魔界へようこそ!
巨木のアジトの中に下り立ち、無事にみんな下船することが出来た。
といっても本来の航路ではなかったので、ハンマーヘッドはタッチアンドゴー並みに俺達を見送り次第ツァーカムへと出発するらしい。
「いやぁああああーーー!!!!この子はうちに入団するのおおおおおおお!!!」
「しませえええええん!!!!ぐはぁあ……っ!?」
「離せ貴様ああああ!!!ディラが潰れるであろう!!?」
「おい本当にやめろ!!白目向いてる!!!」
「ダッチいい加減にしろ!!脳天アンカーで突き刺すぞ!!」
という感じで一悶着あったが、なんとか背骨がダッチにへし折られる前に救出された。
しばらくはハグ恐怖症になるだろう。
てか、なった。確実に。
さめざめとクレイにアンカーで頭を殴られて流血しているのにも関わらず、大したダメージが無さそうなダッチが名残惜しそうに俺を見ているが、俺はそっと視線を外した。
ガチで痛かった。骨。
「助けが欲しいときはいつでも呼ぶのよおおおお!!!入団したいときも呼びなさいいい!!喜んで歓迎するわあああ!!!」
「俺っち達も大賛成だからな!!!いつでも遊びに来いよおおおお!!」
「クレイももどってきていいからなぁあああ!!!」
「ブラッティーもあなたの事血眼になって探してるからいつでも大歓迎よおおおお!!!!」
ディリーのその言葉にクレイがボソリと。
「……そのボスが戦力外通知したんだろーが」
といってた。
ボスはブラッティーという名前なのか。
最後にじゃーなぁー!!!と全員に見送られ、アジトが森の木々で見えなくなった頃に空に浮き上がったハンマーヘッドがツァーカム方面へと飛んでいった。
濃い五日間だったな。
スキルもとんでもない数増えたし。
使いどころあるのかな、これ。【航空術/中級】になっても使いどころないぞ。
でも役に立つものも増えはした。たとえばこの馬車、テセウスは更に乗り心地の良いものに進化していてアスティベラートが喜んでいた。
あの後下船するまでクロイノの中に引きこもっていたからな。
でも毎回ああなるのは可哀想だし、マーリンガンに相談してみよう。
結局作業も全然進まなかったからその相談もね。
外を眺めていたドルチェットが突然そういえばとクレイの方を向いた。
「お前、元空賊だったんだな。みんなから聞いたんだけどよ、空軍の攻撃で目をやられたんだって?」
それにクレイが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「なんでそんな恥ずかしい話しを漏らすかなぁ…。ああそうだよ、狙いをつけている最中、予想外の方向から魔法が飛んできてな…、はぁ……」
相当嫌な記憶だったらしい。
まぁ、俺も狙いをつけてるときに奇襲されての死亡経験あるけど、ムカつくし嫌だし、何より弓兵のプライド的なものが傷つけられたような感じになった。
アーチャー仲間の先輩からよく獲物を狙うときは隙だらけになるから気を付けろって言われてたからなおさらだったし。
「目はもう治らないの?」
治癒魔法で治りそうなもんだけど。
「一種の呪いらしい。これでも完全失明じゃなかったから運が良かったんだぞ」
「そうなのか」
失明の辛さは体験済みだから、確かにまだ見えてる分マシなのかもしれない。
ところで。
「次の目的地ってどうするの?元々の目的地とは違うところに降りちゃったじゃん」
「ああ、それなら問題ない」
クレイが地図を広げる。
「上空から確認を取ってた。残念ながら近くに街はないから野宿になるが、その代わりにダンジョンはある」
「唐突すぎるがナイスだぞクレイ」
目的地であったが、魔界に来て早々ダンジョン潜りはハードスケジュールな気がするがなんせ俺達には時間がない。
ダンジョンがあるからには潜って力を得るしかないのである。
「それはどの方向ですか…?」
手綱を握るノクターンが訊ねた。
もう馬車も勝手に進むからそんなことしなくていいのにというツッコミは不要だ。
クレイがコンパスを取り出し南西を示した。
「この方向だ」
「わかりました…。テツバ、テセウス行きましょう…」
了承と言うように鐡馬が尻尾を揺らすと馬車かダンジョンに向かって進み始めた。
「モンスターが多くない?」
「魔界だからな」
「ああそうか」
散歩がてらで先導していたクロイノによって屠られたモンスターの死骸が転がされているのを見ながらついそう言ったら当たり前のように言われた。
そう考えると今までいたキムラヌート地方は平和だったんだな。
ジルハが「ん?」と顔を上げて前方を見た。
「甘い匂いがする」
「甘い匂い?」
嗅いでもよくわからない。
ドルチェットを見ても首をかしげてた。
その時クロイノが慌てたように戻ってきた。
「どうしたクロイノ?ほう?」
アスティベラートがクロイノを撫でてからこちらを向いた。
「前方に大きな蟻塚がある。おそらくあれが目的のダンジョンであろう」
そう言い終えると同時に、森の間からビルのような大きな砂の塔らしきものが現れたのだった。




