① モスマン
成雪が久しぶりに、カグヤ・イシュタルにおねだりして来た。
「あのう……また気になる事が有るんだけど。」
「なあに?何でも言ってご覧なさい。」
いつものように、カグヤは優しく答える。
「以前、サン・ジェルマン伯爵が言っていた、"悪魔を探せ"というテーマに、ピッタリな案件を見つけたんです。」
「いいんじゃない。早速、雪子さんを通じて、お願いしてみましょう。」
しばらくすると、連絡を受けて、伯爵が黒いワーゲンビートルでやって来た。
「それで?成雪君が気になるのは、どんな案件なんだい?」
伯爵が彼に尋ねる。
「アメリカの……モスマンの事件です。」成雪が即答した。
伯爵は「ああ、なるほど。」とうなずく。
「それなら……どの座標にする?」
「例の橋の事件の時点で、お願いします。」
「よし、分かった。じゃあ行ってみようか。」
成雪は助手席へ、カグヤは後部座席に乗り込み、出発準備を始めた。
目的地の座標は、以下の通りに入力した。
西暦1967年12月15日
時刻17時00分
北緯38度50分
西経08度40分
運転席の伯爵は、黒いビートルに光学迷彩を掛けて、垂直上昇させると、
時空転移装置のスイッチを入れたのだった。
程なくして、3人を乗せたクルマは、アメリカ合衆国のオハイオ州とバージニア州を結ぶつり橋、シルバーブリッジの上空に出現した。
眼下の橋は、クリスマスの準備の買い物に向かうクルマで、大混雑だ。
しかし、注目すべきはそこでは無く、橋の中央付近の柱のてっぺんだった。
居た。1年ほど前から通称モスマンと呼ばれ、恐れられている怪物だ。
身長はニンゲンよりやや大きく、2mほどに見える。
カラダの色は黒っぽく、頭の位置は両肩より低く、そこに二つの、大きな赤い目が光っている。そしてコウモリ……と言うよりはむしろ"蛾"のような、毛むくじゃらの翼をたたんで、眼下の橋をじっと見つめている。
それはまるで、これから何かが起きるのを、待っているかのようだった。
やがてその瞬間は訪れた。
突然、つり橋を支えていたチェーンが切れ、ソレをきっかけにして、橋を吊り上げていた基礎構造が崩壊し、31台の車両もろとも、摂氏6度の、冷たいオハイオ川へと転落して行ったのだ。
しばらくすると、モスマンが動き出した。大きな翼を広げて滑空すると、まるでミサゴのように水中に飛び込み、長い爪の生えた両足で二人のニンゲンを掴み、浮上してきたのだ。そして、そのままどこかへ飛び去ろうとしている。




