⑧ 悲しき正体
由理子が、そのUMAの心の中から、キャッチした話はこうだ。
彼は元々、地元の沼地に住んでいた、カエルだった。それが或る日、とある人物によって捕まった。
その上、研究と称して動物実験の対象となり、放射線による遺伝子操作をされた。その結果、こんな姿に変貌してしまったのだ。
そしてついさっき、その研究所を逃げ出して来た。
全ての事情が判った由理子は、涙ぐんでいた。
香子も、胸クソが悪くなって来た。
自ら望まない研究の結果、彼が得たモノは、暗闇も見える眼と、このテレパシー能力、そして中途半端に霊長類化した頭脳だけだ。後はこの地球上の何にも似ていない、その醜い姿で、これからずっと生きていかなければならない。
いやむしろ、彼自身は気づいていないが、もう、そんなに永くは生きられない事が、由理子には判ってしまったのだった。
しばらくすると、その異形の生き物は、都市公園の森の奥に、静かに去って行った。
香子は、彼の通った道を、他者に跡をつけられたりしないように、ツタやツルを使って隠し、誰にも分からなくしてしまった。
姉妹は二人とも、いたたまれない気分になり、黙り込んだまま、クルマまで戻った。ちょうどそこへ、先程のブルーのビートルが戻って来た。
そしてそのクルマから、金髪の青年が降りて来るなり、二人に話し掛けて来たのだ。
「Did you see any strange creatures ?(変な生き物を見なかったかい?)」
それに対して、香子がこう答えた。
「Beats me . I saw a baby moose.(さあね。ヘラジカの赤ちゃんなら見たわよ。)」
それを聞いた青年は、首を振りながらクルマへ戻り、去って行った。
「これで、いいのよね?」
妹に同意を求める香子。
「もちろん!百点満点よ。」
太鼓判を押す妹。
二人も赤いビートルに乗り込み、現場を後にした。
帰りの車内で、香子が呟く。
「結局、一番"悪魔のような所業"をしているのは、ニンゲンだったりするのよね。」
「ひょっとすると、彼のような例は、氷山の一角かもしれないわ。」
由理子もそんな事を言った。
「中南米で伝説になっている、チュパカブラだって、怪しいモノよねえ?」
香子が追い打ちを掛けるように語る。
「今回のような、マッドサイエンティスト的な事は、例外的に見たとしても、ニンゲン世界の、科学や医療の発展のカゲには、動物たちの犠牲が有るのは、事実だしね?」
その後、二人で大きな溜め息をついたのは、言うまでもない事である。




