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第464話「連携の先に」

「ロニ、そしてレネ……合わせられるな?」


レオンの低い声が冷たい空気を震わせ、その振動が肌に微かな粟立ちを残していく。


「……ええ、もちろんよ」


ロニの声は細い糸を紡ぐように紡がれた。喉の奥で震える不安を飲み込む音が微かに聞こえ、けれど最後には鋼のような決意で締めくくられる。彼女の吐息が白い煙となって夜気に溶け、頬を撫でる冷たさが緊張を一層際立たせた。


「私たちは、二人の子だもの」


その言葉が胸の奥に落ちた瞬間、まるで小さな炭火が灯されたような温もりがじわりと広がっていく。血管を通じて全身に熱が巡り、指先まで勇気が行き渡るのを感じる。


「ふふ、出来ないほうが難しいまであるよね!」


レネの笑い声は鈴を転がすような軽やかさで、重苦しい空気を春風のように優しく解きほぐしていく。その明るさの奥に感じる揺るぎない信頼が、まるで温かい手で肩を抱かれているような安心感を与えてくれた。


「うん、それじゃあ行こう!」


クレイラの柔らかな声音と共に、慈母のような眼差しが三人を包み込む。その瞳から放たれる光は、冬の朝日のように優しく、けれど確かな力強さを宿していた。彼女が踏み出す一歩の音が、石畳に確かな決意を刻む。


三人もその背中に引き寄せられるように続く。革靴が石を踏む音が重なり、吸い込む息と吐く息のリズムが徐々に一つになり、胸の鼓動までもが同じ旋律を奏で始める。風が四人の間を通り抜け、それぞれの髪を優しく撫でながら、まるで絆を祝福するように頬を冷やしていった。


「やらせはしない!」


クラフトの口元が醜く引き裂かれ、黒い歯茎が露わになる。その隙間から漏れ出す息は、干潮時の磯と腐った卵が混ざったような悪臭を放ち、胃の奥から込み上げる吐き気と戦わずにはいられない。


触手が石畳を這いずる音——ぬちゃり、ずるり、べちゃり——その粘液質な響きが鼓膜に張り付き、耳の奥で不快にこだまする。触手の表面で脈打つ無数の吸盤から滲み出る体液は、虹色に光りながらも腐敗臭を放ち、触れた空気さえも汚染していく。皮膚がざわざわと粟立ち、本能的な嫌悪感が背筋を駆け上る。


「それは」


「こちらのセリフだ!」


オーディンの雷撃が空を引き裂く——耳が痛くなるほどの轟音と共に、焦げたオゾンの刺激臭が鼻腔を突き刺す。フェンリルの炎は顔の皮膚をひりひりと焼き、同時に噴き出す氷の息は骨の髄まで凍てつかせる。熱さと冷たさが同時に襲いかかる矛盾した感覚に、神経が混乱の悲鳴を上げる。触手と激突する瞬間、じゅうじゅうという肉の焼ける音とパキパキという凍結音が不協和音となって耳を責め立てる。


「おのれ……!ただの神如きに!」


クラフトの声が何重にも響き、まるで無数の蟲が喉を這い上がってくるような気味の悪い振動となって空間を満たす。その響きに触れた瞬間、鳥肌が全身を覆い尽くす。


「はははぁ!やってるな狼息子!」


「手を貸すぜ、フェンリル兄ぃ!」


突如、空間がべちゃりと粘つく音を立てて裂ける。その裂け目から滑り込んできたロキの狂った笑い声と、ヨルムンガンドの鱗がざらざらと擦れ合う不快な音が、まるで黒板を引っ掻くように神経を逆撫でする。


二人と共に押し寄せる潮の香りと腐った魚の生臭さが鼻を襲い、喉の奥で胃液が逆流しそうになる。口の中に広がる苦い味に、思わず唾を飲み込む。


「っく、次から次へと……!

どうやってここへ来たというのだ!」


クラフトの顔が水飴のようにどろりと歪み、その表情から滴る黒い雫がじゅうじゅうと音を立てて石畳を溶かしていく。溶けた石から立ち上る白い煙が、硫黄のような刺激臭と共に目を刺激する。


「あぁん?決まってんだろ?

