第十 盗みを働いたら、牛に生まれ変わって恩返しされた話
大和国添上郡の山村に、昔、椋家長という男が住んでいた。
十二月のある日、彼は「方広経」というお経を読んで、これまでの罪を懺悔しようと思い立った。家来に言った。
「禅師を一人、呼んできてくれ」
家来が聞いた。「どの寺の先生をお呼びしましょうか?」
家長は答えた。「どこの寺でもいい。たまたま通りかかった人を呼んでくれ」
家来は言われた通りに外へ出て、たまたま道を歩いていた一人の僧を連れて帰ってきた。
家長は信心深く、その僧を丁寧にもてなした。
その夜、お経を読み終えたあと、僧が寝ようとすると、家長は上等の布団を掛けてあげた。
すると僧は心の中でこう思った。「明日の朝、この布団をこっそり持ち出して逃げてやろう……」
その瞬間、どこからか声がした。
「その布団を盗むな」
僧はびっくりして飛び起きた。家の中を見回したが、人影はない。ただ、一頭の牛が倉のそばに立っているだけだった。
僧は恐る恐る牛のそばに近づくと、牛がはっきりと言った。
「私はこの家の主人の父親だ。昔、生きていた頃、息子に知らせず勝手に他人の稲を十束盗んだ。その罪で、今は牛の身に生まれ変わって、借りを返しているんだ。お前は出家した身でありながら、どうして他人の布団を盗もうとするんだ?本当かどうかわからないなら、私のために人の座を用意してくれ。そこに座って見せてやるから」
僧は大いに恥ずかしくなり、盗むのをやめてその場で寝た。
翌朝、法要が終わった後、家長に言った。「他の人は遠くへ行かせてください」
家長が親族だけを呼び集めると、僧は昨夜の出来事をすべて話した。
家長は悲しみのあまり泣きながら、牛のそばに藁を敷いて言った。
「もし本当に私の父なら、この座に座ってください」
すると牛は膝を折り、その藁の上にゆっくりと横たわった。
親族たちは一斉に声を上げて泣き出した。
「本当だ……! お父さんだ!」
みんなで牛に向かって礼拝し、家長は言った。
「今までお父さんに苦労をかけていた仕事は、すべて許します。もう働かなくていいです」
牛はそれを聞くと、大きな目から涙をポロポロと流し、深いため息をついた。
その日の申の刻(午後4時頃)、牛は静かに息を引き取った。
その後、家長は盗まれそうになった布団と財物を僧に施し、父親のために盛大に供養と善行を行った。
因果の理は、まことに信じなければならないものだ。
簡単な解説(連載用)
この第十話は、『日本霊異記』の中でも特に因果応報がストレートに描かれた「転生譚」です。
生きているうちに「こっそり他人の物を盗んだ」罪で、死後に牛に生まれ変わる(畜生道に堕ちる)。牛の姿のまま、息子(家長)の家で働かされながら、罪を償っている。僧が窃盗を犯そうとした瞬間、牛(元・父親)が忠告する。最後に家族が気づき、許しを与えると、牛は涙を流して息絶える。
「盗み」という身近な罪が、畜生道への輪廻転生という形になるという勧善懲悪の話です。




