第12話 事情聴取
連行され、喚き散らす男。
明らかに精神が正常ではなく、言い換えれば、聞こうと思っていたことになんでもペラペラしゃべる状態でもあった。
使命感に囚われた人間の、ある種の共通点ともいえるが……。
「俺は舞美様を殺すつもりだ。普通の殺し方じゃなくて、もっと絶望が深いほうがいい。そう思ってたら、昨日、舞美様が、ダンジョンの管理支部からあのDランクを連れ出したって噂を聞いたんだよ。舞美様に男の噂なんて出たのは初めてだ。だから俺は、このDランクをぶっ殺して、その首を持っていけば、絶望すると思ったのさ! そしたら、今日、ビルの中にDランクが入っていくところが見えたんだよ! 近くの武器屋でナイフを買って、身体強化して構えてたんだ。隙をついて刺そうと思ったら、あのDランク。生意気にも俺の腕をつかみやがって、俺はCランク探索者だぞ! ふざけてやがる!」
……概ね、このような内容だ。
少しずつ分解すると。
まず、男は舞美『様』と敬称を付けているが、同時に、殺したいほど恨んでいるようだ。
それこそ、普通の殺し方では足りないくらいに。
そんなとき、昨日、舞美が閃斗を支部から連れ出したという噂を聞き出した。
この様子なら、その後、喫茶店で個室に入っていったことも聞いている可能性がある。
舞美が男を連れているという話を聞いたことがないため、親密度はわからないが、少なくとも『閃斗の死』が、絶望を深めることになると考えた。
どうやって実行に移そうか考えつつ街を歩いていると、閃斗がビルの中に入っていくところを発見。
急いで近くの武器屋からナイフを購入。
Cランク……『中級上位』であり、探索者としては中堅といって差し支えない実力で身体強化を使い、隙をついて刺してきた。
その後は、閃斗が対応した通りになる。
「……わ、私が閃斗さんを連れ出したから、こんなことに……」
舞美は顔色が非常に悪いままだが、それでも、男の言い分を隣の部屋から聞いていた。
すでに、銀髪のウィッグを外している。
制服とウィッグが揃って初めて認識阻害が発生するため、今の舞美は、『黒髪ロングの宝生舞美』だ。
周囲の人はギャル風制服を着ているところを『認識したことがない』ためか、珍しそうな雰囲気ではあるが。
それはそれとして、ここからどうするかだ。
「もはやそんな話ではないと思うがな」
「えっ」
「ど、どういうことですか?」
閃斗の方も事情聴取を受けている。
実際に刺された側の人間だからだ。
とはいえ、基本的に刺される側の事情聴取と言うのは、『恨みの感情に心当たりがあるかどうか』であり、その点は男の方が全てペラペラしゃべっているため、閃斗に聞き出すことはほぼない。
男は噂の内容から閃斗を殺すと判断しており、それ以上でもそれ以下でもない。
「腕を抑えた時にアイツの身体強化を感じたが、『精神系魔法』の影響を受けている人間特有のものだった」
「えっ?」
身体強化とは、魔力を体に流すことで、筋力を強化する技術だ。
筋肉の体積ではなく質を強化するため、筋骨隆々でなくとも、魔力量さえあれば圧倒的な筋力を発揮できる。
そしてそこに、『特有の強化』があると閃斗は言った。
「基本的な身体強化の鍛錬方法は、全身に満遍なく行う。得意不得意はあるとしてもそれは変わらない。鍛えていない部分があって、それが原因で大怪我するなんてのは間抜けな話だ」
その上で。
「あいつの身体強化は、ナイフで刺す。という部分だけを異常に強化していた。身体強化なんてのは反復練習を積んだ末に定着するものだから、どれほど殺意があっても全体を強化するはずなのに、そうなってない」
「せ、精神系魔法ってことは……」
「あの様子から、何らかの恨みを持っていたことは間違いないが、それを『殺意』まで高めた奴がいる。俺はそう思うんだがなぁ」
「……」
どこか、煮え切らない様子の閃斗。
そしてそれは、警察側も同じのようだ。
「……私たちの分析魔法の結果でも、似たような結果になりました。あの男には、精神系魔法の影響があるだろうと。ただ……普通は考えられないのです」
「えっ?」
舞美は困惑した。
「ダンジョンが出現し、人類が魔法を獲得してから50年も経ってる。その中で、『精神系魔法への対抗』というのは社会課題になった。ありとあらゆる違法行為を裁くためには『意思』が重要だが、精神系魔法の存在はその司法制度を脅かすからな」
