② 小さかったら妖精なのに
「追いかけましょう!」
助手席の成雪が伯爵に頼む。
「もちろんですとも!」
伯爵も元気に答え、黒いビートルで、飛んで行くモスマンの追跡を開始した。
どうやらモスマンは、近くの森に向かうようだ。
見失わないように、しかし距離は取りつつ追いかける。
何しろ、相手の正体は、悪魔かも知れないのだ。
例え光学迷彩を、透明モードにしていても、見つかるリスクはある。
森の入り口辺りに、モスマンが着陸したのを確認した三人は、その近くにクルマを降ろし、そこから徒歩でそのバケモノを追いかけた。
そして、そこから少し歩いた木陰の暗がりで、そいつを見つけた。
そいつは、連れて来た二人のニンゲンに、何かしようとしている。やはり、人命救助では無いようだ。
「そこまでよ!おやめなさい!」
カグヤは、思わずそのバケモノに、日本語で声を掛けた。
それに対してモスマンは、コチラに向かって振り返り、三人の頭の中に直接語りかけて来た。
『邪魔をするな。我がカラダを完全体にするために、ニンゲンのボディ情報と魂のエネルギーが必要なのだ。』
よく見ると、目の上から触角は生えているし、その口元は、まるで昆虫のような異形だ。成る程。これでは、言葉を発声する事も出来まい。それ故のテレパシー能力、という事か。
成雪は、何だかモスマンの事が、気の毒になった。なまじ、ニンゲンサイズの虫だから、バケモノ呼ばわりされたり、悪魔扱いされたりするのだ。いっそ片手に収まるようなサイズなら、妖精とか言われて、可愛がられたのかも知れないのに……。
「四次元人が、三次元空間に漂う微粒子を取り込んで、ランダムに肉体を構築しようとすると、稀にこんな、昆虫のバケモノのようなモノに、なったりするのです。」
サン・ジェルマンがそう言った。
「……お気の毒な話ね。でもだからと言って、他人のカラダを勝手に利用する事を、見逃す訳には行かないわ。」
厳しい顔でカグヤが言った。
「四次元人だから、あの橋で事故が起きる事が、あらかじめ判っていたんだね。そして、事故のドサクサに紛れて、ニンゲンのカラダを調達した。」
成雪が呟いた。
『待てよ。オマエたちは……サン・ジェルマンの一味ではないか!?』
モスマンは、まるで3人が誰だか知っているようだった。
「不思議ですね。アナタとは、初対面のはずですが……以前何処かでお会いしましたか?……それとも、我々がやって来る事を、事前にどなたかにお聞きになって居たとか?」
伯爵がそのバケモノに尋ねた。
『ノーコメントだ。』
モスマンが解答を拒否した。




