㉔ 対象を広げて
サン・ジェルマンと杉浦鷹志が、フルカネルリ卿と衛星軌道上で出会ってから、数日後……。
何故か先日から、伯爵が、調査テーマを、"悪魔にこだわらなくて良い"と言い出したので、村田京子も、違うテーマで取り組む事にした。
ただ、事実婚の伴侶である伯爵が、杉浦鷹志と一緒に取り組む研究で忙しいとの事だったので、今回は、黄色いビートルのハンドルを、自分が握る事になった。そして助手席には、鷹志のパートナーの由理子を乗せるという、変則的なメンバーで出発したのである。
今日の彼女の服装は、何時もの黄色いワンピースの上に、ベージュのトレンチコート。由理子も何時も通りのメイド服だが、上に春物のガウンを羽織っている。どうやら目的地は、ちょっとだけ肌寒いらしい。
京子は、クルマを駐車場から出すと、何時ものように光学迷彩を掛けて、垂直上昇させた。そして、思い出したように、以下のような座標を、センターコンソールパネルに入力したのだった。
西暦1838年2月20日
時刻20時45分
北緯51度31分
西経00度01分
「さあ、出発するわよ。」
彼女はそう言うと、時空転移装置のスイッチを入れた。
目指すはイギリスのロンドン郊外。
オールドフォードのベアーバインド小路。
アルソップ家の玄関前だ。
京子のビートルが、現場上空に到着すると、当然の事ながら、辺りは薄暗かった。ただ幸いな事に、今夜は珍しく、霧が濃くないのて、眼下の郊外の様子がよく見える。
「由理子さん、見て。ほら、アレよ。」
京子が指差す方を見ると、とある街外れの屋敷の玄関先で、シルクハットを被り、黒いマントを羽織った、如何にも怪し気な長身の人物が、呼び鈴を押しているところだった。
「どう?アレはニンゲンかしら?それとも……。」
「この場所から感じる限り、アレは、ニンゲンの男性です。鬼でも悪魔でもありませんし、ましてや野生動物でもありません。」
由理子はテレパシーで感じ取り、そう断言した。
「……そうなのね。じゃあひとまず安心だわ。私たちはここから、成り行きを見守るとしましょう。」
「はい。それで、問題無いと思います。」
由理子は重ねてそう言った。
由理子のテレパシー能力ならば、あの人物がこの後、何を企んでいるかまで、判るはずだ。それでも問題無いと言う。京子には、ソレが、少しだけ引っ掛かるのだった。




