⑰ 雪子と由理子
年が明けた1994年1月15日の土曜日。
時刻はちょうど14時を回った頃。
今日もセーラー服の雪子は、昭和の時間軸の亜空間レストランに、顔を出していた。
そこへ、いつものメイド服を着た由理子が、アメリカンコーヒーを持ってやって来て、話し掛ける。
「お姉様、お願いが有ります。」
「なあに?私の可愛い妹よ。」
「今日、この後、お暇ですか?」
「あら、私はいつでも暇よ。」
「悪魔の怪物が出そうな案件を見つけたので、出来れば私と一緒に、行って頂けないでしょうか?」
「いいけど、鷹志君は?一緒に行かないの?」
「彼は今後、バックアップにまわるって、決めたんだそうです。」
「へえ、そうなんだ。」
「特に悪魔関係の案件には、手を出したくないって……研究室に籠もっています。」
「ふ〜ん、分かった。じゃあ、付き合ってあげる。で、どこへ行きたいの?」
「海です。例のメアリー・セレスト号事件を、調べてみようと思います。」
「了解。どのクルマで行く?」
「……現場に合わせて、京子さんの黄色いビートルを借りました。じゃあ、すぐ準備するので、コーヒーを飲んだら、先に地下駐車場に降りていて下さい。」
由理子はそう言うと、バタバタとどこかへ駆けて行った。大方、鷹志に、今から出発する事を、伝えに行ったのだろう。コレは、少し時間がかかりそうね。ゆっくりコーヒーが飲めそうだわ。雪子はそう思った。
コーヒーカップをセルフで片付けた雪子が、クルマのところまで行くと、黄色いビートルの運転席には、もう由理子が座って待っていた。
「あら、お待たせ。意外と早かったのね?」
「ああ、お姉様。どうぞ助手席へ。鷹志ったら研究に夢中で、何だか上の空だったんです。」
「考えてみたら、そもそも彼は、根っからの研究者ですものね。私のような武闘派とは違うかな。」
「あら、お姉様だって、天才物理学者なんでしょう?」
「まあね。最近はめっきり、アウトドア派になっちゃったけど……。」
「……行きましょうか。座標はもう、入力しました。」
由理子に言われてセンターコンソールパネルを見ると、以下のように表示されていた。
西暦1872年11月7日
時刻14時00分
北緯39度30分
西経33度30分
目指すは、アゾレス諸島の西方100マイルの海上だ。
由理子は、黄色いビートルを駐車場から出すと、光学迷彩を掛けて、上空に飛ばした。
そしていつものように、時空転移装置のスイッチを入れたのである。




