⑦ ドーバーデーモン
二人はエレベーターで、地下駐車場に降りた。
もちろん今日は、赤いビートルの出番である。
助手席に姉が乗るのを確認した由理子は、早速目的地の座標を、以下のようにセンターコンソールパネルに入力した。
西暦1977年4月21日
時刻22時30分
北緯42度14分
西経71度16分
「じゃあ、出発しまあす!」
由理子は元気に宣言すると、クルマを地下駐車場から出して、光学迷彩を掛けて垂直上昇させた。
目指すはアメリカ合衆国の、マサチューセッツ州、ドーバー街のファームストリートだ。彼女は時空転移装置のスイッチを入れた。
赤いビートルは、現場に到着しても、光学迷彩を掛けたまま、上空を飛び続けた。何故なら、眼下の道には、現地の人が乗る、青いビートルが走っていたからだ。
「確かあのクルマには、ウィリアム・ビル・バートレットという名の17歳の少年と、そのお友だちが乗っているはずよ。アチラさんもビートルだなんて、面白い偶然よね?」
窓の外を確認しながら、由理子がそう言った。
「中古車のビートルは安価で手に入れ易かったから、当事のティーンエイジャーは、よく乗っていたらしいわよ。」
助手席の香子が、そんな補足をした。
上空の二人がそんな話をしていると、そのクルマが突然、道のカーブする場所で停車した。ヘッドライトに照らされた前方には、壊れた石の壁が有り、そこに何かしらの生き物が寄りかかっていた。
身長は120cm程だろうか?そんなに大きくはないようだ。体毛は無く、ヌメリのある肌の光り方だ。大きな瓢箪型の頭に赤く光る二つの眼。細長い手足の先に、これまた細長い指が伸びている。
成る程。"デーモン"と呼ばれるだけの事はある。確かに不気味な姿の生き物だ。
二人が感心していると、眼下のクルマは急発進して、その場から逃げるように去って行った。
由理子は当然のように、赤いビートルを地上に降ろすと、光学迷彩を解除して路肩に停車した。
「さあ、お姉ちゃん、行ってみよう。」
彼女は、先に降りて姉を促す。
ヤル気満々だ。
二人で前方に向かって、少し歩いて行くと、そのUMAは、まだその場に居た。
由理子がソレに向けて、テレパシーを試みる。
しばしの沈黙の後、彼女はとても悲しげな表情になった。
「何?どうしたの?」
思わず香子が、妹に詰め寄る。
「……だって、あんまりな話なんだもの。」
由理子が説明を始める。