こじ開けた穴に飛び込んできたんだよ!ばあか!!!」


ヨルムンガンドの指がぐにゃりとあり得ない角度に曲がり、その関節が骨の軋む音を立てる。ロキと共に響かせる哄笑から吐き出される息は、緑がかった紫の靄となって漂い、甘ったるい腐敗臭が鼻の奥まで侵入してくる。その匂いに触れた途端、舌の上に金属的な味が広がる。


毒素が舞い踊る。それは単なる毒ではない——神々の肉を溶かし、不死すらも朽ちさせる、存在そのものを否定する毒。触れた大気がぱちぱちと音を立てて変質し、現実が悲鳴を上げているかのような不協和音が響く。肌がちりちりと焼けるような感覚と共に、体の芯から力が抜けていくような恐怖が這い上がる。


「けけっ、蛇息子の毒は進化してんだ……!テメェら邪神でも、ちぃとキッツいぜ!」


ロキの舌が蛇のようにぬらりと伸び、唇を舐め回す。その唾液が滴る度にじゅわっという音と共に空間に穴が開き、そこから漂う異界の匂いが正気を揺さぶる。希望と絶望、狂気と正気が渾然一体となり、戦場は五感を狂わせる混沌の坩堝と化していく。


「ライルさん、俺たちはもう平気です。レオンさんたちの援護に!」


「……わかった!」


ライルが紡ぐ光のマナが、暖炉の前に座った時のような優しい温もりとなって傷ついた者たちを包み込む。緑の光が肌に触れると、まるで春の若葉の匂いと共に、痛みがすうっと引いていく心地よさが広がった。


イングラムたちも決意を新たに武器を握る。金属と革が擦れる音が、戦いへの覚悟を物語っていた。


凶拳がクトゥルフの触手を断ち切る瞬間、ぶちりという生々しい音と共に、生温い黒い血が頬に飛び散る。鉄錆のような血の匂いが鼻を突き、肌に付着した血がぬるりとした不快感を残す。


"ぐおぉぉ……っ!"


クトゥルフの苦悶の声が内臓を震わせる。


「そぉらっ!」


紫電がバチバチと空気を焦がし、水圧が耳をつんざく轟音と共に炸裂する。ロニの真紅の瞳から放たれる力が、肌をピリピリと刺激しながら敵を薙ぎ払っていく。


「私も負けられないわね」


レネの炎が顔を焦がすような熱波を放ち、風が髪を激しく乱しながら敵を切り裂く。朱と緑の奔流が眷属たちを焼き尽くす音と匂いが、戦場に充満していく。


クレイラの四色のマナが虹のように輝き、その光に触れた瞬間、全身に力が漲るのを感じる。母の手に包まれているような安心感と共に、破壊の力が倍加していく。


降り立ったレオンの横に、ライルが肩を並べる。二人の息遣いが近く、互いの体温を感じられる距離。


「レオン……」


「俺たちは、彼女たちのようにはなれない」


レオンの声に込められた苦い真実が、胸を締め付ける。失ったものの重さが、まるで鉛のように心に沈んでいく。


「ライル」


けれど、その名を呼ばれた瞬間、まるで凍った心に春の陽光が差し込んだような温かさが広がる。長年心に刺さっていた棘が、痛みもなくするりと抜け落ちていくような解放感。


「合わせろ」


「もちろんだ……!」


二人の決意が重なり、呼吸が一つになる。その瞬間、まるで世界が二人だけのものになったような、不思議な一体感に包まれた。


黒と白、陰と陽、闇と光──


相反する力が螺旋を描いて絡み合い、空気中で火花を散らしながら融合していく。双子の呼吸が完全に同調した瞬間、まるで一つの生命体のように動き始める。彼女たちの髪が舞い上がる度に、黒と白の残像が網膜に焼き付き、その軌跡から漂う焦げた空気と凍てつく冷気が頬を交互に撫でていく。


「……強い、あれがあの二人の力か」


オーディンの驚嘆の吐息が、戦場の空気を震わせる。


「失われた時間を、ほんの数分で取り戻すとは、やはり、レオンの実力は並大抵のものではないな」


フェンリルの低い唸り声に、感服の響きが混じる。その瞬間、双子の攻撃がクトゥルフの触手を切り裂く──ぶちり、ざくり、と生々しい音と共に、黒い体液が噴水のように飛び散り、腐った海藻のような悪臭が鼻腔を襲う。


