イワシの群れの妨害
倉庫に行くと馬車が俺を見るなり逃げ出した。
比喩ではない。
まるで生き物のように慌ててノクターンの後ろに隠れたのだ。
「……あの、ノクターン?」
目が泳ぎまくるノクターン。
もしかしてまた仲間 (?)が増えた系です?
「その……説明をさせてください…」
「どうぞ」
ノクターンの説明によるとあまりにも船が揺れるので、馬車が自発的にバランスを取って貰った方が損傷が無くなるのではないかと思い至り、つい、と。
「なるほど」
一理はある。
馬車を見る。
しかし、それでは鐡馬は要らないのでは?と思ったが、ノクターンいわくそれはそれ、これはこれらしい。
「ちなみに名前は?」
冗談で訊ねた。
「テセウスです」
既に名前があった。
こんにちはテセウス、また愉快な仲間が増えてしまった。
ナイエン・アィーアツプス・エアーポート街のアジト近くにやってきたのだが、問題が発生した。
山脈を越え、なだらかな平野に不思議な岩の塔がまばらに生えている。
あれがアィーアツプスの特徴である迷宮への入り口だ。
全てではないが、あの塔が大迷宮への入り口と繋がっている。
だけど今俺が見ているのは地上ではなく空。
隣にいるクレイがとある場所を指差した。
「見えるか?あれ」
「あのイワシの群れみたいなの?」
「そうだ。あれが全部空軍だ」
「全部!?」
うわー、まじか。
数えるのも嫌になるくらいなのに全部空軍かぁ。
「迎え撃つのは無理じゃない?」
絶対に数で押される。押し切られる。
そんな俺達をダッチが恨めしそうに。
「……二人ともなんで見えるの?ズルくない?」
といった。
それに俺とクレイ。
「アーチャー舐めんなよ」
「元アーチャーも舐めんなよ。あんくらい余裕だわ」
正直【千里眼/見極め】を使うまでもない。
「お前のスキルの矢を拡散するやつでなんとかならないか?」
「あのな、いくら俺の矢でもな、限界があります」
特にこんな風が吹き荒れている上空では、命中率は著しく下がる。
距離が開けば開くほどにそれは顕著に現れる。
いくら【風乗り】スキル付加してもダメだろうな。
そもそもあれは一本しかできないしね。
「えええー、ディラちゃんでもダメなのぉー?」
「無理です」
むりむり。
せいぜい、そうだな。せいぜい落とせても20機が限度だろう。
少し離れてディリーが──(【観測】スキル持ちなので見えるらしい)──空軍の群れを眺めながら呟いた。
「それにしても多いよなぁ。いつもの五倍はいるだろ」
それに周りの船員達が頷いた。
「……もしかしてだけど、あれかな」
「あれだろうな」
俺の手配書。
はぁー憂鬱だわ。
「ダッチ、方向転換だ。ツァーカム寄りのアジトに降りよう。あそこならまだ手薄だろうし」
「ええー、あそこ好きじゃないのよねー。だって絶対に」
「うおおおおお!!!ツァーカム行きましょう!!行きましょう!!」
「むしろツァーカムに降りましょう!!!」
「だまらっしゃい!!!!! はぁ、こうなるのよ……」
ツァーカムっていうと、……あの別名夜市って言われてるところか。
ブリテニアスオンラインでは未成年侵入不可エリア。
やっぱりちょいちょいダブってンだよなぁ。不思議。
「まぁいいわ。確かにあそこは手薄よね。はいはい、あんたらしっかり働いたらツァーカムに寄らないでもないからキビキビ働きなさい。私の気が変わらないうちに」
パンパンと手を打ちダッチか指示を出すと船員達は物凄い勢いで働き始めた。
キムラヌートのポート街のアジトから出立して五日目。
予想外のルート変更があったものの俺達は遂に目的地であるアィーアツプスのアジトへと着陸することが出来たのであった。




