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第15話 憎悪を育てる収録現場

 ダンジョンマテリアル最前線。


 通称ダンマテ。


 ダンジョンの素材から作られた物を、元Bランク探索者として活躍し、現在はタレントとして活躍している女性、『枢木結月(くるるぎゆづき)』が紹介する。と言う番組だ。


 どうやら、舞美はこの番組のゲストとして出演する。ということらしい。


「この町に芸能人を呼んで、番組の収録って考えると、そりゃ舞美は適任か。笑顔も完璧だし受け答えもしっかりしてるし、カメラの前で緊張しないし。あのビジュアルだからな」


 体をすっぽり覆うフード付きのコートを身にまとった閃斗が、収録現場から少し離れた建物の壁に背中を預けて、現場を見ていた。


「……あれが、枢木結月さんか」


 閃斗の先にいるのは、黒髪をショートボブにした女性だ。


 落ち着いた色合いの服装で、柔和な笑みを浮かべている。


 まだ収録前だが……。


「宝生さん。今日はよろしくね。ミーちゃんもよろしく~」

「枢木さん。よろしくお願いします」

「ぴいっ! ぴいいっ!」


 めっちゃ打ち解けていた。


「……プロフィールだと今年で43らしいが、外見は20代半ばって感じか」


 疑問と言うよりはただのつぶやきだが、舞美が聞いたら『お前が言うな』と言うツッコミが飛んできそうではある。


「とはいえ、40歳なのに10歳若く見える。なんていうのはダンジョンが出現するより前から珍しいわけじゃないし、そこから化粧品が進化していると思えば、納得はできるか」


