⑬ 決着
「今です、雪子さん!!」
ジャンヌが叫ぶのと同時に、雪男の前と後ろから、その胴体を、同時に剣で薙ぎ払う二人。
次の瞬間、バケモノの上半身は、下半身から完全に切り離され、真っ白い雪の上に、真っ赤な血液と臓物をぶちまけながら、落ちた。雪山に、野獣の断末魔の声が響き渡る。
すかさず、雪子が、トドメの一撃とばかりにその首を斬り放した。そして間髪入れずに、チカラ使ってソレを燃やし、あっと言う間に炭にしてしまったのだった。念のためである。やはり、黒いモヤモヤは出なかったが……。
その間、僅か5秒の出来事であった。
肩で息をする二人。
「……ヤリましたね。」とジャンヌ。
「上出来よ。」と雪子。
「貴女、やっぱり戦闘のセンスは抜群ね。かつてフランスを勝利に導いたチカラは、伊達じゃなかったって事よね。剣技だけなら多分、あのカグヤ・イシュタルより上よ。」
「そんな……アヌンナキの一柱を担う方と比べられるなんて、恐縮です。」
「私の剣の動きを見た直後に、それにシンクロさせて、きっちり自分の剣さばきを合わせて見せた。だから敵を、真っ二つに出来た。もはや、神業と呼んでも差し支えないわよ。」
「それは……褒めすぎですよ。」
ジャンヌは褒められすぎて、困っていた。
「……さて、この野獣の死体の処理をしなくちゃね。悪いけどジャンヌ、先にクルマの中に戻ってくれるかしら?」
「はい。でも、どうされるんですか?」
「いいから。後は任せて。」
彼女がビートルに戻るのを見届けると、雪子はおもむろに両腕を挙げて、チカラを溜め始めた。上空には、おあつえ向きの、黒い雲が垂れ込めている。大方、この雪男の成れの果てが、呼んだのだろう。
自分の呼んだ雲で、自分にトドメを刺されるなんて、皮肉ね。そんな事をふと思いつつ、雪子は両腕を一気に振り下ろした。
次の瞬間、稲妻が閃き、落雷が二つに別れた野獣の胴体を、すっかり炭の塊にしてしまった。その上から小枝を振りかけると、焚火の跡に見えなくもない。
「コレで良し。」と呟き、雪子は急いでジャンヌの待つビートルに戻った。
「お待たせ!急上昇するわよ。」
そう言うと同時に、彼女はクルマを、一気に上空まで飛ばした。ジャンヌが車窓から眼下を覗くと、先程の落雷の衝撃の影響だろう。折しも雪山の斜面では、雪崩が発生していた。おびただしい雪が、事件現場の全てを飲み込んで行く。
「アレで良いのよ。」雪子が隣で呟いた。
「そうなんですね?」半信半疑のジャンヌ。
「雪が溶け始めたころに、事件現場の全てが分かるのが、歴史上の決まりなのよ……さあ、帰りましょう。伯爵に、見つけたのは"悪魔"じゃなくて、"雪男の成れの果て"でしたって報告しなくっちゃ。」
雪子は、どこか寂し気な顔でそう言って、シルバーのビートルを、懐かしい名護屋テレビ塔へと飛ばしたのだった。




