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第11話 白昼堂々の凶刃

 高級寿司屋『鮨処・鮫皮』を出た閃斗と舞美とミーちゃん。

 ミーちゃんは再び、鞄の中に入っておとなしくしている。


「……そういえば、ミーちゃん。鞄の中で大人しいな」

「閃斗さんのインナーを鞄の底に入れてますからね」

「……そうか」

「鞄の内側に広げて入れてるんですよ。『閃斗さんの香りに包まれてる感じ』がするのか、すごく大人しいんです」

「……」


 閃斗は『胎盤か何かと勘違いしてるのか?』と思ったが、流石に言わなかった。


「まぁ、おとなしいならそれはそれでいいか」

「次はどこに行きましょうか」

「このあたりなら……コスメショップか?」


 白堂学園の影響で化粧品の扱いは幅広い上に、店も多い。

 駅の傍で外を歩けば、コスメショップがない視界を確保する方が難しいくらいだ。


「え、ここで全部揃えてるんですか?」

「いや、俺は近所のスーパーの洗顔しか使ってないし、みんなが何を使ってるのか気になる」

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「ぴっぴっぴっwww ぴうう~っ!」


 舞美は絶叫した。

 後で宝生舞美が叫んだと思われないからと言って、遠慮がない。


 ミーちゃんは鞄の中で大笑いである。

 舞美はイラっとしたのか、バンッ! と鞄を叩いた。


「ブエッ!?」


 ミーちゃんの口から聞いたことのない悲鳴が聞こえた。


「……ミーちゃんに罪はないぞ」

「わかってます!」


 女には我慢できない時があるのだ。


「……行きましょうか。コスメショップ」

「……そうだな」


 閃斗はなんか悪いことしたな。とは思ったが、思っただけだった。


 で、寿司屋があるビルから少し歩いて、大通りに移動。


 大型コスメショップに入る閃斗と舞美。


「へぇ、いろいろあるんだな」


 見渡す限りの化粧品の棚。

 様々な種類、様々なブランド、凄い量の化粧品が並んでいる。


 もっとも、閃斗としては別に買いに来たわけではない。

 そもそも彼は日給5000円のDランクであり、こんなところで化粧品を買う金銭的余裕はないのだ。


「化粧品にもいろいろあるんですよ。例えばこれです」


 舞美は一つの美容品を指さした。

 ……明らかに、パッケージに、『黒髪ロングで白ブレザーを着た清楚な生徒会長』である宝生舞美がいる。


「……CMで撮ったのか」

「中にダンジョン産の素材が入ってて、実際効果もあるんですよ」

「ほう……」

「サンプルもあるのでちょっと使ってみますか?」

「ふーむ……」


 美容品のパッケージを手に取る。


 中身を出して、手に塗ってみた。


「うーん……美容液が浸透しないな」

「キメ細かすぎて全部弾いてんの!? ウッソでしょ!? ダンジョン産だよ!?」

「君はですます口調じゃなかったのか?」


 完全にキャラが崩壊した舞美に閃斗は突っ込んだ。


 ……もっとも、今の舞美は『銀髪ギャル』なので、閃斗の主観においてはそっちの方が似合っているような気がしなくもないが。


 あまりにも大声だったためか、周囲のお客さんが閃斗たちの方を見ている。


「えっ、え、こ、このクリームは!?」


 またもや、パッケージに舞美がいる化粧品だ。


「クリームって……」


 サンプルを出して顔に塗ろうとして。


「クリームがそのまま滑り落ちたああああっ!」

「……ん? 何これ。白堂学園監修の油取り紙? 初めて見たな」

「お前の顔に油なんぞあるか!」


 試しに一枚、額に張り付ける。 ゴシゴシ、擦ってみる。

 額から離して、自分で見る。


 ……新品同然だった。


「……なかったわ。うん」

「嫌味か!」


 なんて馬鹿なことを話していると、店員さんが来た。


「お、お客様。こ、こちらを手に塗ってもらえませんか?」

「ん?」


 なかなか高そうなパッケージの奴がきた。


「当店で最高品質の美容液になります。ぜひ」

「……」


 一応、サンプルらしい。

 ちょっと手に塗ってみる。


「あ、浸透した」

「すっげええええええええええええっ!」

「よ、よかった。こちらは55層の素材を使った超高級品になりますから、本当によかった」

「55層!? 人外であるSランクが挑む場所の素材を使ってるの!?」

「そういう話だろうな。しかもそれを研究して商品にするレベルに仕上げてるんだ。企業努力って凄い」


 トチ狂っている点を一つ上げるなら、『鉄鉱石』や『革』と言った、武器や防具に加工して長く使えるものではなく、化粧品と言う『消耗品』に使っているところだろう。


 そもそもSランク探索者は数が少なく、51層から60層の素材はなかなか市場に出てこない。


 依頼するとなればそれこそトチ狂った金額が必要になるわけだが、それで手に入れる素材となれば、それを長く使うことを前提とした投資だ。


