⑳ ブラックナイト
その衛星は、長年の間、正体不明であり続けた。
しかし、時々映像として、捉えられたりはしている。その姿は独特だ。まるで大きくて真っ黒な、一枚の瓦板のようだった。
往年の特撮ドラマファンに向けて、例えるなら、"キャプテン・ウルトラ"の"シュピーゲル号"のような形と言えば、分かって頂けるだろうか。なに?余計分からない?お近くのAIにお尋ね下さい。
……ともあれ、サン・ジェルマンの黒いビートルは、その所属不明のアヤシイ衛星に向かって、慎重に近づいて行った。そして、お互いの距離が残り10m程になった時、異変は起こったのだ。
「ようこそ、サン・ジェルマン伯爵。待ちかねたぞ。」という、声高らかな日本語の呼び掛けが、ビートルのナビゲーションシステムに侵入して成された。そして次の瞬間、牽引ビームのようなモノで、その衛星に捕らえられてしまったのである。
その後、あれよあれよと言う間に、ビートルは、ブラックナイトの腹に飲み込まれてしまった。
伯爵と鷹志はすっかり呆気に取られて、事態に対処出来なかったが、不思議と、恐怖心や、相手からの悪意のようなモノは、感じなかったのだった。
やがて黒いビートルは、衛星内の着艦デッキに固定された。そして、引き続きアナウンスが入る。
「別に、取って食おうというつもりはない。安心して、クルマから出て来たまえ。船内には、清潔な空気が充填されている。呼吸可能だよ。」
その言葉を信用して、二人はビートルのドアを開けた。成る程、呼吸に問題は無いようだ。しかも1G程の、人工重力も働いている。どうやら、かなりの科学力を持った相手のようだった。
「……そこのドアから入って来たまえ。」
その言葉とともに、開く自動ドアが有った。もうこう成ったら"毒食わば皿まで"だ。二人は、アナウンスに従って、どんどん奥に入って行った。
廊下の突き当たりの、最後のドアが開くと、そこは、ヴィクトリア調の家具で設えられた、応接室だった。ワインカラーのベロア生地のソファーが、丸いテーブルを囲んで、アルファベットのCの形に、輪になるように並んでいる。
「二人とも、そこで座って寛いでくれ給え。私も、間もなくそこへ行く。」
また、そんなアナウンスが入った。しかし、どこにもスピーカーらしきモノが見当たらない。それに多分、隠しカメラも船内に満載なのだろう。
取り敢えず二人は、大人しくソファーに座り、ここの主を待つ事にした。




