㉕ スプリング・ヒールド・ジャック
呼び鈴の音に答えて、その屋敷の長女が、玄関のドアを開けた。彼女は、件の怪し気な訪問者と、二言三言、話している。そして一度室内に戻ると、多分頼まれたのだろう……ロウソクの灯りを持って再び現れた。
事件は、そこで発生した。ロウソクの灯りで訪問者の顔を見た長女は、突然取り乱した。背を向けて室内に逃げようとする彼女に、怪しい男が、後ろから掴みかかる。その手には、どう見てもニンゲンのモノとは思えないような、長いカギ爪が生えていたのだ!
しかしそこへ、部屋の中から、彼女の妹と思しき人物がで出来て、姉に加勢した。すると怪人は、顔面から目眩ましの青白い光……フラッシュのようなモノを出した。それに驚きつつも、何とか怪人の手から逃れた姉妹は、連れ立って室内に逃げ込み、玄関の扉を固く閉ざした。
怪人は諦めずに、屋敷の周りを歩きまわり、開いている窓を探す。そして次の瞬間、ニンゲン技とは思えない跳躍力を見せ、あっと言う間にその屋敷の屋根の上に、跳び乗ったのだ。
そこでヤツは、上空に居るビートルに、気づいたようだった。コチラをふと振り返った顔には、鬼か悪魔のように見える、恐ろしげな仮面を着けていた。目の部分など、真っ赤だ。暗闇で出くわしたら、さぞや相手をビビらせる事だろう。
そんな事を考えていた、運転席の京子と、視線が絡み合った……ような感じがした。だが、ソレは有り得ない。何故なら、こちらの光学迷彩は、ステルスモードなのだから。
だが、何かしら感づいたのだろうか?その怪人は、後ろ脚のバネと前脚のカギ爪を器用に使って、まるで獣のように、屋根伝いにピョンピョン跳んで移動し始めたのだ。
その様子はまるで、前脚に長いカギ爪を持った、カンガルーのようだった……いや、そんな動物は、この世には存在しないが。
「由理子さん、お願い出来るかしら?」
京子から声が掛かる。
「任せて下さい。先程、地元のコウモリさんたちに、連絡がつきましたから…あっ、ほら、来ましたよ。」
由理子が指を指す。
京子が、フロントウインドウから外を見ると、屋根から屋根へと、ピョンピョン跳んで行く怪しい男の後を、コウモリの集団が追って行く。これでヤツを見失う心配は無さそうだった。
その後、二人は、コウモリの助けを借りながら、ビートルで上空から怪人の後を追った。ヤツは闇の中をどんどん遠くまで跳んで行く。
「一体何処まで行くつもりなのかしら?」
思わず呟く京子。
やがて、とある立派な屋敷の、屋根の上に辿り着いた怪人は、二人の目の前で、何の躊躇いも無く、天窓から屋根裏部屋へと、侵入したのである。