 なかなか怪しい服装でブツブツ言っている閃斗だが、周囲の人間が彼に目を向ける様子はない。


 舞美が使っていたような『認識阻害』と同系統ではあるが、そもそも彼の場合は、一切視線を向けられない。


 フード付きコートが持っている機能は、そもそも人がそこにいると扱われていないタイプの認識阻害のようだ。


「……で、スタッフの中に、精神系魔法の影響を受けてるやつがいるか見分けなきゃならないわけだが……」


 大御所が関わる収録だ。

 現場に来ているスタッフは当然多くなる。

 見たところ、20人程度だが……。


「すでに影響を受けてるのは4人か。こりゃ多いな」


 流石に閃斗も、ため息を隠さなかった。


 ★


「本日のゲストは、この双葉ケ丘市で活躍中してる宝生舞美さんです!」

「白堂学園の生徒会長を務めている宝生舞美と言います。よろしくお願いします」

「ぴぃっ! ぴいいっ!」

「この子は精霊のミーちゃんです。よろしく~」


 現地の芸能人にゲストを依頼する。と言う形式で、番組の歴史も長いのか、かなり慣れている。


 もっとも、舞美レベルのルックスを持ち、こういう現場で緊張しない人をゲストに招くというのもそうそうないだろう。


「見てください。この見渡す限りのコスメショップの数々。見たことないほど並んでます」

「白堂学園は探索科学校なんですけど、芸能活動のための美容にも力を入れてるんです。そのため、化粧品の扱いもすごいんですよ」

「ぴいっ! ぴっきゅうっ!」

「おぉ……あ、舞美さんの写真も時々見えますね」

「そうなんです。商品のPRもさせていただいてて……」


 滞りなく進む収録。


 舞美は清楚に紹介して、ミーちゃんは愛嬌を振りまいている。


「……ふーむ」


 その様子を少し遠くから見ている閃斗。


「スタッフの中では、やっぱり四人で間違いない。カメラマン、スタイリスト、AD、ヘアメイク……」


 その上で、舞美を見る。


 白ブレザー制服で清楚なのはいつも通りだが、スタイリストが持ってきた小物の影響だろう。アクセントがあって映えている。


 髪質も良いし、メイクもばっちりだ。


 そんな舞美を撮影しているカメラマンだが、舞美が映えるアングルがよくわかっている。


 この番組はあくまでも枢木が主役で、舞美はゲストだ。

 舞美も、枢木を立てるようにと言われているだろう。


 ……枢木自身が、立てるとかどうかを気にするような人には見えないが。


 それはともかく、収録の意図に反して、舞美の魅力を押し出すことを現場がやりすぎている。


 しかも、製作スタッフや、ディレクターにバレない程度にだ。


「……あの四人、『増幅』のために来てるな。舞美をこの番組で映えさせて、成功させて、さらに憎悪を膨らませる想定か」


 少し、深く観察する。


「……平静を装ってるが、仕事に対して異常すぎるほどの集中力だ。緊張感じゃないな。こういう構造だコレは……ああ、なるほど」


 その四人……ではない。


 その周囲を通っている通行人。


 彼らの方で、もともと持っていた憎悪の種が育ち始めている。


「……最近、サイトの方で、憎悪コメントが少ないのかな? ここで憎悪を膨らませて、サイトを過激にしようとしている」


 頭の中で整理して……。


「ただ、同意を得たいだけか。まぁ、もとが逆恨みなんだ。そんなもんだろう」


 個人的に、どこか、つまらないとは思いつつ。


「いずれにせよ、スタッフの中で、舞美に刃を向けるものはいない。憎悪はあるが殺意は感じられない」


 閃斗の目が、スタッフから離れて、通行人を見る。


「現在、舞美は仕上がってるし、それを見た通行人が暴走する可能性はあるか。監視範囲が増えたが……まぁ、Sランク階層に比べればマシか」


 そんなことを呟きつつ、スマホを取り出して電話をかける。


『……私だ。何か、分かったかね?』


 事務所の社長の声が聞こえた。


「カメラマン、スタイリスト、AD、ヘアメイク。合計四人ですね」

『なんだと?』

「ただ、この四人に関しては、仕事を成功させて、ネットの『舞美アンチ』の憎悪を膨らませることを目的にしてます。憎悪は感じられても殺意は感じられません」

『……信じていいんだな?』

「参考にしてください。とだけ言っておきます」

『優しくないな。君は』

「俺の仮説を全部信じて護衛を増やしたあなたに言われたくはありませんね」


 ちょっと軽口をたたきつつ。


「今言った仕事の人は全部二人以上いますが、平静を装ってても異常な集中力なので、収録が終わったら普通よりも疲れてるはずです。その人物をメモすればいいでしょう」

『……君に、スタッフのリストを渡せたらよかったのだがね』


 社長に判別方法を教えずとも、リストをあらかじめ貰っておけば、この場で四人の名前を言えばいいだけだ。


 いいだけなのだが……。


「自社の仕事を何だと思ってるんです? そんな資料を外部の人間にホイホイ渡していいわけないでしょう」

『それはそうだが……』

「もしも俺が悪意を持ってたらどうすんのかって話です」

『……』


 ぐうの音も出なくなったらしい。


「いずれにせよ、スタッフの中に、今回の収録で事故を起こそうとする人間はいません。番組が成功することを狙っているので、放送されるまでは危害を加えることはないでしょう」


 番組が放送される前に舞美が襲われて、『舞美が映っている今回の収録が放送されない』となると、憎悪が膨れない。


 今回、スタッフに紛れてる四人に限って言えば、舞美を襲うことはないだろう。


『そ、そうか……しかし……』

「なんですか?」

『……スタッフに紛れている。と聞いて、収録を失敗させるために妨害すると思っていたが、仕事は普段よりも真面目だと言われるととな』

「まぁ、皮肉が効いてるとは俺も思いますよ」


 紛れもなく、今回紛れている四人は、この仕事が成功することを狙っているし、願っている。


 それも、舞美の失墜を心の底から願いながらだ。


「ただ、今、舞美さんはメイクも服も仕上がってて、非常に魅力的です。憎悪が膨れた通行人の暴走は考えられるので……まぁ、それはこっちで片付けておきます」

『……任せる』

「わかりました。では、また何かあれば連絡します」


 通話終了。


「もっと憎悪を育ててコメントが欲しいヤツと、今のままの憎悪でナイフを持つ人間……他にもいろいろいそうだが、とりあえず……」


 閃斗の視界に、『殺意』を感じた。


「片付けはきっちりやるか」

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