部屋が宇宙
大嵐が来た。
ダッチ達が言うにはあれを乗り越えれば目的地のナイエンエアーポート街近くのアジトに着けるらしい。……が。
「ぎゃああああああー!!!!!」
「おい踏ん張れ!!吹っ飛ばされるぞ!!!」
結構近場に大きな雷が落下した。
死ぬんじゃない?これ。
「全力で引けぇぇぇ!!!!引きずり込まれるなぁああああ!!!」
「うぐおおおおおおお!!!!」
「ディラちゃん頑張ってえええ!!これ合格したら船乗り一人前よおおおおお!!!」
「入団してませえええええんんん!!!」
雲の切れ目から大きな岩の塊が出現した。
「……でっか…」
巨大な蛇の頭みたいな岩だった。
「峠を越えたぞ!!もう一踏ん張りだ!!」
「おおおおお!!!」
その岩が見えた瞬間に船員達の士気は上がり、仕上げだとばかりに残った体力で飛行船の姿勢制御に全力を費やした。
二時間後。
信じられないくらいカラッと晴れた。
「はははは。嘘みたいだろ?だいたいあんな感じだぜ!」
ずぶ濡れドムドムがずぶ濡れの俺の肩を叩いて去っていく。
後ろを見ると、ついさっき通過した雷雲がまだ渦巻いていた。
下を見ると山脈の様子が変わってきていた。
標高が低くなり、植物が多い。
「はぁーっ、疲れた。戻ろうぜディラ」
クレイに頼み込んで男物の服を調達したドルチェットがいつの間にか混ざって働いていたらしくずぶ濡れの状態で後ろからやってきて思い切り背中を叩かれた。
その隣にいるのはジルハだ。疲労困憊だった。
「ドルチェットはさぁ、変装の才能あるよね」
「は?そんなんねーよ。アホな事言ってないで早く着替えようぜー、風邪引いちまう」
服を絞りながら部屋に戻っていくドルチェットを見ながらジルハに訊ねた。
「本当にドルチェット【変装】スキル持ってないの?」
「持ってないと思う」
「マジかー」
俺なんて新人教育開始直後から凄い勢いで弓兵には必要ないスキルがガンガン増えていっているのに。いつ使うんだよ【航空術/初級】なんて。
「とりあえず戻りましょうか。クレイさんはまだ仕事があるみたいですし」
「そうだね」
ずぶ濡れのままクレイは前方の観測室へと入っていった。
大変だなぁ。
だが、俺は知らなかった。
もっと大変なことになっている人がいることを。
「おおお……」
部屋の前でドルチェットが珍しく困惑した様子で佇んでいた。
「? どうしたの?」
「部屋が、夜空になってる」
「はい?」
どういう事だと見てみたら、確かに夜空になってた。
なにこれ。
部屋いっぱいに宇宙空間が広がってて、それが波打ってる。
でもなんかみたことあるなーと眺めてたら。
「あ」
思い出した。
「クロイノ」
んー?と鳴き声に似た音を微かに放ちながら、宇宙空間が回転してクロイノの顔が部屋から出てきた。
「クロイノだったのか…」
「こんな色でしたっけ…?」
「影潜りの時、こんな色だったよ。クロイノ、アスティベラートは?」
しっぽが出てきてお腹を指した。
中か。
「おいディラなに──」
どぷん。
横から海に落ちたような軽い衝撃でクロイノの中に入る。
この前と同じように暖かい空間。だけど中心の方へ行くとひんやりとした気持ちの良い空気が流れてくる。
そちらの方へ歩いていくと影が浮かんでいた。
「なにしてんのアスティベラート」
「見て分からんか」
アスティベラートは寝そべるように浮いていた。
具合が悪いのかなと思ったけど顔色はずいぶん良い。
なんでかなと考え、気が付いた。
「ここ、揺れないね」
クロイノの揺れはあるけど船の揺れはまったくない。
なるほど、これならあの嵐の中でも耐えられる。
「あのままでは耐えられる自信がなかったゆえな」
「確かに。あの揺れはすごかったもんね」
船が一回転しそうになったもん。
「でも嵐は終わったよ」
「……そうか。なら、空間を縮めてもよかろう」
ずずずとクロイノの空間が小さくなっていく。
「そういえばノクターンは?」
「馬車のところにいる。あそこも大変なことになっておるらしいから」
「言われてみれば確かに」
大丈夫かな。
一応ロエテムもいるから平気と思うけど、確認しないとな。
「あれ?アスティベラートはまだ中にいるの?」
「うむ。もう少し安静にしている」
「わかった」
アスティベラートから出るとドルチェットがクロイノが小さくなったおかげで出来た隙間から部屋の中に入り着替えを始めた。
よし、俺は何も見なかった。
無言で部屋から出ると男子部屋で着替えを済ませてからノクターンのいる倉庫へと向かった。