 そういう意味で、ダンジョンに行って食料エリアからワサビを持ち帰ってくる閃斗もなかなか狂っている話ではある。


 閃斗は神レベルの肌ではあるが、Sランク階層から手に入れた素材を企業努力で完成させた一品は使えるようだ。


 ……一体何の話をしているのだろう。


「あ、あの、お客様。お客様の肌は、どのような……」

「すまん。それは『機密』で通してるんだよ」

「す、すみません……」


 舞美としては、『さっき近所のスーパーの洗顔しか使ってないって言ってたでしょ!』と内心キレ散らかしているが。


 何度聞いても『機密』としか言われなかった閃斗の口から零れ落ちた『超重要情報』なので、漏らしはしなかった。


 とまぁ、そんな感じで。


 どんな業界にも、維持と言うものはあり、それは人外にも、十分な影響を与えるということなのだろう。


 ★


「なんか疲れました」

「勝手に暴走していたように見えたが」

「勝手にって……」


 コスメショップから出た二人だが、閃斗は相変わらずで、舞美は少し疲れているようだ。


 とはいえ、舞美はその圧倒的なルックスで白堂学園の生徒会長を務めている。


 探索者でありながら、どれほど『芸能人』として経済効果を生み出せるか。


 肌質は重要であり、自分の肌に使っている投資額はかなりのもの。


 それを軽々と越えていく閃斗の肌には、ここまでくると呆れるしかない。


「まぁでも、あれほど叫んだなんて、久しぶりじゃないか? そういう意味だと楽しかっただろ」

「それは……そうですが……」


 高級寿司屋への飛び込み予約。

 コスメショップで肌質無双。


 どちらも閃斗にしかできないことであり、舞美からすれば、感じたこともない世界のはずだ。


「確かに、楽しかったです」

「そりゃよかった……っ!」


 閃斗は、自分に近づいてきた腕をつかんだ。


「えっ……」


 舞美は驚愕する。

 閃斗が掴んだ通行人の腕。


 そこには、鋭いナイフが握られている。


「なっ、クソッ!」

「明らかな殺意があったな。良い動きだ。Cランクで上澄みってところか」


 閃斗の顔つきが一瞬で真剣なものになり、腕を締めあげる。


「グッ、いででっ、は、放せ!」

「放すわけないだろ」

「舞美様を誑かしたクソ野郎が! 制裁を大人しく受け入れろ!」

「……ほう?」


 どうやら、ナイフを刺してきた男は、舞美のファンのようだ。

 ただ、目の前の銀髪ギャルが、宝生舞美だと気づく目は持っていない。


「ただ、いくらなんでも、監視カメラがあるところで刺してくるとは思ってなかったがな。もうすぐに警察が来るぞ」

「クソッ! 放せ。クソがっ! 舞美様を殺すときに、お前の首を持って絶望させてやるんだ!」

「えっ……」


 男の口から出てきた、舞美への殺害予告。


 舞美の口から困惑の声が漏れた。


「舞美様が男をいるなんて噂。お前が初めてだ。絶対許さねえ。お前の首を持っていけば、お前の首があれば!」

「……」


 閃斗は男の言い分を聞き入れず、腕を締めてナイフを奪う。


「……近くの武器屋に売ってる新品。街中で俺を見かけて突発的にってことか」

「か、返せ!」

「誰が返すか」


 締め上げていると、パトカーが二台、到着した。

 警官が中から出てくる。


「おい、そこのお前。大人しくしろ!」

「警察が俺の邪魔をするな! 放せ! 放せえええええっ!」

「とりあえず手錠をお願いします」

「あ、はい。失礼します!」


 警官が手錠を男の両手首に嵌める。


「ふう」

「おい、おい! 殺してやる。これを外せ! コイツの首を、舞美様をぶっ殺すときの舞台に使うんだ。放せ!」

「大人しくしろ!」


 警官がパトカーの中に男を押し込んでいく。

 そのまま扉が閉まって、男は連行されていった。


「まさかこんなことになるとは……あ、すみません。事情聴取に付き合います。確認したいこともいろいろありますし」

「……助かります。では、そちらのお嬢さんも」


 閃斗が視線を向けた時。

 舞美は顔面蒼白で、腰が抜けていた。


「……警官さん。スマホの『アプリ』」

「えっ……っ!」


 警官は閃斗に言われて、何かに気が付いたようにスマホを取り出した。

 そして、カメラを舞美に向ける。


「……なるほど」

「……おそらく、警察から離れる方が危険でしょう。警察署に、婦警さんを呼んでおいてください」

「わかりました」

「お願いします。で、立てるか?」

「ちょ、ちょっと、待って……あっ」


 閃斗は舞美の頭を抱きしめて、自分の胸に舞美の耳を当てる。


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ」

「この状況で、心音が安定してるとは……」


 警官が驚愕している間に、閃斗は舞美を立たせると、パトカーの後部座席に乗せた。


「せ、閃斗さん……」

「大丈夫。大丈夫」


 パトカーが動き出して、閃斗と舞美は警察署に向かっていく。

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