㉖ 怪人の正体
京子が、ビートル搭載のAIに、その場所の緯度・経度で検索をかける。すると、その屋敷の持主は、アイルランド貴族の、ウォーターフォード侯爵だった。
「どうします?」尋ねる由理子。
「……確かめましょう。」答える京子。
彼女はビートルを、その屋敷の屋根に固定すると、光学迷彩を掛けたまま、由理子と共に車外に出た。そして先程の天窓から、室内を窺う。
しかし中は暗く、良く見えない。
「コレ、不法侵入よね?」
京子は独り言を言いつつ、天窓を開けた。そして、まずは自分が、次に由理子と、二人で順番に飛び降り、屋根裏部屋に忍び込んだのである。
※ 以下の会話は全て英語で成されています。作者の都合で日本語表記になる事をご容赦下さい。
「誰だ!?」
暗がりの向こうから、男の声がした。
「貴方が"バネ足ジャック"だったのね?」
それには答えず、逆に尋ねる京子。
折しも、天窓から月明かりが差し込み、謎の怪人だった男の顔を照らし出す。年齢は20代半ばだろうか?先程二人が、AIで示された資料の中で見た、肖像画と同じ顔だ。やはりソレは、ウォーターフォード侯爵その人だった。
彼は既に、シルクハットを脱ぎ、手に装着していたカギ爪と、顔を隠していた鬼の形相の仮面を、どちらも外していた。しかし咄嗟に、側に置いて有ったカギ爪を、京子に向かって投げつけて来のだ。
京子は、自らの前に、瞬時にぶ厚い氷の壁を作り、それを苦も無く防いで見せた。空気中の湿度の高い、ロンドンならではのワザである。
次に、由理子の友だちのコウモリの群れが、天窓から入り込んで、侯爵に飛びかかった。そして、彼が怯んだところを狙って、京子がその、ジャンプ用の機材を付けたままの脚を、凍らせてしまったのだ。
そこで"勝負有り"となった。
「さあ、一体どういうつもりで、今夜のような事をしているのか、説明していただけるかしら?侯爵。」
そんなセリフで、彼に詰め寄る京子。
言われた侯爵は、すっかり観念した顔をしていた。
「……成る程。私も、そこそこのバケモノを演じている自負が有ったが、上には上が居ると言う事なのかな。」
「ああ今更だけど、断りも無しに上がり込んだ事は謝罪するわ……因みに私の名は京子。そしてコチラは由理子。どちらも日本人よ。訳有って、世界中の怪事件を、調査、及びパトロールしているの。これ以上の事情は、お互いの安全上、配慮が必要だから、話せないわ。」
京子はフェアプレーの精神で、怪人相手に、そんな風に、自らの情報開示をしたのである。




