第14話【舞美SIDE】 マンションへの車の中で
閃斗は警察署から出て行って、社長が信頼できる部下を読んで、舞美をマンションに送っていくことになった。
しばらくすると車を運転した部下がやってきて、舞美と社長は後部座席に座る。
……もう、夜遅い時間だ。
夜のライトで輝く街を、舞美は少し、虚ろな目で見ている。
「宝生、すまなかった」
「……いえ、社長が悪いわけではありません」
社長からすると、文字通り『怒涛の展開』だっただろう。
舞美が閃斗と一緒に街中にいて、閃斗が警察沙汰を起こした。
彼の経験の中から思い浮かんだそれっぽいストーリーは、どれもこれも、舞美のブランド価値を壊すに等しいものだった。
「刃島閃斗か。彼は……すごいな」
「ええ。頼りになります」
「……」
社長は苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「それと……18層の紫ゴブリン。君の報告書が受理されなかったという話だが、その内容は、本当なんだな?」
「はい」
「……その一件も、今回と同じ流れだと思ってるのか?」
「……私を狙ってゴブリンを出した可能性がある。とは言っていなかったはずですが」
「私もそれくらいは想像できる。それで、どうなんだ?」
「確定ではありませんが、思ってはいます。なので、あの報告書を通そうとするのは辞めました。私が備えておけば同じ罠でも問題なく、他の人を狙わない可能性が高いからです」
「……そうか」
もともと、聡明な少女だ。
ダンジョンと言う、目の前のモンスターを倒せばいい現場とは違い、芸能人として多くの現場に立ち、その多くを成功に収めてきた。
自分の成功が恨みを買うということを、もともと、知識として知っていたし、そのための備えの一つが、セキュリティがしっかりした高層マンションだ。
「報告書が通らなかったとき、それを通そうとして、事務所に頼ろうとはしなかったな」
「それは……そうですね」
「何故か、教えてくれないか?」
「……芸能界のことはわかっていても、ダンジョンのことはわかってない。と思ったからです」
「……」
再度、苦虫をかみつぶすような表情になった。
「あの時の私は、芸能人としてではなく、他の探索者の安全を守るために動いていたつもりでした。それが……私自身が狙われているとわかって、今すぐに何をすればいいのか、わからなくなりました」
「……」
「学校も、管理支部も頼れず、事務所はダンジョンが専門外。警察も未然防止には限界があって、閃斗さんも、構造はわかっても、立場を超えて動こうとはしません」
誰にでも立場があり、事情があり、都合がある。
動くための前提が、全員違う。
「正しいことを正しくしていたのに、私の周りには混乱が生まれました。だからこそ、お互いのことを考えて、自分でできることは自分でする。それを……」
窓の外に映る、何気ない人の動きを見ながら。
「もっと早く知ることが出来たら、よかったのに……」
「……」
社長としては、今の舞美が考えていることは、『余計な事』だ。
悪意から身を守る方法を考えて、タレント自身が何をすべきかを分かりやすく説明する。
そこにもプロの視点があり、それを考えることを仕事としている人間もいる。
説明する内容が端的になることもある。
本来なら納得してくれない説明量で、タレントにその通りに動いてもらう必要がある。
だからこそ、社長としては。いや、社長と言う立場の人間は。
自分の言うとおりにしていれば何も問題がないのだ。という説得力がなければならない。
これは傲慢ではない。管理者の論理だ。
管理職の仕事と言うのは、全てを説明することではない。
端的に説明した内容がどれほど正しかったとしても、説得力を感じられなければ無視される。
無視されたら、どれほど『説明責任を果たした』と思っていても不祥事は露見するのだから。
「でも……」
「?」
「もしそれを知っていたとして、何をすればいいのか、まだ、私にはわかりません」
「それは……」
「ただ、明日、予定通り、ロケに行きます。自分がするべきことが何だったのか、それでわかればいいですし、何事もなければそれでもいい」
事故など起こらないのが一番だ。それは間違いない。
「どのみち……仕事のことに関しては事務所を頼ればいいですし、私に見えていない何かがあるとしても、閃斗さんに頼ればいいだけですから」
自分でできることは自分で。という自助の精神は、出来るならそれでいいが。
まだ、舞美にはそこまではできない。
それに……。
「『いつでも迷惑をかけに来い』と、言われてますから」
「……そうか」
いつでも迷惑をかけに来い。
社長としては。
自社のタレントに対して、最初に言うべき言葉だったと、思っている。




