」


 閃斗はコーラのペットボトルをごみ箱に捨てた。


「はぁ、ややこしい」


 閃斗はそう言って、舞美たちの撤収作業を見届けていた。

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