㉗ ウォーターフォード侯爵
「もう判っているようだが、俺の名は、ウォーターフォードだ。これでも一応、侯爵の身分を頂いている。」
彼が話し始めた。
「始まりは、酒の席で思いついた、ただの悪ふざけだったんだ。賭けに負けた者が、それぞれの考えた悪魔の扮装で、見ず知らずの他人を脅かすという……たわいも無い話さ。」
「……むしろそれは、迷惑な話、と言うのよ。」
京子が釘を刺した。
構わず、侯爵は話し続ける。
「でもその内、毎日が暇だった俺は、どうせなら目的を持って、脅かしたくなって来たんだ。」
「へえ、どんな目的なのかしら。」
「世の中の悪い奴らに、正義の鉄槌を下すのさ。どうだい、素敵だろう?」
「それで……さっきの屋敷の姉妹に、一体どんな罪が有ったって言うのかしら?」
「あのジェーン・アルソップ嬢は、女学校でご学友だったとある娘を、集団でイジメた首謀者だったのさ。」
「その、とある娘は、貴方のお知り合いだったという訳ね?」
「まあ、そんなところだ。だが、頼まれたって訳でも無いがな。」
「他にも色々な人たちに、悪さをしているわよねえ?」
「ああ。鍛冶屋のオヤジとか、大工の棟梁とかな。別に俺は、若い娘ばかりを襲う、ヘンタイって訳でも無いんだぜ。これでも、毎日つき合う女には、苦労してないんだ。」
そう言ってニヤリと笑った彼は、よく見ればブルネットの、なかなかのイケメンだった。
「その飛び跳ねる素敵な靴と、不思議な機能のある赤い仮面は、どこで手に入れたの?」
「全て俺の手作り……と、言いたいところだが、実は俺の活動を面白がってくれた、数ある友人の中でも、特に工学に詳しい人物が、考案、制作してくれたのさ。もちろん、制作費用は言い値で払ってやった。カネならいくらでも有るんだ。」
「そのご友人の名は、もしかしてフルカネルリ卿ではありませんか?」
由理子が、思いついたように二人の話に割って入った。
「……何故それを!?」
それまで悪ぶっていた侯爵が、初めて狼狽した顔を見せた。
「……道理でね。この時代には、いささかオーバーテクノロジーなものだと、私も思ったわ。どうせその仮面には、光学迷彩を見破る機能も、有るんでしょうね?」
京子はそう言って、納得したようだった。
「それで……アンタらは、この俺をどうするつもりなんだい?警察に突き出すのかい?」
「別に。私たちは、貴方を取り締まるつもりは無いわ。ただ、もう少し行動を自重しなさい。そうね。どうせ鉄槌を下すなら、相手はもっとアクドイ商売をしている社長とか、悪徳政治家とかにしなさい。」
京子は怪人に、そんなアドバイスをした。




