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日本霊異記 現代語版  作者: はまゆう


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第九 鷲にさらわれた赤ちゃんが、8年後に父親と再会した話

飛鳥の川原板葺宮で天下を治めていた皇極天皇の時代、癸卯の年(643年)の春三月頃のこと。

但馬国(今の兵庫県北部)七美郡の山里に住むある家に、生まれたばかりの女の子がいた。

ある日、その赤ちゃんが中庭でハイハイしていると、突然大きな鷲が舞い降りてきて、赤ちゃんを掴むとそのまま空高く飛び去ってしまった。

東の空に向かって飛んでいく鷲を、両親は必死で追いかけたが、すぐに姿が見えなくなってしまった。父親も母親も泣き叫び、悲しみのあまりどうしようもなかった。

それから8年が経った。

今度は孝徳天皇の時代、難波長柄豊前宮で天下を治めていた庚戌の年(650年)の秋八月下旬。

ある男が、仕事の用事で丹波国加佐郡(今の京都府北部)までやって来た。その夜、他人の家に泊めてもらうことになった。

翌朝、その家の幼い女の子が井戸へ水を汲みに行った。宿泊客の男も足を洗うために一緒に井戸の近くへ行くと、村の他の女の子たちが集まってきて、その家の子から桶を奪おうとした。

その家の女の子は必死で桶を守ったが、村の女の子たちはみんなで寄ってたかって彼女をいじめ始めた。

「お前なんか、鷲に食い残された子だろ! 生意気なんだよ!」

そう罵りながら、叩いたり押したりして泣かせてしまった。

女の子は泣きながら家に帰ってきた。家主が驚いて聞いた。

「どうしたんだ? なぜ泣いている?」

女の子が事情を話すと、宿泊客の男は顔色を変えた。さらに詳しく聞いてみると、村の女の子たちが言っていた言葉はこうだった。

「鷲に食い残された子だから、生意気なんだよ」

家主は少し考えてから、ゆっくりと言った。

「実は……八年前の春三月頃、私は山で鳩を捕まえようとして木の上にいたんだ。すると西の方から大きな鷲が飛んできて、赤ちゃんを掴んだまま私の近くの巣に落とした。その赤ちゃんは大声で泣き叫んでいた。巣にいた雛たちはその泣き声に驚いて、餌を食べられなくなってしまった。私は可哀想に思って、巣から赤ちゃんを下ろして引き取り、自分の娘として育ててきたんだよ」

男は震える声で聞いた。

「その……鷲がさらってきたのは、いつ頃のことですか?」

家主が答えた年月日を聞いて、男ははっとした。

完全に一致した。

男は突然泣き崩れた。

「その子は……私の娘だ!八年前、但馬の家の中庭で遊ばせていたら、鷲にさらわれてしまったんだ……!」

家主も驚き、すぐに事情を理解した。こうして、鷲にさらわれた赤ちゃんは、8年ぶりに本当の父親と再会することができた。

本当に不思議な話だ。

天は哀れんで、親子の深い縁をこうして結んでくれたのだろう。

これはまことに奇異な出来事である。




解説

この第九話は、『日本霊異記』の中でも特に感動的な「親子の再会」の話です。

「鷲にさらわれた赤ちゃんが、8年後に父親と再会する感動の親子物語。

突然の失踪は当時の人々にとって『神隠し』のような不思議な出来事に感じられたでしょうが、この話の狙いは『親子の深い縁』と『仏の加護による奇跡』を描くことにあります。

人さらいの恐怖話ではなく、失われた絆が天の力で結び直される希望のエピソードです。


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