連撃連殺。


拳が肉を潰す鈍い音、脚が骨を断つ高い音、そして敵が崩れ落ちる重い音が、恐ろしいリズムを刻んでいく。双子の攻撃を受けた敵は、まるで紙くずのように宙を舞い、地面に叩きつけられる度に、石畳が悲鳴のような音を立てて砕け散る。


「……今だ、ソウルイーターの力をぶつける!」


ソフィアの決意が、冷たい空気を切り裂く。


"気付いておらぬと思っていたのか!小娘が!"


クトゥルフの怒りと共に、触手が鞭のようにしなり、空気を引き裂く甲高い音を立てながらソフィアに迫る──


「おっと、そうはさせない!」


「ソフィアさんはやらせん!」


神性が解放される瞬間、まるで太陽が間近で爆発したような眩い光と熱が全身を包む。ルークとルシウスの風と炎のマナの力が触手に激突し、じゅうじゅうと肉の焼ける音と、風を切るような音が不協和音を奏でる。爆発と共に飛び散った肉片が、べちゃりと頬に張り付く不快感。


「ありがと……!二人とも!」


ソフィアの手が巨大化した鎌を握る。金属の冷たさが掌から腕へと這い上がり、その重量が肩を軋ませる。ふらつく体をイングラムの温かい手が支え、二人の体温が混じり合う。


「ソフィア……やろう、二人で!」


イングラムの息遣いが耳元で響き、決意が肌を通じて伝わってくる。こくりと頷く音さえ、戦場の緊張の中で大きく響く。二人の手が重なり、鎌の柄を握る──その瞬間、死の概念が指先から全身へと流れ込み、背筋が凍るような、それでいて奇妙に心地よい感覚が広がる。


「アデル、奴の動きを止めるぞ!」


「ああっ!」


ベルフェルクとアデルバートのマナが交わり、地面から湧き上がる。土の香りと水の冷たさが混じり合い、泥となってクトゥルフの触手を包み込んでいく。ごぽごぽと泡立つ音と共に、触手が固まっていく様子が、まるで生き物が石化していくような不気味さを醸し出す。神性を帯びた泥は、金属のような光沢を放ちながら、がちがちと音を立てて硬化していく。


「やれ!」


ソフィアの姿が変貌する──死神そのものへと。周囲の空気が急激に冷え、息が白く染まる。彼女から放たれる死の概念が、触れるもの全てに終焉の予感を植え付ける。草木が瞬時に枯れ、石さえも風化していく。その力は、不死なる邪神をも例外としない。


漆黒の鎌が、二人の手によって振り下ろされる──


空気が裂ける音。

時が止まったかのような静寂。

そして──


"おおおおおおおおっ!!!!!"


クトゥルフの絶叫が、ルルイエ全体を震撼させる。その咆哮は単なる音ではない──魂そのものを揺さぶり、鼓膜を破らんばかりの振動となって全身を貫く。石造りの建物が共鳴し、ひび割れていく音が連鎖的に響き渡る。地面が波打ち、立っているのも困難なほどの震動が足元から這い上がってくる。


邪神の苦悶に満ちた叫びと共に、黒い血が雨のように降り注ぐ。その一滴一滴が肌に触れる度に、じゅっという音と共に焼けるような痛みが走る。鉄錆と腐敗と、そして何か名状しがたい異界の臭いが混じり合い、呼吸すら困難にする。


それでも──戦士たちは怯まない。

むしろその苦痛さえも、勝利への確かな手応えとして、力強く前へと踏み出していく。


「相手はまだ健在だ、油断するなよ」


レオンの低い警告が、冷水のように全員の意識を引き締める。


勝利の予感に緩みかけていた筋肉が、ぎりと音を立てて硬直する。汗で湿った柄を握り直す音が、あちこちから小さく響く。


クトゥルフから立ち上る黒い靄が、まだ脈打つように蠢いている。その腐敗臭が鼻腔に纏わりつき、むしろ濃くなっていくような──


誰もが呼吸を殺す。心臓の鼓動だけが、耳の奥で不気味に響いていた。

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