⑭ ジャージーデビル
「伯爵、そろそろ試しに行きたいのですが……。」
杉浦鷹志が、そんな感じにサン・ジェルマンに声を掛けたのは、その年も押し迫った師走の頃だった。
「そうですね。今夜辺り、ヤツが現れるかもしれません……たまには我々二人だけで、行ってみましょうか?」
伯爵も同意した。二人で開発した、様々な発明品を試すのに、ちょうど良い晩だ。
今日は珍しく、他のメンバーは皆、帰ってしまって、名護屋テレビ塔の亜空間レストランに、二人きりだった。鷹志としては、もちろん、このタイミングを狙っていたのだが……。
彼は、色々な素敵なガジェット……つまり秘密兵器を、伯爵と二人だけの時に試しに使って、何か不具合が有るなら、ソレを修正してから、皆にお披露目したかったのだ。
「じゃあ、早速参りましょうか?因みに例のモノは、もう黒いビートルに積んでありますよ。」
「流石は伯爵。仕事が早いですね。」
「鷹志君が、ずっとソワソワして居るのが、分かっていたからね。」
そんな訳で、二人は地下駐車場に降りると、すぐにクルマに乗り込んだ。今日は二人とも、黒いタートルネックセーターに黒いズボン、その上には黒いコートといった、隠密行動に向いた服装を選んでいた。
そしてサン・ジェルマンが、センターコンソールパネルに、以下のような目的地の座標を打ち込む。
西暦1993年12月15日
時刻23時00分
北緯39度45分
西経74度30分
彼は、静かにクルマを出すと、光学迷彩を掛けてゆっくりと上昇させてから、時空転移装置のスイッチを入れた。
目指すはアメリカ合衆国、ニュージャージー州の、パイン・バレンズ自然公園だ。今夜、そこにヤツが現れるはずなのだ。
一方そのころ、自然公園管理者のジョン・アーウィンは、ジープに乗り、一人で深夜の森をパトロールしていた。動植物の違法な密猟や採取を、取り締まるためである。それに近頃は、好き勝手な場所で焚火をしたり、キャンプをしたりで、マナーを守れない者たちも居る。まったく困ったものだ。そんな事を考えながら、カーブを曲がった時だった。
そいつはふいに目の前に現れた。
ヘッドライトに照らされてなお、黒く濡れたように見える毛並み。
真っ赤に光る二つの眼。
体長1.8mほどの、小柄で細身の馬に似た顔と身体。
細長く、先が三つ又に分かれた尻尾。
そして何より異様なのは、背中に生えたコウモリのような翼。
つまり要約すると、見たことも聞いたこともないような姿の生物が、二本の後ろ脚で、すっくと立っていたのである。
……いや、訂正しよう。噂には聞いたことがある特徴だ。そうか。こいつがジャージーデビルなのか?そこまで思い出したジョンは、慌てて急ブレーキをかけた。
目の前の怪物は、落ち着いた足取りで、後ろの森の中に消えて行った。彼は迷った末にクルマを降りて、懐中電灯を点け、ゆっくりと怪物の消えた先に進んでみたのだった。