「それは……」
万引きだろうと強盗だろうと、それこそ殺人だろうと放火だろうと。
明確に『意思があったのか』というのは重要だ。
司法制度と言うのは概ね、それを前提に動いている。
万引きしたとして、『自分は精神系魔法の影響を受けている。黒幕がいて、自分も被害者だ』と言い張った場合、それを否定する根拠がない。
「そこで、下着や服。腕時計や靴。こうした『いつでも人が身に着けるものに、精神魔法への対抗術を組み込む』という解決方法が開発された」
「そ、そんなこと、可能なんですか?」
「まぁ、魔法産業なんてのは、『天才科学者』が一人現れるだけで、それまでの常識が全てひっくり返るなんてのはよくある話だ」
「そ、そうなんですね……」
「実用化されて30年たってるし、アイツが身に着けてるものにも組み込まれてるはずだ。それを突破したとなれば、相当な話だ」
閃斗としても言いにくい。
インフラとなっている精神系魔法対策を突破するほどの素質がありながら、その力を、『宝生舞美を殺すことだけに使っている』ということを。
「こういう理解で良いですか?」
「ええ、問題ありません」
「ここから警察がする調査は、あの男が、一体どこから精神系魔法をかけられたの調査ってことですね」
「理解が早くて助かります」
逮捕した男がいるのだ。
その男がどこから精神系魔法をかけられたのか、ここからの聞き取りで何とか暴いていくしかない。
「あ、あの……」
舞美が何かを聞こうとした時だった。
急にドアが開けられて、スーツ姿の男が入ってくる。
「し、社長……」
舞美が呟く。
社長らしい男は、忌々しい目つきで閃斗を見る。
「君が、刃島閃斗君だね?」
「そうですが」
「うちの看板を誑かした挙句、警察沙汰の不祥事とは、いったいどういうつもりだ! 宝生に男の噂があれば、億単位のCM契約がすべて白紙になるんだぞ! 責任を取れるのか!」
「……警察沙汰の不祥事を起こす男と一緒に居たという噂は芸能マネジメントとして致命的ってことですか?」
「そ、そういうことだ!」
あまりにも閃斗が冷静すぎて調子が狂うのか、一瞬、社長は言葉が詰まった。
……まぁ、力技を述べるならば。
閃斗がSランク階層である51層から60層からアイテムを持ち帰ってきて、CMの契約をしている会社に行って、『お詫びの印にこれを上げるんで、契約を延長してくれませんか?』と言えば、相手側は頷く『しかない』だろう。
話がややこしくなるのでそのあたりは最終手段としていったん置いておくとして。
「社長、一度、警察側から、整理された情報を聞いてくれませんか?」
「何を言って……」
「芸能事務所の社長の役目は、会社と、所属タレントの価値を守ることですが、『今のままでは、どちらも出来なくなります』」
「ば、バカにしているのか?」
「御社の所属タレントは、活動階層が18層に集中しているはず。管理支部からも学校からも、何か言われてストレスを抱えているのは推測できますが、落ち着いてください」
「……」
Dランクの中ではマニュアルが得意に整備されているマリアの洞窟の18層。
紫ゴブリンが出現した場所であり、報告書が受理されていたら封鎖されていた可能性もある。
マニュアルが整備されているということは、地元の探索者が利用するということもそうだが、『管理された環境』を使いたい探索者事務所としても扱いやすく、自社のタレントを送り込みやすい。
別に、会社として、『18層を主軸にする』などと公表してはいない。
ただ、運用する側の理屈を想像すれば、活動階層が集中していることは十分に推測できる。
舞美が提出しようとしてた報告書によって、18層が封鎖されていたかもしれないという、なかなか気持ちの整理がつきにくい事態に陥っていた社長にとって。
非常にストレスを感じるのは、閃斗としても想像に難くない。
「……いいだろう」
社長は少し落ち着いたようで、席に着いた。
「……」
舞美は、一瞬で社長を席につかせた閃斗に愕然としつつも、今は、成り行きを見守ることにした。
そもそも彼女の中で、気持ちの整理など何もついていないのだから。




